世界三大レース
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/16 21:40 UTC 版)
世界三大レース(せかいさんだいレース、Triple Crown of Motorsport)とは、モナコグランプリ、インディ500、ル・マン24時間レースという3つの自動車レースに対する伝統的な呼称である。
概要
今日世界三大レースに数えられるレースは、いずれもモータースポーツの歴史とほぼ等しい長い歴史と高い人気を持つ。現在では
- モナコGP = F1世界選手権
- インディ500 = インディカー・シリーズ
- ル・マン24時間レース = FIA 世界耐久選手権
の看板レースを担っている。
これらのレースは、それぞれが大きく異なる特徴を持つ。
モナコグランプリ
 
   - 開催地 - モンテカルロ市街地コース(3.34 km)/モナコ公国・モンテカルロ
- 初開催 - 1929年
- F1ドライバーたちが揃って「選手権で最も重要なレース」と称する市街地レース。シケインやタイトコーナーが連続するテクニカルコースでは、F1においてすら決勝レースの平均速度が150 km/h程度である。また、道幅が狭くエスケープゾーンも少ないため些細なミスも許されない。ゆえにセーフティーカーの出動率が52%にも達する。ドライバーの技量も大きく問われる難しいレースであり、「モナコでの一勝は、他のレースでの三勝に匹敵する」と言われる。さらにF1のサーキット中最もオーバーテイクが難しいと言われ、予選での速さが重要になる。
インディ500
 
   - 開催地 - インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(2.5 miles)/アメリカ合衆国・インディアナポリス
- 初開催 - 1911年
- 観客動員数40万人を誇るアメリカ最大のモータースポーツイベント。決められた距離を走るスプリントレースながら総走行距離が500マイル(約806 km)と非常に長く、ドライバーはその中を350 km/hを超える速さで走り続ける。クラッシュが度々起こるため何度もレースがリスタートされることや、フルコースコーション中の一斉ピットワーク、ストレート、ターンを問わずに続くサイド・バイ・サイド、ドラフティング(スリップストリーム)を駆使したオーバーテイクなどによって頻繁に順位が入れ替わる。そのため最終周の残り数メートルまで誰が勝つか分からないエンターテイメント性に富んだレースが展開される。
ル・マン24時間レース
 
   - 開催地 - サルト・サーキット(13.629 km)/フランス・ル・マン
- 初開催 - 1923年
- 耐久レースのなかでは最も長い歴史をもち、「世界最高の草レース」と呼ばれることもある。世界各国で行われる耐久レースのほとんどはル・マンのフォーマットに準じている。サルト・サーキットは長距離の高速サーキットで、かつコースのほとんどに公道を利用しているため路面はバンプが険しく、シャシとエンジンへの負担が大きい。さらに夕方、夜間、日中と移り変わるコンディションの中で走らなければならない。そのためマシンには高い速度と優れた信頼性、ドライバーには集中力はもちろん、環境の変化に対応する力と相互のチームワークが求められる。
各レースの比較
| モナコGP | インディ500 | ル・マン24時間 | |
|---|---|---|---|
| 主催団体 | 国際自動車連盟(FIA) | IndyCar | フランス西部自動車クラブ(ACO) | 
| 決勝レースの 開催時期 | 5月中旬から下旬 (決勝は日曜日) | 戦没者追悼記念週間 (メモリアルウィーク)の日曜日 (5月最終月曜日の前日) | 1年で日照時間が 最も長い土曜日から日曜日 (例年は6月中旬) | 
| 出走台数 | コンストラクター数×2台 | 33台 | 最大55台 | 
| スポット参戦 | 不可 (リザーブドライバーの代走は可) | 可 | 可 | 
| スタート方式 | 2列スタンディングスタート | 3列ローリングスタート | ル・マン式スタート(1969年まで) 2列ローリングスタート(1971年から) | 
| 使用するマシン | 各チームが選手権向けに 開発したフォーミュラ1カー | インディカー・シリーズで使用される ものと同じフォーミュラカー | シャシーメーカーや乗用車メーカーが開発、購入した プロトタイプレーシングカーまたはGTレーシングカー | 
| レース距離/周回数 | 260km/78周 | 500マイル/200周 | - | 
| レース時間 | 1時間40分-2時間 | 3時間前後 | 24時間 (土曜日の現地時間16時~翌日16時) | 
| 周回平均速度:最高速度 (およその値) | 160km/h:280km/h | 220mph(354km/h):230mph(370km/h) | 240km/h:330km/h | 
| 車両一台あたりの ドライバー人数 | 1人 | 1人 | 3人 | 
主な記録
 
    
   2025年時点の主な記録。
複数レース勝者
この「世界三大レース」を語る上で最もよく取り上げられるのは、複数のレースを勝利したドライバーについての記録である。これが重んじられるのは、前述の通り3レースがそれぞれ異なる性質であり、ドライバーに要求される技術も変わってくるためである。
ドライバー
この3レース全てを制覇したドライバーはグラハム・ヒルのみで、他、3レース中2レースを制したドライバーが7名いる。この内、ヒルがモナコで挙げた5勝、A.J.フォイトがインディ500で挙げた4勝は、それぞれのレースで当時の史上最多勝記録となるものであった。
三大レース中の複数のレースにおいて優勝を同年中に達成した例としては、1967年にフォイトがインディ500とル・マンの両方で優勝した例があるのみである。
2025年現在、この8名のドライバーの内、現役のレースドライバーはフェルナンド・アロンソのみである(ファン・パブロ・モントーヤ、アロンソ、フォイトを除く5名は故人)。
| ドライバー | モナコGP優勝 | インディ500優勝 | ル・マン優勝 | 
|---|---|---|---|
|  タツィオ・ヌヴォラーリ | 1932年 | - | 1933年 | 
|  モーリス・トランティニアン | 1955年、1958年 | - | 1954年 | 
|  A.J.フォイト | - | 1961年、1964年、1967年、1977年 | 1967年 | 
|  ブルース・マクラーレン | 1962年 | - | 1966年 | 
|  グラハム・ヒル | 1963年、1964年、1965年、1968年、1969年 | 1966年 | 1972年 | 
|  ヨッヘン・リント | 1970年 | - | 1965年 | 
|  ファン・パブロ・モントーヤ | 2003年 | 2000年、2015年 | - | 
|  フェルナンド・アロンソ | 2006年、2007年 | - | 2018年、2019年 | 
コンストラクター
この3レース全てを制覇したコンストラクター(車体製造者)はマクラーレンのみである。合併など存続をした組織を含めるとメルセデスも含まれる。
| コンストラクター | モナコGP優勝 | インディ500優勝 | ル・マン優勝 | 
|---|---|---|---|
|  プジョー | - | 1913年、1916年、1919年 | 1992年、1993年、2009年 | 
|  メルセデス | 1935年、1936年、1937年、2013年、2014年、 2015年、2016年、2019年 | 1915年[注釈 1] | 1952年、1989年[注釈 2] | 
|  ブガッティ | 1929年、1930年、1931年、1933年 | - | 1937年、1939年 | 
|  アルファロメオ | 1932年、1934年、1950年 | - | 1931年、1932年、1933年、1934年 | 
|  マセラティ | 1948年、1956年、1957年 | 1939年、1940年 | - | 
|  フェラーリ | 1952年、1955年、1975年、1976年、1979年、 1981年、1997年、1999年、2001年、2017年、 2024年 | - | 1949年、1954年、1958年、1960年、1961年、 1962年、1963年、1964年、1965年、2023年、 2024年、2025年 | 
|  ロータス[注釈 3] | 1960年、1961年、1968年、1969年、1970年、 1974年、1987年 | 1965年 | - | 
|  マクラーレン | 1984年、1985年、1986年、1988年、1989年、 1990年、1991年、1992年、1993年、1998年、 2000年、2002年、2005年、2007年、2008年、 2025年 | 1972年、1974年、1976年 | 1995年 | 
|  ルノー | 2004年、2006年 | - | 1978年[注釈 4] | 
最多勝・連勝
 
   モナコGPの最多勝記録はアイルトン・セナ(6勝)が持ち、これに5勝のグラハム・ヒル、ミハエル・シューマッハ、4勝のアラン・プロストが続き、彼らを含め、2勝以上を挙げたドライバーの数は計17名に上る。連勝記録については、セナが持つ5連勝という記録に対して続くのはヒル(1963年-1965年)、プロスト(1984年-1986年)、ニコ・ロズベルグ(2013年-2015年)が持つ3連勝という記録であり、セナの記録がやや突出したものとなっている。
インディ500の最多勝記録は4勝で4名が並び(現役のドライバーはエリオ・カストロネベスのみ)、3勝を挙げたドライバーも6名に及ぶ。2勝以上を挙げたドライバーは計21名に上る。連勝記録は少なく、2連勝を達成した6名のみであり、3連勝以上を達成したドライバーは存在しない。
ル・マン24時間レースにおける最多勝記録はトム・クリステンセンが持つ9勝であり、クリステンセンが2005年に7勝目を挙げる以前はジャッキー・イクスが1982年までに樹立した通算6勝が最多勝記録であった。現在ではこれに5勝のデレック・ベル、フランク・ビエラ、エマニュエル・ピロの3名が続き、4勝のドライバーは4名を数える[1]。連勝記録としてはクリステンセンが2000年-2005年に達成した6連勝が突出したものとなっており、2番手以下は3連勝で8名(ウルフ・バーナート、オリビエ・ジャンドビアン、アンリ・ペスカロロ、ピロ、ビエラ、マルコ・ヴェルナー、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴)が並ぶ。
| 分類 | モナコGP | インディ500 | ル・マン | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| ドライバー | ||||||
| 最多勝 | 6 |  アイルトン・セナ 1987年、1989年、1990年、1991年、1992年、 1993年 | 4 |  A.J.フォイト 1961年、1964年、1967年、1977年  アル・アンサー 1970年、1971年、1978年、1987年  リック・メアーズ 1979年、1984年、1988年、1991年  エリオ・カストロネベス 2001年、2002年、2009年、2021年 | 9 |  トム・クリステンセン 1997年、2000年、2001年、2002年、2003年、 2004年、2005年、2008年、2013年 | 
| 連勝 | 5 |  アイルトン・セナ 1989年-1993年 | 2 |  ウィルバー・ショウ 1939年-1940年  モーリ・ローズ 1947年-1948年  ビル・ブコビッチ 1953年-1954年  アル・アンサー 1970年-1971年  エリオ・カストロネベス 2000年-2001年  ジョセフ・ニューガーデン 2023年-2024年 | 6 |  トム・クリステンセン 2000年-2005年 | 
| コンストラクター | ||||||
| 最多勝 | 16 |  マクラーレン 1984年、1985年、1986年、1988年、1989年、 1990年、1991年、1992年、1993年、1998年、 2000年、2002年、2005年、2007年、2008年、 2025年 | 25 |  ダラーラ[注釈 5] 1998年、1999年、2001年、2002年、2005年、 2006年、2007年、2008年、2009年、2010年、 2011年、2012年、2013年、2014年、2015年、 2016年、2017年、2018年、2019年、2020年、 2021年、2022年、2023年、2024年、2025年 | 19 |  ポルシェ 1970年、1971年、1976年、1977年、1979年、 1981年、1982年、1983年、1984年、1985年、 1986年、1987年、1994年、1996年、1997年、 1998年、2015年、2016年、2017年 | 
| 連勝 | 6 |  マクラーレン 1988年-1993年 | 21 |  ダラーラ[注釈 5] 2005年-2025年 | 7 |  ポルシェ 1981年-1987年 | 
日本勢の成績
ドライバー
日本人ドライバーで世界三大レース優勝者はこれまで6名(ル・マン5名、インディ1名)となっている。
| 年 | ドライバー | マシン | チーム | チームメイト | 
|---|---|---|---|---|
| ル・マン24時間レース | ||||
| 1995年 | 関谷正徳 |  マクラーレン F1 GTR |  国際開発レーシング |  ヤニック・ダルマス  J.J.レート | 
| 2004年 | 荒聖治 |  アウディ・R8 |  アウディスポーツジャパン・チーム郷 |  トム・クリステンセン  リナルド・カペッロ | 
| 2018年 | 中嶋一貴 |  トヨタ・TS050 HYBRID |  トヨタ・ガズー・レーシング |  セバスチャン・ブエミ  フェルナンド・アロンソ | 
| 2019年 | ||||
| 2020年 |  セバスチャン・ブエミ  ブレンドン・ハートレイ | |||
| 2021年 | 小林可夢偉 |  トヨタ・GR010 HYBRID |  マイク・コンウェイ  ホセ・マリア・ロペス | |
| 2022年 | 平川亮 |  セバスチャン・ブエミ  ブレンドン・ハートレイ | ||
| インディ500 | ||||
| 2017年 | 佐藤琢磨 |  ダラーラ(  ホンダ) |  アンドレッティ・オートスポーツ | |
| 2020年 |  レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング | |||
これまでF1に参戦してきた日本人ドライバーは、いずれもモナコGPを優勝しておらず、2011年に小林可夢偉が記録した5位が決勝レースの最高成績となっている。また、世界三大レースの3つ全てに出走経験がある日本人ドライバーは中野信治のみである。
-  
     
    日本人で(アジア人としても)初めてインディ500を制した佐藤琢磨
-  
     
    日本人で初めて日本のコンストラクター(トヨタ)でル・マン24時間耐久レースを制した中嶋一貴
-  
     
    日本人で2人目の日本のコントラクター(トヨタ)でル・マン24時間レースを制した小林可夢偉
コンストラクター
日本のコンストラクター(車体製造者)としては、これまでル・マンで2メーカーが優勝している。
| 年 | コンストラクター | マシン | チーム | ドライバー | 
|---|---|---|---|---|
| ル・マン24時間レース | ||||
| 1991年 |  マツダ | マツダ・787B |  マツダスピード |  フォルカー・ヴァイドラー  ジョニー・ハーバート  ベルトラン・ガショー | 
| 2018年 |  トヨタ | トヨタ・TS050 HYBRID |  トヨタ・ガズー・レーシング |  セバスチャン・ブエミ  中嶋一貴  フェルナンド・アロンソ | 
| 2019年 | ||||
| 2020年 |  セバスチャン・ブエミ  中嶋一貴  ブレンドン・ハートレイ | |||
| 2021年 | トヨタ・GR010 HYBRID |  マイク・コンウェイ  小林可夢偉  ホセ・マリア・ロペス | ||
| 2022年 |  セバスチャン・ブエミ  ブレンドン・ハートレイ  平川亮 | |||
モナコGPにおいては2006年にホンダ・レーシング・F1チームが記録した4位が最高位である(ドライバーはルーベンス・バリチェロ)。インディ500にはコンストラクターとして参戦した例がない。
エンジンサプライヤー
エンジンサプライヤー(エンジン製造者)としては以下の通り。なお、ル・マン24時間はコンストラクターでの優勝と同じ場合は割愛する。
| モナコGP | インディ500 | 
|---|---|
|  ホンダ(1987年-1992年、2021年)[注釈 6]  無限ホンダ(1996年) |  トヨタ(2003年)  ホンダ(2004年-2012年、2014年、2016年-2017年、2020年-2022年)[注釈 7] | 
注釈
出典
- ^ “Track Record” (英語). フランス西部自動車クラブ. 2024年6月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年6月26日閲覧。
参考文献
世界三大レース
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 08:56 UTC 版)
詳細は「世界三大レース」を参照 下記の3つのレースは「世界三大レース」と呼ばれる。 インディ500(アメリカ合衆国) モナコグランプリ(モナコ) ル・マン24時間レース(フランス) これらのレースはそれぞれが「レースの象徴」といっても過言ではなく、同時に第二次世界大戦前から始まっているほどの長き伝統のあるレースでもある。 インディ500が開催されるインディアナポリス・モーター・スピードウェイでは、平均時速が約350km/hに達する超高速のレースが3時間にわたって繰り広げられる。 モナコグランプリはモナコ公国の中心地であるモンテカルロ市街地コースで行われるレースである。F1マシンという超高性能車両を駆使して繰り広げられるこのレースは平均時速160km/h程度とF1では超低速コースではあるものの、コース幅が非常に狭く、エスケープゾーンもほとんどないためにミスが許されない。このようなレースを78周にわたって1時間40分近く繰り広げられるため、ドライバーの力量が大きく問われる屈指の難コースとして知られる。 ル・マン24時間レースが開催されるサルト・サーキットは1周が13.605kmのロングコースであり、これに加えて1つの車両を24時間かけて走り続ける耐久レースである。ドライバーの交代はあるものの、速さはもとよりマシンの信頼性も問われ、さらにはそれぞれのドライバーの運転能力以外に集中力の限界までも挑戦させる。 この世界3大レースのそれぞれで多数の優勝記録を持つドライバーが存在するものの、世界3大レースを全てを制したドライバーは2021年現在でもグラハム・ヒルのみである。
※この「世界三大レース」の解説は、「自動車競技」の解説の一部です。
「世界三大レース」を含む「自動車競技」の記事については、「自動車競技」の概要を参照ください。
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