トンネルと真犯人
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 14:54 UTC 版)
この「銀行の裏の無関係な家から穴をあけて金庫に侵入」という、突飛な窃盗手段は多少やり方が違うが現実に実行した人物がおり、それは1869年11月にアメリカのボストンでアダム・ワース(英語版)(異名:犯罪界のナポレオン)という人物がボイルストン国法銀行にこの方法で侵入し、15万から20万ドルほどの大金を奪い取ったという物だった。 ジョン・クレイ(ヴィンセント・スポールディング)とアーチー(ダンカン・ロス)の2人が掘ったトンネルに関して、様々な考察がなされている。作中、ホームズが歩道の敷石をステッキで叩いてトンネルの方向を確認する場面がある。これは正典中に「赤毛組合」と「高名な依頼人」での2回しかない、ホームズがステッキを持っている場面である。日本のシャーロキアンの一人である田中喜芳の実験では、トンネルの位置がごく浅い場合以外は叩いた時の音がほとんど変わらないという結果が出たため、ホームズの聴覚はかなり優れていたと考えられる。 クレイとアーチーの2人だけでトンネルが掘れるかという点について、日本のシャーロキアンの一人である紀伊国屋渡舟は、質屋から銀行まで約30メートル、トンネルが直径1メートルで、作業時間が「週5日間×8週間×1日4時間=160時間」と仮定した場合、1時間に20センチメートルのペースで掘れば到達できるので、可能であるとした。次の問題はトンネルから出る土砂で、量は前述の仮定に従うと約30立方メートル、重さは60-90トンになると推定される。この土砂の処分については、荷馬車に積んで運び出したとするS・タッパー・ビジローの説、歩道の下に貯めておく空間があったのだとするW・J・バーンズの説をベアリング=グールドが紹介している。紀伊国屋渡舟は、現場にちょうど地下水道か暗渠になった川がある場合、そこへ土砂を流せるため処分する手間が省けるとし、作中でトンネルについて詳細が語られなかったのは、同じ手口による事件の再発防止のためではないかと推測している。(なお、ワースの場合は隣の建物の部屋から「壁を破って横に侵入」したため、残土問題は起きていない。) ナポレオン金貨1枚の重さは6.4516グラムで、3万枚だと190キログラム以上になり、この搬出方法も問題である。仮に質屋の付近に馬車を停めて金貨の箱を積み、そのまま馬車で移動するとした場合、人目を引くと考えられるからである。チャールズ・スコールフィールドは、トンネルは銀行の近くにあった馬車製造会社の倉庫へも掘られていて、この倉庫の馬車を使って運び出す予定だったとの説を唱えている。 一方、クレイとアーチーが肉体作業に向いているとは思えないこと、トンネルの掘削には土木工学の知識も必要とされることから、他に協力者がいたのではないかとする説がある。「赤毛組合」の審査の際にはサクラがいたと考えられ、ナポレオン金貨の情報が外部に漏れているにもかかわらず銀行が対策を取っていないため、多数の構成員を束ね銀行上層部への影響力も持つ、大規模な組織が事件の背後にいて、クレイは組織の中心人物の一人だった可能性がある。ロバート・R・パトリックや原章は、この組織の首領、事件の黒幕がジェームズ・モリアーティ教授であったと推測している。 イギリスのグラナダ・テレビが製作した『シャーロック・ホームズの冒険』では、第12話として「THE RED-HEADED LEAGUE」(赤髪連盟)が放映された。劇中では上記の推測が取り入れられ、事件の黒幕としてモリアーティ教授が登場している。この登場は、直後に続く第13話「THE FINAL PROBLEM」(最後の事件)への前兆でもあった。
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