左官屋とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 左官屋の意味・解説 

左官

(左官屋 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/22 20:38 UTC 版)

中国北京の左官職人

左官(さかん)は、建物土塀などに対し、可塑性のある材料をこて及びこて板で塗り仕上げたり、吹き付ける作業[1]、またそれを専門とする職人のこと。「しゃかん」ともいう[2]。 2020年「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」がユネスコ無形文化遺産に登録され、この中に「左官(日本壁)」が含まれている[3]

概説

イギリスの左官職人

左官工事とは、工作物に壁土、モルタル、漆くい、プラスター、繊維等をこて塗り、吹付け、又は貼り付ける工事のことである[4]石灰、自然繊維などを組み合わせた自然素材からなる塗り壁(または吹き付け壁)を左官壁という[5]。この壁や天井などに塗り付け等を行う材料を左官材料といい、最終仕上げとする場合と壁紙張り、塗装工事、タイル工事等の下地にする場合とがある[6]

左官壁の代表例に漆喰壁がある。また、漆喰壁のように仕上げることができるよう鉱物質の粉末と水を練り合わせたプラスターや、生石灰と水を練り合わせた生石灰クリームなどもある[5]。このほか樹脂リシン壁や聚楽壁(じゅらくへき)のように吹き付けを用いながら塗り壁のような風合いに仕上げるものもある[5]

左官工事には(こて)を使うが、西洋では主に四角形で大型なのに対し、日本では主に剣先タイプのものが使用される[5]

左官壁の利点としては、多様な仕上げができること(光沢のある磨き仕上げやこて跡を残したラフな仕上げ等)、室内の調湿効果や脱臭効果が期待できることが挙げられる[5]。また、左官材料を塗り重ねることにより断熱効果や保温効果も期待できる[5]

左官壁の欠点は、施工及びその後の乾燥に手間と時間がかかることや、職人の技術の差が仕上がりに大きく影響することなどがある[5]。気候や建物壁面の下地の状態によっては左官壁に向かない場合もある[5]

湿式構法

外壁の形式のうちモルタル等の左官材料で仕上げる方式を湿式構法という[7]。モルタルなどの左官材料は水と混ぜて施工することから湿式材料といい、施工時には不定形であることから厚みや形状を自由に調整できる反面、硬化すると収縮等が発生するためひび割れを起こすこともある[7]

モルタル塗り

  • 鏝押え[7]
  • 掻落し[7](かきおとし) - モルタル仕上げなどの表面がほぼ硬くなったところを、こて、金串、ブラシなどで表面をむらなく掻き落とし、粗面に仕上げるもの[8]掻落し粗面仕上げともいう[8]。英語:scratching[8]
  • 化粧ローラー押え[7]

漆喰塗り

  • 鏝磨き[7]
  • 墨入り鏝押え[7]
  • 鏝均し[7]

スタッコ塗り

ショットモルタル

  • ササラ跳ね掛け鏝押え[7]

土壁塗り

  • 土壁風吹き付け[7]
  • 砂壁[7]
  • 聚楽壁[7]

日本建築における左官

浮世絵に描かれた左官(上)

歴史

日本は雨の多い気候であることから、特に日本建築では湿気の調節のために土壁漆喰の組み合わせが畳とともに重要な役割を果たしている[5]

日本家屋の壁は、などを格子状に編んだ小舞下地(こまいしたじ)の両面に、(わら)を混ぜたを塗り重ねる土壁、消石灰等の繊維でつくった漆喰が用いられるが、それらの仕上げに欠かせない職種であり、また、かつては土蔵の外壁やこて絵など、技術を芸術的領域にまで昇華させる入江長八などの職人も現れた。

明治以降に洋風建築が登場すると、ラス煉瓦そしてコンクリートモルタルを塗って仕上げるようになり、日本建築以外にも活躍の場が広がる。

昭和30年代 - 40年代の高度経済成長期には、鉄筋コンクリート構造(RC構造)の建物が大量に造られ、多くの左官職人が必要とされた。戸建住宅においても、当時の内壁は綿壁や繊維壁の塗り壁仕上げが多かった。またこの頃から浴室タイル貼りなども行うようになったほか、基礎工事、コンクリートブロック積み、コンクリート打設(打込み)時の均しなど仕事内容も多様化していった。

しかし、その後、住宅様式の変化や建設工期の短縮化(左官が使う材料である土・漆喰・モルタルは、一般的に乾燥・硬化に時間が掛かる)の流れから、壁の仕上げには塗装クロス等が増え、サイディングパネルや石膏ボードなど、建材の乾式化が進んだ。また、ビルマンション工事では、コンクリートにモルタルを厚く塗らない工法に変わったことや、プレキャストコンクリート工法(工場であらかじめコンクリート製品を製作した後、現場へ運搬し設置する工法)の増加 等の要因により、塗り壁や左官工事が急速に減少、職人数も減り続けている[9]

語源

「左官」の語源は、宮中の営繕を行う職人に、土木部門を司る木工寮の属(さかん、四等官主典)として出入りを許したことから(『日本国語大辞典』他)というものが巷間に広く知られているが、建久元年(1190年)十月に東大寺の再建大仏殿棟上のときに大工そのほかの職人が官位を受領しているが、そのとき壁塗が左官となったこと(『玉葉』)に基づいたものとする説(『国史大辞典』)もある。一方で、実際に「左官」として使われだしたのは桃山時代からという説[10]もある。「沙官・沙翫」と表記されていたこともある。建築の「木」に関わる職を「右官」と呼んでいた説もある。

資格

左官専門の職業能力開発校

左官専門職業訓練認定職業訓練として行う職業能力開発校の例を以下に示す。その他は左官科建築関係の認定職業訓練施設一覧を参照。

  • 旭川左官高等職業訓練校(北海道旭川市
  • 札幌左官高等職業訓練校(北海道札幌市
  • 有川工業株式会社有川工業訓練校(埼玉県新座市
  • 米田左官技術専修職業訓練校(東京都練馬区
  • 呉西左官高等職業訓練校(富山県高岡市
  • 富山県左官高等職業訓練校(富山県左官事業協同組合)
  • 株式会社イスルギ石川県知事認可事業所内職業訓練校
  • 愛知県左官高等職業訓練校(愛知県左官業協同組合)
  • 福知山左官高等職業訓練校(京都府福知山市
  • 京都府左官技能専修学院(京都府)
  • 京都府左官工業協同組合京都左官職業訓練校(京都府)
  • 鳥取県左官業協同組合鳥取県左官高等職業訓練校(鳥取県鳥取市
  • 下野工業高等職業訓練校(山口県岩国市
  • 上内工業株式会社上内左官高等職業訓練校(熊本県
  • オオタ左官訓練センター(熊本県)
  • 永野工業能力開発研修センター(熊本県)
  • 宮崎高等技術専門校(宮崎県宮崎市
  • 大平工務店高等職業訓練校(鹿児島県

左官を主題とする作品

脚注

  1. ^ 左官職種(左官作業) 厚生労働省、2025年6月23日閲覧。
  2. ^ 語源由来辞典
  3. ^ 「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」のユネスコ無形文化遺産登録(代表一覧表記載)について”. 文化庁 (2020年12月17日). 2021年6月5日閲覧。
  4. ^ 業種区分、建設工事の内容、例示、区分の考え方 国土交通省、2025年6月23日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i 間宮良行『家を建てる前に読む住まいの仕組み事典』西東社、2013年、149頁
  6. ^ 能登谷 恭一「左官材料に関するQ&A」『Finex』第18巻第106号、日本建築仕上学会、2006年、35-37頁。 
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 第2編 住まい手向け 長持ち住宅ガイドライン 国土技術総合研究所、2025年6月23日閲覧。
  8. ^ a b c 渡辺優『図解インテリア・ワードブック』建築資料研究社、1996年。 
  9. ^ 「左官職人、30年間で3分の1 工法変化で減少の一途 社寺保存へ後継課題に」『日本経済新聞』2025年2月6日、夕刊、11面。
  10. ^ 現代建築職人事典編集委員会「左官」『現代建築職人事典』工業調査会,p131

参考文献

  • 浅井賢治 他「左官「超実用」テクニック読本」『月刊「建築知識」』2001年9月号増刊,エクスナレッジ
  • 現代建築職人事典編集委員会「左官」『現代建築職人事典』工業調査会,pp131~139,ISBN 4-7693-3061-8

関連項目

外部リンク


「左官屋」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「左官屋」の関連用語

左官屋のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



左官屋のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの左官 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS