ホルンの解決策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 15:08 UTC 版)
このような中国史を巡る論争に対し、オランダのライデン大学歴史学教授のゲオルク・ホルンは、ひとつの解決策を1666年執筆の書『ノアの箱舟』で提案した。彼は、アイルランドの司教ジェームズ・アッシャー(en)が纏めた年代学(アッシャーの年表)に基づいて大洪水を紀元前4004年とした。その上で、堯の時代の中国で起こった大洪水を同じ出来事を指す、すなわち創世記と古代中国史が同じ史実を伝えていると考えた。そして聖書の家父長たちと中国神話の王たちは同一人物を指していると解釈した。 聖書上の人物中国史の人物その根拠 アダム 伏羲 ともに土から生まれたとされている カイン 神農 ともに農業の祖とされる エノク 黄帝 ともに神によって不死とされた ノア 堯 ともに洪水の時に生きた ホルンの創世記と古代中国史同一論は多くの追随者を生んだ。イギリスのジョン・ウエップは、ノア=堯が洪水前に住んだ場所こそ中国であり、バベルの塔崩壊前に話されていた世界共通の言語こそ中国語だったという説を唱えた。ドミニコ会の宣教師ドミンゴ・ナヴァレッティは典礼論争においてイエズス会批判の指導的役割を担ったが、彼自身は中国の古さを認め、伏羲=ハム=ゾロアスター説を提唱した。 エジプト研究で有名な司祭アタナシウス・キルヒャーは、漢字とヒエログリフに近似性を見出し、中国人エジプト起源説を唱えた。ただし多くのイエズス会士は堯をセムの子孫と定義して、ヘブライ語版聖書との整合性に腐心する態度を取った。その他にも中国史と聖書の人物相関説は数多く提示され、伏羲=アダム・神農=セツ・黄帝=ノア説(バイアー)、盤古=ノア説(フールモン)、堯=ヨクタン(en)説(ランベール)、伏羲=アダム・神農=ノア・黄帝=ハム=エジプトのセラピス・ベイ説(ブライアン)など、その内容も多様であった。 中国の古さの問題は、中国史に疑念が挟まれるのではなく、聖書側に解釈が加えられ対応が試みられるという点でアッシリアやエジプトのそれと異なる展開を見せた。さらにはヘブライ語版と七十人訳聖書の正当性を主張する根拠に中国史が用いられるなどの逆転現象さえ見られる中、普遍史にとって深刻な難問として突き刺さりつつ、解決を見ぬまま時代が過ぎることとなった。
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