この著作で明らかにされたもの
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 09:49 UTC 版)
「ドイツ・イデオロギー」の記事における「この著作で明らかにされたもの」の解説
この著作の意義は、唯物史観の基礎を作り出したことである。「土台」(生産諸関係)と「上部構造」(国家やさまざまな意識の形態)という概念が登場し、さまざまな箇所でこの両者の関係を、さまざまな角度から浮き彫りにしている。 たとえば、「これまでのすべての歴史的段階に存在した、生産諸力によって条件づけられ、またそれを再び条件付ける交通形態は、市民社会」であり、「すでにここで明らかになるのは、この市民社会があらゆる歴史の本当のかまどであり、舞台であるということ、また現実的諸関係を無視し、大げさな政治劇に限定されたこれまでの歴史観がいかに馬鹿げたことなのかということだ」という叙述に見られるように、「生産諸関係や市民社会が歴史段階を規程する」という命題がここにはある。マルクスとエンゲルスは、青年ヘーゲル派の見解は言うに及ばず、上部構造のさまざまな現象に囚われる見解をここで批判している。 また、「社会における支配的思想とは何か」の解明も本書の意義の一つである。「支配的階級の諸思想は、どの時代でも、支配的諸思想である。すなわち、社会の支配的な物質的力である階級は、同時にその社会の支配的な精神的力である」。このような支配階級の支配的思想は、剥き出しの立場を出さずに、必ず価値中立形態をとる。そのため、それを暴くためには、特別な闘争が必要である。そして、こうした解明によって、『ドイツ・イデオロギー』は、シュティルナーやバウアーの思想が実際には何者かの代弁をしているに過ぎないことを暴露しようとしたのである。 そして、分業の発展の伴うマニュファクチュアと大工業の発生の過程とそれらが社会体制に与えた影響について分析している。とりわけ、「大工業がいかなる文明国をも、またそこに住むいかなる個人をも、自らの欲望を充足するうえで全世界に依存させるようにさせ、個々の国民の旧来の自然発生的な排他性を根絶したこと、この点において、大工業は初めて世界史を生み出した。」(この箇所でエンゲルスが「大工業は普遍的競争によって、すべての個人に全精力を振り絞るよう強制した。大工業は、イデオロギー、宗教、道徳等をできるだけ根絶し、それができない場合でも、それらをまやかし物にした。」という書き込みがされている)ことや大工業が自然科学を資本に従属させた点を指摘する。 あるいは、「階級はどのように形成されるか」「個人での意識や活動がどうやって革命に結びついていくのか」「革命とともに支配的思想は変化する」ことなどが次々に解明されている。その後、マルクスは、まさに「市民社会」を解明するために経済学の研究に没頭し、史的唯物論に言及することはほとんどなかった。それゆえ、マルクス自身が自由奔放に語った史的唯物論の諸命題としては、後の時代に見られない貴重なものが登場している。
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