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ANP

読み方:えいえぬぴー
【英】:ANP (analytic network process)

概要

AHPの階層構造ネットワーク構造拡張したもの. AHP評価構造評価基準代替案評価するというように, 評価者被評価者区別固定しているが, ANPでは, 被評価者自身が, 評価者評価重要度あるいは評価能力評価するという問題をも取り扱う. サーティ (T.L. Saaty) はこの評価構造関連超行列という一種確率行列表現し, その累乗極限によって分析する方法示した.

詳説

 AHP特徴は, 一対比較情報基づいて固有ベクトル法用いて対象評価値推定するという面と, いくつかの評価基準の下での評価値総合化するという階層構造にあった. T. L. Saaty提案したANPというのは, 簡単に言うと, その階層構造ネットワーク構造拡張したのである. Saatyはこのネットワーク構造解析基本として, 超行列よばれる行列導入し, その行列として性質, 既約性や原始性を利用して解析法を確立した.

[超行列]

 はじめに簡単な例を通して, ANPの特徴つかもう. たとえば食品産業の3社A_1, A_2, A_3\, 代替案とみて, これらを2つの評価基準C_1\, (広告), C_2\, (サービス)で評価するという問題考えよう. A_i\, C_j\, による評価値u_{ij}\, であるとしてこれらを列挙する表1のようになる. A_j\, 企業戦略として広告サービスそれぞれw_{1j}\, , w_{2j}\, 重要度考えているとすると(j=1,2,3)\, , C_1\, , C_2\, 重要度評価は, AHPのように一組だけでなく, A_j\, によって変化して表2のようになる.


表1: A_i\, C_j\, による評価
Sk-0231-a-h-08-1.png


表2: C_i\, A_j\, による評価
Sk-0231-a-h-08-2.png


 これはC_i\, A_j\, 評価するだけでなく, A_j\, 自身C_i\, 重要度評価することを示している. つまりANPでは, 評価者被評価者区別固定したものでなく, 互いに他を評価するという一種相互評価構造がある.

 対象i\, j\, による評価値(評価ない場合は0)をi\, j\, 列として得られる行列超行列(super matrix)と呼ばれるのである. 上の例の超行列

Sk-0231-a-h-08-3.png      (1) \,


 ANPの解析目的はこの超行列与えられたとき, 各対象(上例ではC_1, C_2, A_1, A_2, A_3\, )の総合評価値を求めることである. またANPでは与えられる評価値はすべて正であり, 一つ対象与え評価値総和は1であるという規約がある. つまり超行列の各列の要素の和は1である. このことは超行列が(列)確率行列であることを示している.

[ネットワーク構造]

 対象i\, j\, 評価するとき(つまり超行列(i,j)\, 要素が非ゼロのとき)そしてそのとき限り, 点i\, から点j\, への矢線をもつ有向グラフ得られるが, これをこのANPのネットワーク構造と呼ぶ. 上例に対すネットワークは図1のようになる. このグラフ構造特徴超行列S\, 行列として性質に密接に関連していて, それがANPの解析特徴づける.

 すでにAHP中に外部従属法という解析法があるが, これはANPの特殊なもので, そのネットワーク構造が図1のように2部グラフの形をしたものである. ANPの新しさは, このネットワーク構造がどんなものであっても, 超行列基本として一貫した解析法で総合評価値を求めることができることにある.


Sk-0231-a-h-08-4.png
図1: ネットワーク構造


[ANPの解法]

 SaatyのANPの解法は, 超行列累乗S^t\, t\to\infty\, での極限利用するのであるが, S\, 行列として性質によって, その収束状態が異なってくる.

 一般に行列の性質はそれに対応する有向グラフ特性と密接に関連する. 行列論でいう行列既約性 (irreducibility)は, 対応する有向グラフ強連結であることと同値である. (有向グラフ任意の2点i,j\, に対してi\, からj\, への有向パスがあれば, このグラフ強連結という).

 また非負既約行列X\, 原始(primitive)であるとは, 適当な自然数n\, に対してX^n\, 要素がすべて正となることであるが, これはこの行列対応する有向グラフ周期が1であることと同値である [1]. 周期とはすべての有向サイクル(ある点からその点にはじめて戻る有向パス)の長さ最大公約数d\, である. 図1での有向サイクルの長さは, 2,4,6,\cdots\, であるので周期d=2\, である.

 超行列S\, 対応する有向グラフ周期d\, がANPの解法重要な役割を果たす. SaatyによるANP解法基本はつぎの定理要約される [1]:

定理 m\times n\, 超行列S\, 既約であってかつ原始(S\, 対応する有向グラフ周期が1)であれば, t\to\infty\, S^t\, 収束しその極限値S^{\infty}\, すべての列が同一ベクトル \mathbf{x}\, となる. つまり


lim_{t\to\infty}S^t=S^{\infty}=[ \mathbf{x} \mathbf{x} \cdots \mathbf{x} \mathbf{x}]\,      (2)\,


そしてこの \mathbf{x}=[x_1x_2\cdots x_n]^{\top}\, 要素x_i\, 対象i\, 総合評価値とみることができる.

定理 超行列S\, 既約であって, 対応する有向グラフ周期d\, とするときt\to\infty\, (S^d)^t\, 収束し, その極限値で行と列適当に並べかえたものをS^{\infty}\, とすると, これはd\, 位のブロック対角行列となり, 各ブロック内ではすべての列が同一ベクトルとなる.

たとえばd=2\, なら



\begin{array}{ccc}
S^{\infty}=
\left[
\begin{array}{cc}
S_1 & O \\
O &S_2 \\
\end{array}
\right]
& , &
\begin{array}{c}
S_1=[ \mathbf{x}_1 \mathbf{x}_1\cdots \mathbf{x}_1] \\
S_2=[ \mathbf{x}_2 \mathbf{x}_2\cdots \mathbf{x}_2] \\
\end{array}
\end{array}\,      (3)\,


となり, \mathbf{x}_i\, の各成分対象総合評価値を与える.

[超行列固有ベクトル]

 最近, 高橋, 関谷 [2], [3] は, S\, 既約ならば, S\, の主固有ベクトル(2)等の収束ベクトル \mathbf{x}\, 一致することを示している. S\, 確率行列であるから, その主固有値は1であり, S\, の主固有ベクトル \mathbf{x}\,


S \mathbf{x}= \mathbf{x}\,      (4)\,


の解であるが, これが(2)\mathbf{x}\, と(定数倍を除いて)一致することが示されのである. S\, 原始ない場合でも(4)の解はたとえば(3)\mathbf{x}_1, \mathbf{x}_2\, そのまま縦に並べたものと一致する.

 これによるとANPの解法極めて簡単で超行列の主固有ベクトル求めればよいということになる. また「非負既約行列の主固有ベクトルは(定数倍を除いて)一意であり, その成分はすべて正である」 [4] というフロベニウスの定理から, (4)解の一意性とその値がすべて正となることが保証される.

 以上の解法はいずれ超行列既約であること, つまりネットワーク構造強連結であることを前提としている. しかし [2] には必ずしも強連結ない場合についてもその解法提案されている.



参考文献

[1] T. L. Saaty, The Analytic Network Process, RWS Publication, 1996.

[2] K. Sekitani and I. Takahashi, " Unified Model and Analysis for AHP and ANP," Journal of the Operations Research Society of Japan, 44 (2001), 67-89.

[3] 高橋磐郎, 『AHPからANPへの諸問題』, オペレーションズ・リサーチ, 43 (1998), 289-293.

[4] 古屋茂, 『行列行列式』, 培風館, 1957.




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