大付属肢の対応関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/26 06:18 UTC 版)
「Megacheira」の記事における「大付属肢の対応関係」の解説
メガケイラ類の大付属肢の由来や他の節足動物の付属肢との対応関係(相同性)は、その類縁関係(後述)を推測するのに重要視される基準の1つであるため、課題として注目を集め、多くの議論をなされていた。これは文献により前大脳性(先節由来)・中大脳性(第1体節由来)・後大脳性(第2体節由来)・ラディオドンタ類(アノマロカリスなど)の前部付属肢に相同・鋏角類(クモ・サソリ・カブトガニなど)の鋏角に相同・大顎類(多足類・甲殻類・六脚類)とArtiopoda類(三葉虫・光楯類など)の第1触角に相同・甲殻類の第2触角に相同まで、数々の解釈を与えられた。 2000年代から2010年代初期にかけて、大付属肢の対応関係がこうして諸説に分かれるのは、それを直接的に証明できる神経解剖学的証拠(大付属肢神経と脳神経節の構造)が長らく不明であったことが大きな理由である。しかし2010年代後期以降では、メガケイラ類の脳神経節(Megacheira#神経系を参照)が判明したことにより、大付属肢は中大脳性/第1体節由来で、すなわち鋏角と第1触角に相同する説が最も広く認められるようになった。 *:諸説のうち2010年代中期以降で主流な対応関係体節(脳神経節) 分類群 先節(前大脳)1(中大脳)2(後大脳)3大顎類(多足類・甲殻類・六脚類)上唇 第1触角 第2触角/(退化) 大顎 Artiopoda類(三葉虫・光楯類など)ハイポストーマ 触角 脚 脚 鋏角類上唇 鋏角 触肢 脚 メガケイラ類(大付属肢前大脳性説)大付属肢 脚 脚 脚 *メガケイラ類(大付属肢中大脳性説)上唇/ハイポストーマ 大付属肢 脚 脚 メガケイラ類(大付属肢後大脳性説)上唇/ハイポストーマ 触角/(退化) 大付属肢 脚 *ラディオドンタ類(前部付属肢前大脳性説)前部付属肢 鰭 鰭 鰭 ラディオドンタ類(前部付属肢中大脳性説)? 前部付属肢 鰭 鰭 2010年代後期で広く認められる、様々な汎節足動物における体節と付属肢の対応関係。 大付属肢に対して提唱された様々な対応関係の詳細(根拠・経緯・有効性など)は、次の通りに示される。 中大脳性/第1体節由来:鋏角類の鋏角、Artiopoda類と大顎類の第1触角に相同 メガケイラ類(アラルコメネウスとレアンコイリア)で見つかった脳神経節の構造から直接に証明される、最も有力で広く認められる対応関係。 上述の神経解剖学的証拠以外にも、中大脳性付属肢のように眼と上唇/ハイポストーマの間にあること、および鋏角との類似性(同じく捕獲用の前端の付属肢で、柄部と鋏に分化した前後の肢節をもつなど)が根拠として挙げられる。 後大脳性/第2体節由来:甲殻類の第2触角に相同 一部のメガケイラ類(フォルティフォルケプス、Kootenichela など)が大付属肢の直前に触角様の構造体をもち、それを中大脳性の第1触角と解釈することによって提唱された対応関係。これにより、触角の直後にある大付属肢は必然的に後大脳性/第2体節由来となり、触角をもたないメガケイラ類は単にそれを二次的に退化したと考えられる。 鋏角に相同する説に踏まえてこの対応関係を提唱する文献もあるが、これは中大脳性/第1体節由来の鋏角を、後大脳性/第2体節由来と誤解釈した古典的な見解(鋏角類#体節と付属肢の対応関係を参照)に基づいたため、無効とされる。 上唇/ハイポストーマとの位置関係や神経解剖学的証拠に対応しないことと、触角様の構造体が形態的に中大脳性付属肢である触角として認められにくいことにより否定的とされる。 ラディオドンタ類の前部付属肢に相同 前部付属肢との類似性(捕獲用の前端の付属肢・柄部に分化した基部の肢節・内突起/爪に鋸歯/分岐があるなど)、およびラディオドンタ類と真節足動物の中間型生物の形態(例えばキリンシアとフェンゼンギアは、大付属肢と同じ位置にある前端の付属肢が前部付属肢的である)を基に提唱される対応関係。 この対応関係は、主に両付属肢を中大脳性/第1体節由来とする説に踏まえて提唱される。少数派であるが、両付属肢を前大脳性/先節由来とする説、もしくは前部付属肢のみ前大脳性/先節由来とする説に踏まえて提唱する文献もある。 2010年代後期では、メガケイラ類(アラルコメネウス)とラディオドンタ類(ライララパクス)で見つかった脳神経節の構造の違い(大付属肢は中大脳性/第1体節由来、前部付属肢は前大脳性/先節由来とされる)により、この相同性は多くの文献に否定的とされるようになった。ただし2020年代以降では、ラディオドンタ類の神経解剖学的証拠の見直し(前部付属肢を中大脳性/第1体節由来とする)により再び相同とされ、また上述の通りに対応する体節と脳神経節が別だとしても相同の可能性がある(ホメオティック遺伝子変異を通じて相同の付属肢を別の脳神経節/体節に反映させた)という、両付属肢の相同性を支持する文献もある。「ラディオドンタ類#前部付属肢の対応関係」および「キリンシア#前端の付属肢の相同性と進化」も参照 前大脳性/先節由来:他の節足動物の上唇/ハイポストーマに相同 前述の前部付属肢に相同する説と、前部付属肢の前大脳性説を同時に踏まえて提唱される対応関係。 メガケイラ類が上唇/ハイポストーマと大付属肢を同時にもつことと、神経解剖学的証拠に対応しないことにより否定的とされる。 他にもイソキシス類の前端の付属肢、フォルフェクシカリスとオッカカリスの前端の付属肢、フーシェンフイア類のSPAs(specialized post-antennal appendages)など、いわゆる「広義の大付属肢」に含まれる、他の化石真節足動物における捕獲用の付属肢との対応関係も議論をなされていた。SPAsの大付属肢との相同性は否定的で、一般に後大脳性/第2体節由来もしくは第3体節由来とされる。それ以外のものに関しては、脳神経節と上唇/ハイポストーマの構造が未だに不明のため、対応関係は不確かである。 詳細は「大付属肢#メガケイラ類以外の_"大付属肢"」を参照
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