アーリア人種至上主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/09 04:44 UTC 版)
ロマはヨーロッパにおいて、何世紀にもわたり反ジプシー主義に基づく迫害や屈辱を味わってきた。例えば、日常的な犯罪や社会的不適合、放浪生活といった社会的スティグマである。 ナチスはアーリア人種至上主義を掲げていたが、その「人種的純粋性」に対する偏愛により、ロマが最初の犠牲者となった。しかし、第三帝国初期にはヒトラーの人種イデオロギーに1つの問題が浮上。ロマ語がインド北部に端を発するインド・アーリア語派の1つという事である。 ナチス系の人類学者はロマがインドからヨーロッパに移住し、それ故当時ヨーロッパからインドに侵攻したとされていた、亜大陸におけるアーリア人居住者の子孫であるいう事に気が付いてはいた。換言すれば、ロマはアーリア語を母語としていたのである。 何れにせよ、フュッテンバッハはナチスが1933年には早くもロマの絶滅を計画していたと指摘。ナチスは7月14日、生きるに値しない命(lebensunwertes Leben)の根絶策を発表した他、民族衛生及び人口生物学省もロマの人種分類に着手している。 ナチスの人種理論に大きな影響を与えた人種学者ハンス・ギュンターは、人種的純粋性という理論に社会経済学的要素を追加。ロマをアーリア人の子孫であると認める一方で、放浪する内に様々な「劣等」人種と混交した貧困層と見做したのである(極度の貧困と、放浪を旨とする生活様式を考慮に入れての事と説明してはいるが)。 また、「純粋なアーリア人」である集団が存在する一方で、殆どのロマは人種が混ざり合っているため、アーリア人の同質性を損なう存在とした。 こうした考えは、ナチズムの人種学を育む上で大きな影響を与えたフランスのアルテュール・ド・ゴビノーに拠る所が大きい。ゴビノーは自身の著書『人種不平等論』の中で、人間に明らかな優劣があり、その最大の要因は人種であると断定。インド・ヨーロッパ語を話すアーリア人、特に北欧ゲルマン系諸民族が優秀な人種とされ、雑種や異種間の結婚は例外無く人種の劣化に繋がると主張している。 当該問題をより深く研究するため、ナチスは1936年に民族衛生及び人口統計学的生物学研究団(ドイツ語版)(Rassenhygienische und Bevölkerungsbiologische Forschungsstelle)を設置。ロベルト・リッターと助手のエヴァ・ユスティンが率いたのこの団体は、「ジプシー問題」(Zigeunerfrage)に関する詳細な研究の統括と、「ジプシー新法」を練る上で必要とされるデータの提供を委託されていた。 同年春にインタビューや血統的遺伝学的データ収集を行うための医学的調査から成る、包括的なフィールドワークを行った結果、殆どのロマがドイツ人の人種的純粋性に脅威を齎すため、絶滅させるべきとの結論に至る。また1938年には各警察にあったジプシー対策課を再編成し、ジプシー禍闘争ライヒ中央本部(ドイツ語版)を設置した。 なお、ハインリヒ・ヒムラーはこの決定に対して、「純粋なジプシー」が放浪生活を続けられるよう、次のように遠隔地へ居留地を設置すべきと提案している。 ドイツ民族の同質性を守るために国家が講じる対策の目的は、ドイツ民族からジプシーを物理的に隔離して混血を阻止し、ひいては純粋であれ混血であれジプシーの生活様式を規制するものであらねばならない。
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