徳性・性状の「名前」
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「クラテュロス (対話篇)」の記事における「徳性・性状の「名前」」の解説
続いて、ヘルモゲネスに様々な徳性の名前の説明を求められたソクラテスは、再度、昔の命名者たちは、ヘラクレイトスの万物流動説と同じように、事物は動き、流れ、生成するものだと考えていたことを指摘しつつ、以下のように説明していく。 「プロネーシス」(phronēsis、思慮)という名前は、運動と流動の覚知(phorās kai rhou noēsis)、あるいは、運動の利用(phorās onēsis)から 「グノーメー」(gnōmē、認識)という名前は、生成の(gonēs)考察、すなわち思い巡らすこと(nōmēsis)から 「ノエーシス」(noēsis、覚知)という名前は、新しいものの希求(neou hesis)から 「ソープロシュネー」(sōphrosynē、節制(思慮の健全さ))という名前は、思慮(phronēsis)の保存(sōtēria)から 「エピステーメー」(epistēmē、知識)という名前は、運動している事物に魂がついて行く(hepomenē)ことから 「シュネシス」(synesis、理解)という名前は、推理(syllogismos)と同じく「一つに集める」の意から、あるいは、知識(epistēmē)と同じく「共に行く」(=理解する、synienai)の意から 「ソピア」(sophia、知恵)という名前は、急速な速い運動との接触・把握(epaphē)から 「アガトン」(agathon、善)という名前は、嘆賞に値する速いもの(agaston thoon)から 「ディカイオシュネー」(dikaiosynē、正義)という名前は、正しいものの理解(dikaiou synesis)からであり、さらに、その正しいもの(dikaion)という語は、万物を貫通しつつ(diaion)養育するものの意から 「アディキア」(adikia、不正義)という名前は、貫通者(diaion)としての正義の流れを妨害する意から 「アンドレイア」(andreia、勇気)という名前は、正しいもの(dikaion)に反した流れに逆らって戦闘することを意味しており、反対方向への流れ(anreia)から 「テクネー」(technē、技術)という名前は、心得(nous)を持つこと(hexis)を合成して綴りを改造したもの 「メーカネー」(mēchanē、工夫)という名前は、「広範囲に達成する」の意であり、長さ(mēkos)と達成する(anein)の合成から 「カキア」(kakia、悪徳)という名前は、事物が流れ行く中で、悪く行くもの(kakōs ion)の意 「デイリア」(deilia、臆病)という名前は、魂を縛るあまりにも強い絆(desmos ho lian)から 「アレテー」(aretē、徳性)という名前は、邪魔・妨害なく常に(aei)流動しつつあるもの(rheon)から、あるいは、選択されるべき(hairetē)価値ある状態だから 「カコン」(kakon、悪い)という名前は、推し測るのが難しいので、外国語起源 「アイスクロン」(aischron、醜い)という名前は、常に流動を引き止めるもの(aei ischon ton rhoun)から 「カロン」(kalon、美しい)という名前は、理性の美しさを表したものであり、理性の能力の1つである「名前を定める(命名する)能力」に因み、事物を名付けたもの(kalesan)、名付けているもの(kaloun)から 「シュンペロン」(sympheron、ためになる)という名前は、知識(epistēmē)と同様に、共にぐるりと運動する(symperipheresthai)から 「ケルダレオン」(kerdaleon、得な)という名前は、徳・利益(kerdos)から来ており、これは善(agathon)が全てのものの中を通り抜けて進みながら、全てのものに交じっている(kerannytai)から 「リュシテロウン」(lysiteloun、引き合う・利益ある)という名前は、善が事物を運動の終止(telos)から解放するもの(lyon)なので 「オーペリモン」(ōpherimon、有用な)という名前は、増す(ophellein)から 「ブラベロン」(blaberon、有害な)という名前は、流動をゆわえよう(縛ろう)と欲するもの(boulomenon haptein rhoun)から 「デオン」(deon、なすべき・義務的)という名前は、縛る(dein)から派生しているように感じられ、有害な(blaberon)と同類に捉えられがちだが、昔の本来の綴りは、間を通り抜けていくもの(dion)であり、善(agathon)を意味している 「ゼーミオーデス」(zēmiōdes、損な)という名前は、流れ行くものを束縛するもの(doun to ion)の合成である「dēmiōdes」の綴りを変えたもの 「ヘードネー」(hēdonē、快)という名前は、味わい楽しむこと(onēsis)に帰着する活動(hē praxis)から 「リュペー」(lypē、苦痛)という名前は、この状態にある肉体がこうむる分解(dialysis)から 「アニア」(ania、悲しみ)という名前は、行く(ienai)のを妨げるものなので、これに否定の接頭辞「an-」を付けたもの 「アルゲードーン」(algēdōn、痛み)という名前は、イオニア方言の痛い(algeinon)から 「オデュネー」(odynē、苦しみ)という名前は、苦痛が深く入り込むこと(endysis)から 「アクテードーン」(achthēdōn、悩み)という名前は、運動を妨げる荷物(achthos)から 「カラ」(chara、喜び)という名前は、魂の流動(rhoē)が四方八方にゆったり注ぐこと(diachysis)から 「テルプシス」(terpsis、心地よさ)という名前は、心地よい(terpnon)からで、これは心地よいものが魂を通って這って行くこと(herpsis)から 「エウプロシュネー」(euphrosynē、愉快)という名前は、魂が事物にうまく(eu)くっついて運動する(sympheresthai)ことから 「エピテュミア」(epithymia、欲求)という名前は、猛り(奮起)の方向に進む(epi ton thymon iousa)から 「ヒメロス」(himeros、欲望)という名前は、魂を流動への希求(hesis tēs rhoēs)によって強く引きつけることから 「ポトス」(pothos、あこがれ・惜しさ)という名前は、ある所に(pothi)有ってここには無いことから 「エロース」(erōs、恋)という名前は、流れが外部から目を通して流れ込む(esrhein)から 「ドクサ」(doxa、思いなし)という名前は、追い求め(diōxis)から、あるいは、(魂が事物に向かって矢のように飛んでいくこと(oisis)に由来する「思い」(oiēsis)、射ること(bolē)に由来する「意志」(boulē)、射ること(bolē)を狙うこと(ephiesthai)に由来する「意思する」(boulesthai)/「熟考する」(bouleuesthai)と類似的に)弓(toxon)から 「ヘコウシオン」(hekousion、随意の)という名前は、行くもの(魂)に譲歩する(eikon....ionti)から 「アナンカイオン」(anankaion、強制的な)という名前は、谷間(ankē)に沿って(ana)行くもの(ion)から
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