平面の点でのブローアップ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/24 06:20 UTC 版)
「ブローアップ (数学)」の記事における「平面の点でのブローアップ」の解説
最も簡単なブローアップは平面の点でのブローアップである。この例を通して、ブローアップの一般的な性質をほとんど見ることができる。この節では、ブローアップという操作で得られた空間のことを特に頻繁にブローアップと呼ぶことにする。 ブローアップは結合対応[訳語疑問点](incidence correspondence)として表すことができる。まず、グラスマン多様体(英語版)G(1, 2)で平面の特定の点を通るすべての直線の集合をパラメトライズできたことを思い出す。射影平面P2の点Pでのブローアップ X は X = { ( Q , ℓ ) ∣ P , Q ∈ ℓ } ⊆ P 2 × G ( 1 , 2 ) {\displaystyle X=\{(Q,\ell )\mid P,\,Q\in \ell \}\subseteq \mathbf {P} ^{2}\times \mathbf {G} (1,2)} である。ここで Q は他の点で ℓ {\displaystyle \ell } はグラスマン多様体の元である。Xは射影多様体の直積の閉部分代数多様体なので射影多様体である。これは、組 ( Q , ℓ ) {\displaystyle (Q,\ell )} をQに送るP2への自然な射πを備えている。この射は、Q ≠ Pであるすべての点 ( Q , ℓ ) {\displaystyle (Q,\ell )} がなす開部分集合上で同型写像となっている。これは、直線 ℓ {\displaystyle \ell } がこれら2つの点で決まるからである。しかしQ = Pのときは、直線 ℓ {\displaystyle \ell } はPを通る任意の直線でよい。これらの直線全体はP を通る向き全体の空間に対応しP1と同型である。このP1は例外因子(英語版)(exceptional divisor)と呼ばれる。定義から、これは射影化されたPでの法空間(英語版)(normal space)である。Pは点なので法空間は接ベクトル空間と一致する。したがって例外因子は射影化されたPでの接ベクトル空間と同型である。 ブローアップ上での座標を得るために、結合対応の方程式を求める。P2に斉次座標(英語版)[X0:X1:X2]を与え、これでの点Pの座標を[P0:P1:P2]と書く。射影双対性(英語版)によりG(1, 2)はP2と同型なので、これに斉次座標[L0:L1:L2]を与えることができる。 ℓ 0 = [ L 0 : L 1 : L 2 ] {\displaystyle \ell _{0}=[L_{0}:L_{1}:L_{2}]} に対応する直線はX0L0 + X1L1 + X2L2 = 0を満たすすべての[X0:X1:X2]の集合である。したがって、ブローアップは次の式 X = { ( [ X 0 : X 1 : X 2 ] , [ L 0 : L 1 : L 2 ] ) ∣ P 0 L 0 + P 1 L 1 + P 2 L 2 = 0 , X 0 L 0 + X 1 L 1 + X 2 L 2 = 0 } ⊆ P 2 × P 2 {\displaystyle X=\{([X_{0}:X_{1}:X_{2}],[L_{0}:L_{1}:L_{2}])\mid P_{0}L_{0}+P_{1}L_{1}+P_{2}L_{2}=0,\,X_{0}L_{0}+X_{1}L_{1}+X_{2}L_{2}=0\}\subseteq \mathbf {P} ^{2}\times \mathbf {P} ^{2}} で記述することができる。ブローアップはPの外では同型写像になっている。射影平面の代わりにアフィン平面で考えることによりブローアップをより簡単な方程式で表すことができる。必要ならば射影変換を使うことによりP = [0:0:1]としてよい。アフィン平面X2 ≠ 0の座標をxとyで書くことにする。条件P ∈ ℓ {\displaystyle \ell } はL2 = 0を意味するので、グラスマン多様体をP1に置き換えることができる。このとき、ブローアップは多様体 { ( ( x , y ) , [ z : w ] ) ∣ x z + y w = 0 } ⊆ A 2 × P 1 {\displaystyle \{((x,y),[z:w])\mid xz+yw=0\}\subseteq \mathbf {A} ^{2}\times \mathbf {P} ^{1}} である。座標を変更してどちらかの符号が逆になるようにするほうがより一般的である。このとき、ブローアップは { ( ( x , y ) , [ z : w ] ) ∣ det [ x y w z ] = 0 } {\displaystyle \left\{((x,y),[z:w])\mid \det {\begin{bmatrix}x&y\\w&z\end{bmatrix}}=0\right\}} と書くことができる。こちらの方程式の方が前のものよりも一般化が容易である。 ブローアップを図に描くことは、グラスマン多様体の無限遠点を取り除けば簡単にできる。例えば、w = 1と置けば3次元空間においてy = xzで定義される鞍型曲面という、ありふれたものになる。 また、ブローアップは点の法空間における座標を使って直接的に記述することもできる。この場合もやはりアフィン平面A2で考える。原点での法空間は、原点に対応する極大イデアルをm = (x, y)とすると、ベクトル空間m/m2である。代数的には、このベクトル空間の射影空間化(projectivization)はこれの対称代数のProj(英語版) X = Proj ⨁ r = 0 ∞ Sym k [ x , y ] r m / m 2 {\displaystyle X=\operatorname {Proj} \bigoplus _{r=0}^{\infty }\operatorname {Sym} _{k[x,y]}^{r}{\mathfrak {m}}/{\mathfrak {m}}^{2}} で与えられる。この例の場合には、これは具体的に X = Proj k [ x , y ] [ z , w ] / ( x z − y w ) {\displaystyle X=\operatorname {Proj} k[x,y][z,w]/(xz-yw)} と表示することができる。ここで x と y の次数は0で z と w の次数は1としている。 例外因子が無限遠直線になるようにブローアップを表示することもできる。実数体で考える。P がA2 ⊆ P2の原点と仮定し、L を無限遠直線とする。A2 ∖ {0} 上での"逆写像" t を(x, y)を(x/(|x|2 + |y|2), y/(|x|2 + |y|2))に送るものとして定める。t は単位円Sについての円に関する反転になっている。これはSを固定し、原点を通る直線を保ち、円の内側と外側を入れ替える。tは無限遠直線を原点に送ることで連続写像P2 ∖ {0} → A2に拡張できる。拡張したものもtで表すことにすると、これは原点でのブローアップになっている。実際、P2 ∖ {0} からA2 × P1への写像 f を[a:b:c] ∈ P2 ∖ {0}に対してf ([a:b:c]) = (c t(a, b), [b:a])で定めれば、これは well-defined で、先に定義したブローアップとの同相が得られる。原点のファイバーにおける無限遠直線上の点は、原点を通る直線に対応している。 実数または複素数でのブローアップは連結和 A 2 # P 2 {\displaystyle \mathbf {A} ^{2}\#\mathbf {P} ^{2}} として位相幾何学に表すこともできる。Uを A2 から開単位円板をくり抜いたものとする。同様に、Vを P2 のあるアフィンチャートの中の開単位円板をくり抜いたものとする。ここでは、{[a:b:1] ∈ P2 | |a|2 + |b|2 < 1}をくり抜いたものとする。U と V の境界は単位球面である。これで貼り合わせたものが A 2 # P 2 {\displaystyle \mathbf {A} ^{2}\#\mathbf {P} ^{2}} である。これが原点でのブローアップになっていることを見るために、 A 2 # P 2 {\displaystyle \mathbf {A} ^{2}\#\mathbf {P} ^{2}} からA2 × P1への写像 f を定める。U ⊂ A2 の元(x, y) に対してはf ((x, y)) = ((x, y), [y:x])、V ⊂ P2の元[a:b:c] に対してはf ([a:b:c]) = (ct(a, b), [b:a])と定める。t は先ほどと同様に定義される関数で、バーは複素共役である。これが well-defined であることは簡単にわかる。また、同一視している Uの境界とVの境界で f が well-defined であることやこれがブローアップへの同相であることもわかる。 複素数体上、CP2の連結和を取るこの操作では向きづけられた多様体をできあがりとしたい。このためにはCP2に逆の向きを与えなければならない。記号で書くとブローアップは C 2 # C P 2 ¯ {\displaystyle \mathbf {C} ^{2}\#{\overline {\mathbf {CP} ^{2}}}} ということになる。ここで C P 2 ¯ {\displaystyle {\overline {\mathbf {CP} ^{2}}}} は標準的な向きの逆の向きを与えたCP2である。
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