カップライスとは? わかりやすく解説

カップライス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/29 16:44 UTC 版)

画像提供依頼:カップライスの自動販売機の画像提供をお願いします。2019年5月

カップライス(CUP RICE)は、1975年(昭和50年)に日清食品から発売された加工米飯。同社のヒット商品であるカップヌードル同様、カップに半調理品のが入っており、湯を注いで数分待ち、湯を切り、数分間蒸らすことで飯料理ができあがる[1]。後の平成令和期のカップ入り加工米飯の名称が「即席カップライス」と表記されているが[2][3]、本記事では昭和期に日清から発売された同商品について述べる。

開発・発売の経緯

余剰米の処理に悩んでいた当時の食糧庁長官・三善信二が、当時の日清の社長である安藤百福に「カップヌードルのように手軽に食べられるものはできないか」と相談を持ちかけたことが開発のきっかけである[4][5]

前身となったのは、1967年(昭和42年)に同社から発売された即席飯商品「日清ランチ」である。不評であった同商品の反省点から、油熱処理に熱風処理を加えることで脱脂を行なうなど、日清ランチの欠点を徹底的に解消することに重点を置かれた[4][6]

発売前年の1974年(昭和49年)に政府の重鎮たちを招いて行われた試食会では、軍人経験を持つ園田直が、火の使えない戦場で干飯で食事を凌いだ逸話を引合いにだし「あのときこれがあったら」と語り、ほかの出席者たちからも好評であった[4][7]日本経済団体連合会当時の会長である土光敏夫も、米食文化復興のために、大いに期待を寄せていた[7]。同年に東京都の銀座の歩行者天国で行なわれた試食会でも大人気となった[4]。新聞紙上で「奇跡の食品」「米作農業の救世主」と報じられるなど、マスコミからも絶賛された[4][5]

発売時のラインナップは、エビピラフドライカレーチキンライス五目寿司赤飯中華シチュー鮭茶漬けの7種類で、値段は中華シチューが160円、ほかは200円であった[4]。正式発売の1975年以来の売れ行きはしばらくは順調であった[4]。「即席のご飯」という商品のもの珍しさ、また当時はピラフという料理自体が珍しかったことも売れ行きに繋がった[6]。このことで日清では、製造にほぼ年間利益に匹敵する30億円をつぎ込んでいた[4]。カップヌードル同様、自動販売機による販売も行われた[4]

撤退へ

しかし発売から1か月後には、売れ行きは激減に陥った。安藤百福自らがスーパーマーケットに赴いて買物客相手に調査したところによれば、日清ランチと同様「高すぎる」「ラーメンは自宅で作ることは難しいが、飯なら自宅で炊ける」ということが、カップライスを敬遠する理由であった[4][7]。当時、の主材料であるコムギの5倍も費用がかかることが割高に繋がり、店によってはカップライス1個の値段で特売品のインスタントラーメンが6個から10個も買えることもあった[4][7]。これは前身の日清ランチですでに露見していた欠点である[8]。カップライスの隣でラーメン5個100円の特売をしている店舗もあった[7]

自宅で炊く飯と比較すればどうしても食感が落ちたとの意見もあり[9]、前述の試食会の好評さとは逆に、実際に食べた消費者からは、味が良くないとの意見もあった[6][10]。加えて、湯を入れるだけで済むカップ麺と違い、カップライスは湯切りが必要なことも、敬遠の理由に挙げられた[6]。湯を入れるだけで調理できるカップライスはアウトドア非常食には向いているが、日清は日常食としての簡便さを狙っており、その狙いが需要とずれているとの見方もあった[9]

日清社内では、時間をかけて消費者の需要を掘り起こそうとの意見がほとんどだったが、米食文化の根づいている日本ではカップライスの需要がないこと、このままではインスタントラーメン製造にまで悪影響が及びかねないとの安藤の判断により、カップライスは製造中止に至った[4][7]。カップライスの製造過程は日清ラ王にとって代わられ、後にラ王は大ヒット商品に昇りつめている[11]

食品業界の王者とされた日清食品がカップライスで失敗したことで、同業界では即席飯は成功しないことが半ば常識化し、この風潮は1988年(昭和63年)の佐藤食品工業(現サトウ食品)の包装米飯「サトウのごはん」の成功まで続いた[6]。その後、日清はカップライスの反省をいかし、日清GoFanを経て、後のカップヌードルごはんの成功へと繋げている[12]。このカップヌードルごはんもまた、調理法は違えど、カップ入りの即席の加工米飯には違いないことから、安藤の先見の明を評価する声もある[13]

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ カップライス”. 産業技術資料データベース. 国立科学博物館 (2012年). 2018年10月8日閲覧。
  2. ^ “「カップヌードル」がごはんに 日清の電子レンジ調理専用即席カップライス”. マイナビニュース (マイナビ). (2010年7月27日). https://news.mynavi.jp/article/20100727-a032/ 2018年10月8日閲覧。 
  3. ^ 行正和義 (2015年1月19日). “日清、新即席カップライスは「出前一丁 まかないチャーハン」”. 角川アスキー総合研究所. 2018年10月8日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 日清食品株式会社社史編纂室 編 『食足世平 日清食品社史』日清食品、1992年5月、198-202頁。 NCID BN0900668X 
  5. ^ a b 「安藤百福・日清食品会長 食創為世」『朝日新聞朝日新聞社、1996年10月19日、東京夕刊、7面。
  6. ^ a b c d e 織井優佳「1975 カップライス 割高感も」『朝日新聞』、2000年9月6日、大阪夕刊、3面。
  7. ^ a b c d e f 安藤百福 『魔法のラーメン発明物語』日本経済新聞出版社〈私の履歴書〉、2002年2月、109-112頁。 ISBN 978-4-532-16410-2 
  8. ^ 日清食品 1992, p. 102.
  9. ^ a b “今でこそ人気の「即席ご飯」。昔は売れなかったワケ”. 日刊SPA! (扶桑社). (2015年4月16日). https://nikkan-spa.jp/819287 2018年10月8日閲覧。 
  10. ^ 上坂有子 『転校×5 ダルマサンのけんけんぱ』文芸社、2001年12月、107頁。 ISBN 978-4-8355-3058-1 
  11. ^ 「あの失敗がこう生きた プロジェクト×」『朝日新聞』、2001年12月1日、東京夕刊、5面。
  12. ^ 井上淳子. “メガブランドのパワーを活かした「カップヌードルごはん」開発秘話”. 立正大学 経営学部. 2015年9月21日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2015年9月22日閲覧。
  13. ^ 筑摩書房編集部 『安藤百福 即席めんで食に革命をもたらした発明家 実業家・日清食品創業者〈台湾・日本〉』筑摩書房〈ちくま評伝シリーズ〉、2015年1月25日、162-164頁。 ISBN 978-4-480-76616-8 

カップライス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 07:55 UTC 版)

カップヌードル」の記事における「カップライス」の解説

かつて販売されていたライス加工食品1975年昭和50年)に姉妹商品として同様の容器使用し自販機販売にも対応していた「カップライス」が発売された。従来から確立していた油熱処理技術とパフドライ(加圧乾燥技術新開発技術組み合わせることによって、油っぽさを抑えた多孔質の米(アルファ化米状)にする加工技術開発されたことにより、美味しいプリクックライス(既処理米飯)として商品化された。調理法は、熱湯注いで数秒待ち、その湯を捨てた後に3分から5分蒸らすという、通常のものより工程増えていた。ラインナップにはチキンライスドライカレー、エビピラフ、五目寿し赤飯などがあった。商品自体優れているとの評価もあったが、調理インスタント食品としては手間がかかることや、消費者割高感払拭されず、発売後まもなく売上減少至った影響販売中止となった1980年代にも同名商品発売されCMや「Vespaプレゼントキャンペーンなどの展開が行われたが、後に販売終了した。 詳細は「カップライス」を参照

※この「カップライス」の解説は、「カップヌードル」の解説の一部です。
「カップライス」を含む「カップヌードル」の記事については、「カップヌードル」の概要を参照ください。

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