禁治産者
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/20 09:32 UTC 版)
心神喪失の常況にある者については、本人、配偶者、4親等内の親族、戸主、後見人、保佐人又は検事の請求により、裁判所が禁治産の宣告をすることができた(第7条)。禁治産の宣告を受けた者を禁治産者という。なお1947年(昭和22年)の法改正で「戸主」は削除、「検事」は「検察官」に改められている。 「心神喪失」とは、自分の行為の結果について合理的な判断をする能力のないこと、すなわち意思能力のないことである。精神病理学ないし精神医学で心神喪失という語がどのような意味に用いられているかは、直接には関係ない。禁治産という制度は、法律が一定の理由に基づいて設けた制度だから、この制度の目的に従って、この制度の保護を与えるに適当かどうかを考慮して、心神喪失であるかどうか決定しなければならない。 「心神喪失の常況にある」というのは、始終心神喪失の状態にあることを必要とするのではなく、時々は普通の精神状態に回復しても大体において心神喪失を普通の状態としているものをも含む。 禁治産者には後見人が付けられ(第8条)、禁治産者の法律行為は常に取り消すことができた(第9条)。取り消すことのできる法律行為の範囲は、財産法の分野であれば特に制限はなかったが、身分法上の行為については禁治産者が単独で有効にできた(禁治産者の婚姻について定めた明治民法第774条、のちの民法第738条等)。禁治産者の行為は、たとえ後見人が同意を与えてなされた場合であってもなお取り消すことができると解するのが通説であった。禁治産者は意思能力を欠く常況にあるものであるから、事前に同意を与えて単独に行為をさせることは、本人保護の上からいっても、相手方の利益から見ても、危険である。むしろ単独の行為を絶対に認めないようにすることが、制度の目的に合すると考えられていた。 裁判所が「心神喪失の常況にある」ことを判定するには、医師その他適当な者に鑑定をさせなければならない(明らかにその必要がないと認めるときはこの限りでない)(家事審判規則第24条)。 これが肯定された場合、法文上は「宣告ヲ為スコトヲ得」(宣告をすることができる)となっているが、裁判所は必ず宣告をなすべきであって、これをするとしないとの自由をもっているものではない、とされた。禁治産を宣告する審判が確定したときは、裁判所は、遅滞なくその旨を公告する(家事審判規則第28条)。公告は、官報に掲載してこれを行い(家事審判法第21条)、さらに本籍地の戸籍事務を管掌するものに通知する(家事審判規則第28条)。これを受け後見人が届け出ると、戸籍に禁治産である旨の記載がなされる。 禁治産の原因が止んだときは、第7条に掲げられた者の請求により裁判所が禁治産の宣告の取消をする必要がある(第10条)。 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に禁治産者であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない(第98条)。
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