ゴットル的解釈
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/17 06:36 UTC 版)
生活経済学者のゴットル(Friedrich von Gottl-Ottlilienfeld)は、1923年の著書で技術の4種の分類(個人的技術、社会的技術、知的技術、物上技術)を行い、社会的技術について、以下のように定義している。 行為が「他者」に向けられ、かくて行為者間の関係に向けられる場合(戦闘技術・経営技術・修辞及教育技術・政治及行政技術) 馬場敬治は社会技術に類する表現として「社会的技術」と「社会の技術」という用語を使い分けて議論している。馬場いわく「社会的技術」とは、因果関係が社会的事象に関する場合の技術であり、社会科学的技術とでも言うべきものである。ゴットルのSozialtechnikは馬場の言う社会的技術に属するものであるが、さらにこれ以外のもの、たとえばゴットルが「個人的技術」に分類した「克己の技術」をも含めるとした。これに対して、「社会の技術」とは、一定の時点において、一定の社会に用いられる諸種の技術的手段の総称である。これについては、ブハーリンの社会技術と同義であることを認めている。相川はこの分類について懐疑的立場を示したが、倉橋重史は馬場を支持し、社会技術についてブハーリン的な解釈(「社会の技術」)とゴットル的な解釈(「社会的技術」)の二つがあるとする。 倉橋はゴットル的な社会技術と同様の概念を示した学者を複数挙げている。フィヒター(Joseph H. Fichter)は社会工学(social engineering)を社会統制の一つとして捉え、計画より広義に解し、計画を遂行する社会行為として用いている。この場合、工学というのは部分の詳細な分析であり、部分を活動させるための特殊な技術的計画、あるいは予定した目標に向かって部分を操作する計画的プログラムとする。社会の規範や基準に従う「社会化」にとどまらず、社会工学は合理的に計画された行動に特別に従うよう要求する。ヘッツラー(Stanley A. Hetzler)は人間と機械の関係についての全ての範囲の研究を指してsociotechnicsという用語を用いている。いわく、人間と機械の「両者の相互作用の外見上の様式が何であれ、それが物理的あるいは社会的なものであるように見えようとも、それは実質的に社会的であり、その結果においてそれはまぎれもなく社会的である」。またスターレイ(Eugene Staley)は、今までの技術の規定は狭義の概念であるとし、社会技術(social technology)を含む、より新しい広義の概念を用いることを提言している。社会技術として法律、政治、教育、経営の技術を挙げ、低開発国の発展にとって必要な技術は物理的・生物的な技術だけでなく、経済、政治などの社会技術であると考えている。さらに、社会技術の下位概念として「開発の社会技術」というものを提唱している。これには開発の全体計画・プログラム、開発に対する政府機関および公的行政、人材開発、農業、産業、保健のような特定のセクターにおける開発の特別な技法などが含まれる。 社会技術という言葉は用いないが、エリュール(Jacques Ellul)は現代技術という用語によって同様の概念を示している。彼は機械的技術や知的技術と区別した上で現代技術には以下があるとする。 (一)「経済技術」はほとんど全面的に生産に従属しており、労働の組織から経済計画にわたる。この技術はその対象と目標において、他の技術と異なる。しかしその諸問題は、すべての他の技術活動のそれと同じである。 (二)「組織技術」は大衆にかかわるもので、大規模の通商および産業的実務(したがって経済的な管轄下にはいるのみならず、国家、行政、警察権力にも適用される。この組織技術は戦争にも応用され、少なくとも武器と同じほど軍隊の威力を確保する。司法の分野のすべても組織技術に依存する。 (三)「人間技術」は、医学や遺伝学からプロパガンダ(教育技術、職業指導、宣伝など)に及ぶさまざまな形態をとる。ここでは人間自身が技術の対象となる。 倉橋はマンハイム(Karl Mannheim)の論ずる社会技術もゴットル的であるとする。マンハイムは『変革期における人間と社会』を当初ドイツ語で書いたが、英語版を執筆するにあたり社会技術(social technique)に関する章を増補した。マンハイムはナチズムやマルクス主義に基づく全体主義に対して自由主義的民主主義を強調し、ここにはじめて「自由のための計画」が見られると考えたが、両者の類似性は心理的技術や国家権力の増加による中央集権的統制によって増大する。ゆえに「計画の枠内に自己決定の余地を創り、かつ保持することを目指して技術を一層意識的に管理する」ような社会技術の必要性を強調したのである。
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