州の強大な権限と州法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 03:50 UTC 版)
連邦法で定めることができるとして限定列挙された事項以外については、州または人民に留保され(修正第10条を参照)、各州は、各州の人民の信託に基づく強大な固有の権限(ポリス・パワー)を有している。 各州はこの権限に基づき、それぞれ合衆国憲法とは別に独自の憲法をもち、それぞれの州憲法に基づき州の統治機構を定めている。例えば、州議会が一院制の州もあれば、二院制の州もあり、その他にも州議会の会期、裁判所の種類・名称、訴訟手続、裁判官の任命方法が異なっている。各州の統治機構が異なる一方で、州の憲法の内容は、合衆国憲法とほぼ同じである。人々はむしろ、より詳細で条文数も多い州憲法の方が、合衆国憲法より自州の市民に寛大な権利と特権を付与していると考えている。 各州議会は、「各州が条約を締結すること、貨幣を鋳造すること、私権剥奪法、遡及処罰法あるいは契約上の権利義務を損なうような法律を制定すること、貴族の称号を授与すること」など合衆国憲法第1章第10節が州法で定めることを特に禁止した事項以外について、広範な立法権を有している。 そのため、日本において刑法、民法ないし商法、会社法と呼ばれる重要な法律でさえ、アメリカでは、州ごとに州議会によって州法が制定され、州ごとに州裁判所によって判例法が形成されているという状況にある。当然にその内容も異なるため、事前に十分な調査が必要とされている。 このような状況は、あまりに法的安定性を害することから、民間から各州における規定の整合性を図る運動が起こり、1923年にアメリカ法律協会 (en:American Law Institute) が設立された。同協会は、アメリカ各州の判例法の現状を分析し、おおよその共通事項を、契約法、不法行為法等の各法分野ごとに法典の形にして注釈をつけた本を発行するリステイトメント事業を開始した。リステイトメント自体は法律ではなく、第2次資料 (secondary sources) にすぎないものの、判例においてしばしば引用されるなど高い信頼と権威を得ている。 また、同様の見地から、1952年には、アメリカ法律協会と アメリカ法曹協会 によって組織される統一州法委員会全国会議(en:National Conference of Commissioners on Uniform State Laws:NCCUSL)が、統一商事法典を制定した。ただし、これは法律ではなく、単なる法案モデルであって、実際に州議会で議決されて初めてその州における法律になる。議決に際して、法案モデルの条項を修正すること自由とされており、その例も決して少なくない。 以上のとおり、合衆国においては、州の権限は決して小さなものではなく、憲法に反しない限り、各州は自由に法律を制定することができる固有の強大な権限を有するとされている。この点が日本における憲法第94条に規定された、地方自治体の条例に対する国の法律の優位関係と根本的に異なっている。
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