多腕
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/24 03:49 UTC 版)
特殊なケースでは、傷ついた腕が2叉または3叉に分枝し異常な腕となって再生することがある。頭足類の腕または触腕が異常な再生を示す例は珍しくない。最初の記録は、1884年9月、相模の観音崎沖にて今井少将が漁獲したマダコ Octopus sinensis d'Orbigny, 1841を1890年、池田作次郎が動物学雑誌にて報告したものとされる。この個体は各腕の1/2-1/3のところから分枝しはじめ、少ないものでは2本(右第2腕)、多いものでは20個以上の分枝に分かれ、腕数は90本を数える。またこの個体はSasaki (1929)のPlate IVに写真が載せられている。 このような奇形タコが発生する原因は、岡田 (1966)では先天的なものと推定しているが、遺伝的であると断言する確証もないとしている。井上 (1969)では、過剰再生というより遺伝的なものとしている。 以降も以下のような記録がある(鳥羽水族館に保管されている標本は別途記述)。 1900年、Corrado Parona による、地中海で獲られたジャコウタコ Eledone moschata Lamarck, 1798 の腕とOctopus vulgaris Lamarck, 1798 の第1腕が2叉に分枝しているという記述。 1929年6月22日、動物学教室の学生(Ichizo Asami)により発見され、東京帝国大学動物学教室博物館に持ち込まれたコウイカ Sepia esculenta Hoyle, 1885の右第4腕。2度分枝し、3本となっている。 1950年3月、静岡県清水港外にて右第2・第3・第4腕が分枝し、腕数22本となっているマダコが記録。 1960年、Kumpfによる、左第3腕が2つに分かれている雄Octopus briareus Robson, 1929の記述。この個体では、通常の腕の基部に見られるような腕間膜が発達している。 1960年10月、兵庫県淡路島の江崎灯台沖にて右第2・第3・第4腕が分枝し、腕数46本となるマダコの報告。捕餌行動が観察された。 1964年8月、神奈川県横須賀市観音崎沖にて腕数19本のマダコの報告。皮下分枝を含む左第1・第2・第3腕及び右第4腕が分枝している。 1989年4月18日、神奈川県横須賀市鴨居沖にて石川三之助によって捕獲された、右第3腕、左右第1腕(切断)を除き、2回以上分岐している腕44本のマダコの報告。4月19日から4月25日まで神奈川県水産試験場で飼育された。 1990年3月27日、神奈川県横須賀市猿島沖にて柴崎正二によって捕獲された、全ての腕が1回以上分岐した腕55本のマダコの報告。横須賀市東部漁業協同組合で1990年4月2日まで飼育された。 2004年春、フォークランド諸島沖でスペインのトロール漁船によって漁獲された雌のミナミニュウドウイカ Onykia (Moroteuthis) ingens (E. A. Smith, 1881)の2叉分枝した触腕。 2012年、メキシコのEl Faro Puerto Angelで獲られた雌Octopus hubbsorum Berry, 1953の2叉分岐している第2腕。 ギリシャ、イラクリオンのCretaquariumにおけるタコの腕の3叉分枝(Panagiotis Grigoriou による報告)。野生での傷害により形成された。 また、鳥羽水族館には三重県沖から漁獲された多腕となったマダコ Octopus sinensis d'Orbigny, 1841が度々持ち込まれ、うち85本と56本の2標本が展示されている。この2標本のうち、85本のものは1955年の開館直後から展示されている。またその数年後に国立科学博物館に貸し出され、昭和天皇がご覧になった「天覧標本」として知られる。鳥羽水族館には以下の標本が保管されている。 1957年8月1日に三重県鳥羽市答志島から漁獲された腕85本のマダコ(今井 (1992)では)腕数72本とされる) 1964年8月10日に三重県鳥羽市答志島から漁獲された腕9本のマダコ 1964年10月14日に三重県北牟婁郡海山町から漁獲された腕56本のマダコ(全ての腕が分枝している) 1984年12月31日に三重県度会郡二見町から漁獲された腕25本のマダコ 1993年1月13日に三重県鳥羽市答志島から漁獲された腕45本のマダコ 1997年12月17日に三重県鳥羽市答志島から漁獲された腕18本のマダコ 2000年1月13日に三重県鳥羽市答志島から漁獲された腕31本のマダコ また、腕の数が少ないタコも発見されている。1960年9月には明石海峡にて腕数6本のマダコ O. sinensis、同年11月にはそれぞれ腕数7本のマダコ及びイイダコ Amphioctopus fangsiao (d'Orbigny, 1839)が発見されている。
※この「多腕」の解説は、「腕 (頭足類)」の解説の一部です。
「多腕」を含む「腕 (頭足類)」の記事については、「腕 (頭足類)」の概要を参照ください。
- >> 「多腕」を含む用語の索引
- 多腕のページへのリンク