多様性と進化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/24 15:21 UTC 版)
新翅類の系統と鼓膜器官の進化 新翅類 積翅目 Plecoptera 網翅上目 ゴキブリ目 Blattodea 等翅目 Isoptera カマキリ目 Mantodea Dictyoptera ガロアムシ目 Grylloblattodea 革翅目 Dermaptera 直翅目 Orthoptera ナナフシ目 Phasmatodea 紡脚目 Embioptera 絶翅目 Zoraptera 準新翅類 噛虫目 Psocoda シラミ目 Phtiraptera 半翅目 Hemiptera 総翅目 Thysanoptera Paraneoptera 撚翅目 Strepsiptera 内翅類 鞘翅目 Coleoptera 広翅目Megaloptera ラクダムシ目 Raphidioptera 脈翅目 Neuroptera 長翅目 Mecoptera 隠翅目 Siphonaptera 双翅目 Diptera 毛翅目 Trichoptera 鱗翅目 Lepidoptera 膜翅目 Hymenoptera Endopterygotes Neoptera Yager (1999) による、Kristensen (1991) に基づく新翅類の系統樹の一例。鼓膜器官は着色した目において確認されている。目レベルにおいて、鼓膜器官の獲得が複数回独立して起きたことがわかる。また、本文で述べるとおり、目以下のレベルにおいても独立した進化・二次的な喪失がしばしば発生している。 鼓膜器官は新翅類において、すくなくとも十数回以上独立して進化したと考えられ、その位置や外部形態、解剖学的構造、神経生理学的特性などは多様である。たとえば、鼓膜器官の位置は昆虫の口器、脚、翅、胸、腹など多岐にわたり、分類群ごとに異なる傾向がある。目レベルでは、最低でも下記の7つの目において鼓膜器官の存在が認められているが、目内においても、複数回の独立した鼓膜器官の獲得や二次的な喪失がしばしば認められる。 鼓膜器官によってもたらされる高度な聴覚の生態学的意義は、1)捕食者の検知と捕食の回避、2)種内コミュニケーション、3)寄主の探索、の三つに大別できると考えられる。一般に、聴覚の初期進化においては、1)の捕食者検知・捕食回避 が重要であったと考えられ、とくにコウモリの反響定位との関係がしばしば考察の対象となる。また、2)の音を信号としてやりとりする種内音響コミュニケーションとの関係も聴覚の進化を考えるうえで重要なトピックである。鼓膜器官の多様性は高く、進化的経緯も分類群ごとに異なっていると考えられる例が多い。1)の捕食者検知・捕食回避のための手段として進化してきた聴覚が、のちに種内コミュニケーションのために用いられるようになったと推測される例も多く、概説するのは難しい。 昆虫を含む多くの節足動物において、自身が接している物体(基質)を伝わる振動の検知能力(振動覚)はひろく一般的であるが、空気中や水中を伝わる音波の検知能力(聴覚)は比較的まれである。通常、振動は基質を介して一次元的または二次元的にしか伝わらないのに対して音波は三次元的に拡散するほか、減衰のパターンも異なる場合が多く、両者をなんらかの信号として用いる場合、とくに信号が届く範囲には差が生まれやすい。環境中における振動と音のふるまいの違いが昆虫の聴覚進化と関連している可能性は高い。鼓膜器官は、比較的遠距離を伝わる「音」の知覚に適した感覚器官であり、聴覚を有する昆虫の多くが鼓膜による音受容を行っている。 鼓膜器官の進化史を解明するにあたっては、さまざまなアプローチが必要となる。たとえば、鼓膜器官が昆虫の体のさまざまな部位に現れるのは鼓膜器官の元となる弦音器官が昆虫の各体節に散在するからであるが、鼓膜器官の多様な位置がどのように決定されるのかについては生態学的な観点以外にも、発生学的・神経生理学的な観点から考察が行われる。
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