主張・抱負
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『文藝時代』は、芸術意識を本源的に新たにし、「新しい生活と新しい文藝」を会得することを創刊目的とし、「宗教時代より文藝時代へ。」という抱負と使命感で『文藝時代』と名付けられた。それは、かつて人間救済の役割を果たしていた宗教が力を失った近代の世で、「宗教」に代わるものとしての「文藝」時代という願いが込められていた。 従来「宗教」が占めていた位置を、将来「文藝」が占めることを信じつつ、「我々の子孫」が「文藝の御寺に詣でて生くべき道を知る」ための文藝への精進は、同人自身も使命感を鼓舞し生活感情を正しくする、と発起人の川端康成は掲げた。 また、「文藝の分る知識階級は興味中心の読物以外に、人生観と芸術感を求めてゐる」として、「人生観と芸術感」のある文藝が生まれない限り、「いかにアメリカニズムが横行しようとも、人々は決して安らがない」と断言し、新しい感覚の手法ばかりを嬉しがるのではなく、その新感覚を通して書き現わす「本体」(人生)を忘れず、「新しい人生観と生活と」が大事であるとして以下のように主張した。 今日の新進作家に時折見られる「生活的デイレツタンチズム」や、新奇を求める気持や、焦燥や、明るい移り気や、ニヒリスチツクな生活態度は、私達の求めるべきものではない。世界が今求めてゐるのは偉大な新しい常識である。明日の日の常識である。新しい時代の常識となり得る程に普遍性と力強さを備へた人生観である。新しい時代の文芸は哲学と結びついて、古き世の宗教に代らなければならないのであると、私は考へてゐる。 — 川端康成「文壇的文学論」 新進作家である自分たち自身の「生活と芸術との局面打開」が、すなわち「文壇そのものの局面打開」や「文藝界の更新」になると意志表示をした川端は、新しい文藝を創造しようという信念を持つ新人を薔薇の花に喩え、遠くに咲く一輪の薔薇は人目に知られないとしても、それと同じ遠さにある「薔薇の花束は人の目を見開かせる」として、同人誌『文藝時代』は「文藝界の機運」を動かそうとする自分たちが「新しい時代の精神に贈る花束」であるとした。 また、「いつの世どこの国に、前時代の文藝への反逆か或はそれからの飛躍でなかつた新しい文藝があつたか」と意気込みをみせながら、自分たちを登山家にも喩え、「尊敬すべき先進諸氏よりも遙かに低い麓から諸氏よりも高い山巓を仰いで一歩一歩登ろうとする今の我々に、この雑誌は六根清浄の金剛杖である」とし、「文学史上に画時代的な使命」を果たす覚悟を示した。 こうした既成文芸に対抗する新進作家の団結の意志を知った中村武羅夫は、文壇生活を長いことやってきた中でこんな乱暴な団体は初めてだと『新潮』誌上で憤慨を示した。
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