宇宙の救命ボート
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/01 07:25 UTC 版)
宇宙船や宇宙ステーションにも救命ボートに相当するものが搭載されている。 これには幾つかあり、NASAのアポロ計画で使用されたサターンVロケットには、打ち上げフェイズのトラブル時に緊急脱出用として、宇宙飛行士の乗った指令船の一部を固体ロケットで切り離して一定距離を自力で飛行できる能力が搭載されていた(→ LES )。ロシア/ソビエト連邦の宇宙船ソユーズにも同種システムが採用されており、過去に一度だけだが実際のトラブルに際して使用され、乗員の脱出に成功している(1983年9月26日)。なお同システムはオリオン型宇宙船にも採用予定である。 またスペースシャトルでは打ち上げ・再突入時における安全な脱出方法はその飛行速度もあって搭載されていない。射出座席のような装置も、現実的ではないと考えられている。ただし軌道上のトラブルでシャトルを放棄せざるをえなくなった際に軌道上に脱出するための「レスキューボール」と呼ばれる白いナイロン製の装備(→ Personal Rescue Enclosure ・)が計画されていた。これらはもちろん大気圏への再突入を行うことは不可能だが、宇宙服のように宇宙の厳しい環境から中の人間を保護するための生命維持装置が組み込まれており、これで故障したシャトルから船外活動の訓練を受けた飛行士に運ばれ別のシャトルへの乗り換えを行うか、宇宙空間を漂いながら救助を待つと言うアイデアである。しかし現状では、すぐさま軌道上を漂流するこれらを回収する手段がないため、本採用には至らなかった。直径約86cmで、人1人が1時間程度宇宙空間で生存可能である。 現在運用されている国際宇宙ステーション (ISS) では、同ステーション生活者の緊急脱出用にソユーズの軌道船が接続されている。ソユーズは半年程度で交換される。宇宙ステーションの破損など非常の際には、独立した生命維持システムを搭載するこの宇宙船に乗員らが乗り込んで操縦、大気圏突入を行って地球へ帰還、すぐさま救援が行えない地域や海域への不時着の場合でも、後述する再突入カプセルに用意された各種サバイバルキットを使用して命をつなぐことが想定されている。 アメリカではISSからの大気圏再突入可能な乗員帰還機(CRV)としてXプレーンシリーズのX-38開発を進めていた。この機体は緊急時に自動航行で大気圏突入を行う機能があり、将来的には特別な訓練を受けていない研究者でも、乗り込みさえすれば地球上に帰還できるとしていたが、開発中止となり、緊急脱出機材としてはソユーズのみが運用されている。 なお打ち上げと帰還に際して、事故などによる海面着水時に備えて、打ち上げロケットや大気圏再突入用のカプセルには、サバイバルキットの付属した救命いかだ(水に浮くもの)も搭載されている。 余禄ではあるが、アポロ13号では宇宙船の故障により、月着陸船を元々の設計目的で利用することは無かったものの、これに搭載された生命維持システムが乗組員の生命を繋ぐ文字通りの「救命ボート」となった。この事故は宇宙開発史に残る「輝かしい失敗」と呼ばれ、『アポロ13』として映画化されている。
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