同定と特徴づけ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/09 02:31 UTC 版)
伝統的に、エンハンサーはレポーター遺伝子を用いたエンハンサートラップ(英語版)によって同定されてきた。キイロショウジョウバエDrosophila melanogasterなどの遺伝的追跡が可能なモデルでは、P因子(英語版)トランスポゾンを用いてlacZ遺伝子などのレポーターコンストラクトをゲノムにランダムに組み込むことができる。レポーターがエンハンサーの近傍に組み込まれた場合には、レポーターの発現はエンハンサーが駆動する発現パターンを反映したものとなる。そのため、LacZの発現と活性によるハエの染色と、組み込み部位の周囲の配列のクローニングにより、エンハンサー配列を同定することができる。 ゲノミクスとエピゲノミクス技術の発展により、シス調節モジュール(CRM)の発見の様相は劇的に変化している。次世代シーケンシング(NGS)技術によって機能的CRMの発見のためのハイスループットなアッセイが可能となったことで、転写因子結合部位モチーフの大規模ライブラリや、アノテーションと検証が行われたCRMのコレクション、多くの細胞種での広範囲にわたるエピジェネティックなデータなど、利用可能なデータは大幅に増加し、計算によるCRMの正確な発見は達成可能な目標となっている。NGSベースのアプローチの例としてはDNase-Seq(英語版)と呼ばれるものがあり、CRMが含まれる可能性のある、ヌクレオソームを含まない領域や開いたクロマチン構造の領域の同定が可能である。ATAC-seq(英語版)などのより近年の技術では、より少ない出発物質での解析が可能である。ヌクレオソームを含まない領域はDamメチラーゼを発現させることでin vivoで同定することができ、細胞種特異的エンハンサーの同定をより良く制御できるようになった。計算的手法には、比較ゲノミクス、既知または予測された転写因子結合部位のクラスタリング、既知のCRMで学習した教師付き機械学習アプローチなどがある。これらの手法はいずれもCRMの発見に有効であることが証明されているが、それぞれに考慮すべき点や限界があり、またそれぞれ多かれ少なかれ偽陽性の同定が生じる。比較ゲノミクスの手法では、非コード領域の配列保存性がエンハンサーの指標となる。複数の生物種の配列がアラインメントされ、計算によって保存領域が同定される。その後、同定された配列はGFPやlacZなどのレポーター遺伝子に付加され、胚に注入することでエンハンサーによるin vivoでの遺伝子発現パターンが決定される。レポーターのmRNAの発現はin situハイブリダイゼーションによって可視化することができ、翻訳やタンパク質のフォールディングなどの複雑な過程の影響を受けることなく、より直接的にエンハンサー活性を測定することが可能となる。発生に重要なエンハンサーの配列は保存されていることを示す十分な証拠があるものの、他の研究では、一次配列の保存性がほとんどない場合でもエンハンサーの機能が保存されている場合があることが示されている。例えば、ヒトのRETエンハンサーはゼブラフィッシュのものと比較して配列はほとんど保存されていないが、両者の配列をそれぞれ付加したレポーター遺伝子をゼブラフィッシュに導入した場合に駆動される発現パターンはほぼ同じである。同様に、高度に多様化した昆虫(約3億5000万年前に分岐したと考えられる)では、いくつかの重要な遺伝子の類似した遺伝子発現パターンは、類似した構成のCRMによって制御されているものの、これらのCRMにはBLASTなどの標準的な配列アラインメント法で検出できるほどの配列保存性はみられなかった。
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