セルロースナノファイバー
英語:Cellulose nanofiber Materials、Cellulose nanofiber、CNF
パルプなどの加工処理に用いられるセルロース繊維をナノメートルサイズまで微細化して再生成したもの。天然素材から採取できる超微細な繊維状物質。
セルロースナノファイバーは、植物細胞壁(セルロースを主成分とする)を解きほぐし、その構成要素の繊維を取り出して作られる。セルロースナノファイバーの繊維の太さは十数ナノメートル単位の微細さであり、これは従来のパルプ繊維の1000分の1ほどの細さである。
セルロースナノファイバーの、微細さ以外の性質は、従来の製紙原料(パルプ)と変わらない。セルロースナノファイバーで作られた紙は、通常の紙と同じく、折りたためる、燃やせる、軽い、といった性質を持つ。ただし、その繊維の細さ(数ナノメートル)が可視光線の波長(百ナノメートル単位)よりも格段に細かく、光の散乱をあまり生じさせないため、光を透過する、つまり透明素材にすることが可能になる。
セルロースナノファイバーは鉄鋼材料に並ぶ強靭さを持ち、石英に並ぶ熱膨張率の低さを持つ。植物由来の繊維であるため鉱物よりもはるかに軽い。セルロースナノファイバーを補強材料に用いることで、素材の性能を格段に引き上げることができる分野が少なくない。鉄鋼材料に使用すれば、強度を保ちつつ格段の軽量化が実現し得る。透明樹脂に混ぜ込めば、透明さを失わずに、強度の向上や柔軟性の向上、熱による変化の低減といった性質を追加することができる。自然由来の素材から得られる点で環境負荷も比較的少ない。
セルロースナノファイバーはナノテクノロジーの進展により研究が急速に進みつつある。
関連サイト:
セルロースナノファイバーとは - 京都大学生存圏研究所
セルロース‐ナノファイバー【cellulose nanofiber】
ナノセルロース
(セルロースナノファイバー から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/24 07:58 UTC 版)

ナノセルロース(英語:Nanocellulose)とは、ナノ構造化セルロースを指す用語である。植物の細胞壁の主成分セルロースをナノレベルまで微細に解きほぐしたものである。セルロースナノクリスタル(CNCまたはNCC)、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノウィスカー(CNW)、バクテリアによって生成されるバクテリアナノセルロース等がある。
歴史
ナノセルロースという語は、1970年代後半のアメリカ合衆国ニュージャージー州ホイッパニーの ITT レイオニア(Rayonier)研究所に所属するTurbak、Snyder、Sandbergらによって初めて使用された[要出典]。そして1980年代初頭にITT Rayonierからの特許・出版物で初めて公表された[1]。レイオニアは、これらの特許[2]を研究発展のため無償提供した。
特性
- 鋼鉄の1/5の軽さで、鋼鉄の5倍以上の強度を有している。
- 温度の上昇に対応して長さが変化する線熱膨張係数がガラスの1/50以下と極めて小さい。
- 弾性率が-200 ℃から+200 ℃の範囲でほぼ一定である。
- きわめて薄い膜状に加工できる(比表面積が大きい、250平方m/g以上)[3]
- 結晶性領域は気体不透過性[4]
- 透明性
セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーには製造方法によって、もっとも基本となる単位である幅 4 nmのセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)、それが数本のゆるやかな束となって細胞壁中での基本単位として存在する幅10~20 nmのセルロースミクロフィブリル束、ミクロフィブリル束がさらに数十~数百 nmの束となりクモの巣状のネットワークを形成しているミクロフィブリル化セルロース(MFC)などがある[5]。
主に他の物質と混ぜて使用され、通常の条件下ではゲルまたは粘性のある流体であるが、攪拌したり振動を与えると粘性が低下するチキソトロピーを示す。攪拌・振動を止めると元のゲル状に戻る。
製造法
任意のセルロースを含む原料から作ることが出来るが、一般的には木材パルプが使用される。化学的・工業的な手法が数多く研究されている。
製造方法にはTEMPO酸化法、機械により粉砕する方法、水分散液同士を衝突させるACC法、セルラーゼなどの酵素で微細化する方法などがある。TEMPO酸化法ではセルロースの一級水酸基にカルボキシル基を導入し電子的な反発を持たせて微細化エネルギーを低減させている。これを採用しているのは日本製紙[6]、第一工業製薬である。機械による微細化方法では大きなシアを掛けて微細化することができるが大きすぎる力で天然セルロースにダメージを与える欠点もある。これを採用しているのは大王製紙などである。ACC法[7]は原料と水のみを用いて微細化する方法で天然セルロースに優しい方法である[8]。これを採用しているのは中越パルプ工業[9]などである。
漂白液繊維分解法という、高濃度次亜塩素酸ナトリウムの漂白液を用いて紙パルプの酸化反応を行い、解繊性(かいせんせい)に優れた酸化セルロースを作成した後に、撹拌・混合にてナノ解繊を進めて、セルロースナノファイバーを低コスト、低エネルギーで得る方法が2020年8月に発表された[10]。
- 生物学的製造法
用途
出典
- ^ Turbak, A.F.; F.W. Snyder; K.R. Sandberg (1983). “Microfibrillated cellulose, a new cellulose product: Properties, uses and commercial potential”. In A. Sarko (ed.). Proceedings of the Ninth Cellulose Conference. Applied Polymer Symposia, 37. New York City: Wiley. pp. 815–827. ISBN 0-471-88132-5.
- ^ Turbak, A.F., F.W. Snyder, and K.R. Sandberg アメリカ合衆国特許第 4,341,807号; アメリカ合衆国特許第 4,374,702号; アメリカ合衆国特許第 4,378,381号; アメリカ合衆国特許第 4,452,721号; アメリカ合衆国特許第 4,452,722号; アメリカ合衆国特許第 4,464,287号; アメリカ合衆国特許第 4,483,743号; アメリカ合衆国特許第 4,487,634号; アメリカ合衆国特許第 4,500,546号
- ^ セルロースナノファイバー(コトバンク・知恵蔵)
- ^ Aulin, Christian; Susanna Ahola; Peter Josefsson; Takashi Nishino; Yasuo Hirose; Monika Österberg; Lars Wågberg (2009). “Nanoscale Cellulose Films with Different Crystallinities and Mesostructures-Their Surface Properties and Interaction with Water”. Langmuir 25 (13): 7675-7685. doi:10.1021/la900323n. PMID 19348478.
- ^ 矢野浩之,「セルロースナノファイバーとその利用」『日本ゴム協会誌』 85巻 12号 2012年 p.376-381, 日本ゴム協会, doi:10.2324/gomu.85.376。
- ^ “セルロースナノファイバー(CNF):cellenpia|製品情報”. 日本製紙グループ. 2025年2月25日閲覧。
- ^ 近藤, 哲男 (2017). “Acc法で作る竹cnfで竹林被害を防ぐ”. 産学官連携ジャーナル 13 (7): 14–17. doi:10.1241/sangakukanjournal.13.7_14 .
- ^ “「ナノイノベーションの最先端」第36回:竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術を開発 ~セルロースナノファイバーが拓く新素材の可能性~”. NanotechJapan Bulletin - ナノテクノロジーの最新の成果を満載したWebマガジン. 2018年12月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年2月25日閲覧。
- ^ “nanoforest(サンプル販売中)”. 中越パルプ工業株式会社. 2025年2月25日閲覧。
- ^ Nanocellulose Production via One-Pot Formation of C2 and C3 Carboxylate Groups Using Highly Concentrated NaClO Aqueous Solution 著:Shiroshi Matsuki、Hidenari Kayano、Jun Takada*、Hiroyuki Kono、Shuji Fujisawa*、Tsuguyuki Saito、Akira Isogai Cite this: ACS Sustainable Chem. Eng. 2020, 8, 48, 17800–17806 出版日:November 19, 2020 doi:10.1021/acssuschemeng.0c06515
- ^ “酢酸菌によるセルロース合成と発酵ナノセルロース(NFBC)の大量生産”. 農畜産業振興機構. 2022年2月12日閲覧。
- ^ Xhanari, K.; Syverud, K.; Stenius, P. (2011). “Emulsions stabilized by microfibrillated cellulose: the effect of hydrophobization, concentration and o/w ratio”. Dispersion Science and Technology 32 (3): 447-452. doi:10.1080/01932691003658942.
- ^ Lif, A.; Stenstad, P.; Syverud, K.; Nydén, M.; Holmberg, K. (2010). “Fischer-Tropsch diesel emulsions stabilised by microfibrillated cellulose”. Colloid and Interface Science 352 (2): 585-592. Bibcode: 2010JCIS..352..585L. doi:10.1016/j.jcis.2010.08.052. PMID 20864117.
- ^ “Why wood pulp is world's new wonder material - tech - 23 August 2012”. New Scientist. 2012年8月30日閲覧。
- ^ A1 WO application 2016174104 A1, Thomas Dandekar, "Modified bacterial nanocellulose and its uses in chip cards and medicine", published 2016-11-03, assigned to Julius-Maximilians-Universität Würzburg
- ^ Garner, A. (2015-2016) アメリカ合衆国特許第 9,222,174号 "Corrosion inhibitor comprising cellulose nanocrystals and cellulose nanocrystals in combination with a corrosion inhibitor" and アメリカ合衆国特許第 9,359,678号 "Use of charged cellulose nanocrystals for corrosion inhibition and a corrosion inhibiting composition comprising the same".
関連項目
外部リンク
- 『セルロースナノファイバー』 - コトバンク
- セルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano Fiber)|地球環境・国際環境協力 - 環境省Webサイトより
- 木質バイオマスの新たなマテリアル利用技術開発《セルロースナノファイバー、改質リグニン…他》 - 林野庁Webサイトより
- 植物由来の「新素材」研究の最前線(セルロースナノファイバー、改質リグニン)《『aff(あふ)』2022年9月号》 - 農林水産省Webサイトより
- 国内林産資源を活用したナノセルロース複合スーパーマテリアルの商品開発 - 農林水産技術会議Webサイトより
- 木から生まれる夢の新素材 セルロースナノファイバー研究最前線《『ガリレオX』第169回》 - 「ガリレオCh」(ガリレオX)YouTube公式チャンネルより
セルロースナノファイバー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/12 03:36 UTC 版)
「ナノセルロース」の記事における「セルロースナノファイバー」の解説
セルロースナノファイバーには製造方法によって、もっとも基本となる単位である幅 4 nmのセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)、それが数本のゆるやかな束となって細胞壁中での基本単位として存在する幅10~20 nmのセルロースミクロフィブリル束、ミクロフィブリル束がさらに数十~数百 nmの束となりクモの巣状のネットワークを形成しているミクロフィブリル化セルロース(MFC)などがある。 通常の条件下ではゲルまたは粘性のある流体であるが、攪拌したり振動を与えると粘性が低下するチキソトロピーを示す。攪拌・振動を止めると元のゲル状に戻る。
※この「セルロースナノファイバー」の解説は、「ナノセルロース」の解説の一部です。
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