刑法及び行政法における慣習法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/05 02:16 UTC 版)
「法解釈」の記事における「刑法及び行政法における慣習法」の解説
近代刑法においては、「法律なければ犯罪なく、法律なければ刑罰なし」という法格言に表されるように、どのような行為が犯罪となり、どのような刑罰が科されるのか、あらかじめ成文法で定められていなければならないという罪刑法定主義の原則があるため、慣習法や#条理を独立の法源とすることは許されない。もっとも、例えば「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」とする、日本刑法35条のように、成文の「法令」によらない慣習法の解釈に委ねたとみられる規定もあることから、成文法規の解釈に当たって慣習や条理を考慮することまで排除されるわけではない。 行政法分野においても、法的安定性の確保及び三権分立による国家権力の恣意的行使の抑制という見地から、現に存在している法律による行政の原理に依拠した国家権力のコントロールが重要になる。つまり、慣習法の成立する余地は本来少ない。 したがって、この観点からは、日本において広く行われている行政指導には批判がある。行政指導に従うべき法的な義務は無いが、これに抵抗することは実際上困難なことが多く、違背すると法令の根拠があるとは限らないにもかかわらず、しばしば事実上の不利益を受けるからである。 もっとも、問題のある行為に対して、いきなり法令の適用という最終手段に訴えることを抑制しつつ、望ましい適法状態の具体的実現を図ることによって、具体的妥当性を実現しうるという積極的意義をも認めることができる。 一方で、行政指導を信頼してした私人の行為に対し、行政機関が先の行政指導と矛盾した扱いをする場合、信義誠実の原則違反、禁反言の法理に対する違反を理由に(→#概念法学と自由法論)、不利益を受けた私人の側からの行政訴訟を提起される場合が多々あり、行政法学上重要な解釈問題になっている。 また、税法分野は特に法的安定性への要請が強い領域であり、近代法の下では租税法律主義が妥当するから、法解釈において慣習法の入り込む余地は更に少なくなる。租税は国民から強制的に財産権を奪うものである以上、近代法治主義の理念に基づき、立法機関の承認を受けたものでなければならないからであり、租税法律主義の趣旨を損なわない範囲で、規定の細部を政令などに委任することが許されるだけである。逆に言えば、法律に特別な規定のない限り、政府の先例それ自体には原則として裁判官への拘束力は認められないが、行政庁における長年にわたる取扱例が、広く一般国民の間に社会的な法的確信を得るに至った場合、これを無視することは法的安定性を害するから、行政先例法と呼ぶ一種の慣習法として、先例にも解釈上一定の法的拘束力が認められる場合がある(→#法解釈の主体)。
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