アスファルト アスファルトの概要

アスファルト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/01 18:32 UTC 版)

概要

精製されたアスファルト
アスファルト舗装

アスファルトは瀝青材料の一つで、色は黒か暗褐色をしており、温度の高低によって液体から固体、固体から液体の状態に変化する性質があり、道路舗装防水剤などに使われる[4]

アスファルトは、天然に産出される天然アスファルトと、石油からつくられる石油アスファルトがあり、現在使われているものは石油アスファルトがほとんどで、天然のものはごく少なくなっている[4]減圧蒸留装置で作られた減圧残油はそのまま製品アスファルトとなり、ストレート・アスファルト[5]と呼ばれる[要出典]

ストレート・アスファルトの性状を改善するため、溶剤抽出[6](溶剤脱瀝[7])や空気酸化[8](ブローン・アスファルト製造)などの処理を行うこともある。粘度の高い液体ピッチ)であり、常温ではほとんど流動しないものが多い。ただし、常温で使用できるようにストレート・アスファルトを灯油軽油で希釈混合させたカットバック・アスファルト[9]もあるが、日本では統計上ストレート・アスファルトに含まれている[要出典]

なお、日本やアメリカ合衆国等では石油を精製して採れた減圧重質油をアスファルトと呼ぶのに対し、ヨーロッパではビチューメン(Bitumen = 歴青/瀝青)と呼び、このビチューメンに骨材などを混合したものをアスファルト(日本ではアスファルト混合物またはアスファルト合材)と呼んでいる。したがって、ヨーロッパの技術論文を読む際には注意が必要となる。なぜこのように呼称が違ったのか不明であるが、おそらくは、アスファルトの種類が増えたことが原因ではないかと考えられる[要出典]

トリニダード・トバゴでは純度の高いアスファルトが天然で噴出し、湖を形成するという稀なケースが見受けられる。これは、地中の原油から揮発成分が蒸発し、アスファルト分のみが残ったものと考えられる。→(ピッチ湖[要出典]

歴史

長崎市グラバー園に存在する日本最古のアスファルト道路の可能性のある道路

天然のアスファルトは瀝青(ビチューメン)と呼ばれ、古代から使用されてきた事がわかっている。紀元前3800年頃の古代メソポタミアで天然アスファルトが接着剤として用いられており[4]、紀元前3000年頃の古代エジプトでは、ミイラ防腐剤としても使用された[10][11]旧約聖書の『創世記』では、バベルの塔建設のためレンガの接着剤として、またノアの箱舟の防腐剤として天然アスファルトが使用されたとの記述がある[4][12]。アスファルトという単語英語に現れたのは原油の利用が一般的になり始めた18世紀に至ってからである。このため、英語においてもギリシア語ασφαλτος(asphaltos)からの外来語であった。a(しない)とsphalt(落とす)という意味がある。

日本では縄文時代後期後半から晩期にかけて、日本海側の秋田県山形県新潟県などで産出した天然アスファルトを熱して石鏃(せきぞく:石の矢じり)や骨銛(こつせん:骨のモリ)など漁具の接着、縄文後期の秋田県横手市・八木遺跡の事例として網漁に用いる石錘漁網の接着[13]、破損した土器土偶の補修、漆器の下塗りなどに利用された。産出地のほか北海道渡島半島関東地方でもアスファルトの付着した遺物が出土し、黒曜石ヒスイなどとともに縄文時代の交易を示す史料になっている。これらは明治期に佐藤伝蔵による東京大学人類学教室の資料調査において発見され、佐藤初太郎によってアスファルトである事が確認された。藤森峯三は秋田県昭和町(現潟上市昭和)において縄文時代のアスファルト産出地を確認し、現在では原産地を特定する技術により、広域に流通していたことが判明している[14]

日本書紀』には、668年に「燃える水」と「燃える土」が越の国から天智天皇に献上されたとの記録があり、燃える水が石油で、燃える土が天然アスファルトであると考えられている[4]

日本で初めてアスファルト舗装が施されたのは長崎県長崎市グラバー園内の歩道であるといわれているが、成分分析が行われていないため定かではない(輸入品で舗装されたもよう)。したがって、一般的には明治11年(1878年)、東京の神田川にかかる昌平橋に舗装されたのが最初であるとされている[11]。使用されたのは秋田県の豊川(現在の潟上市、後に油田天然ガス田として開発される)からはるばる運ばれた天然アスファルト200俵であった[11][15]

石油産業や自動車の普及とともに、アスファルトの需要も変化するようになると、日本の他、先進諸国で道路舗装用に石油アスファルトが使用されるようになった[11]

用途

アスファルト輸送用、ISOコンテナ。粘度が高いためにタンクローリー輸送時と同様に外付けバーナーや、蒸気送圧により温めながら排出できる特殊な保温コンテナ。

アスファルトは、低温では固体、高温では液体になるという性状を持つ[11]。この性質を活かして、道路舗装用の骨材の接着剤として多く用いられているほか、油分でできている特長を活かして燃料や原料、防水材、防腐剤、熱可塑材、電気絶縁材、断熱材、高真空用シーリング材、衝撃吸収材、潤滑剤、顔料としても利用されている[11][16]。道路舗装用に使われる以外のアスファルトのことを、工業用アスファルトと呼んでいる[16]。アスファルトの使用量は、舗装用と防水用で約80%を占めている[16]

乳剤
道路舗装の表層(及び基層)を施工する際、防水効果を得たり、合材との接着をよくするためにまかれる褐色の液体。また舗装の継ぎ目にも隙間からの破損等を防ぐために流し込まれる。水とアスファルトを界面活性剤を使って混合させたもので、水分が蒸発すると黒色になりアスファルト分だけが残る。基層を構築したあと、表層を施工する前に基層表面に一様に散布されるものをタックコート[17]、アスファルト混合物を敷設する前に路盤表面に均一に散布されるものをプライムコート[17]、継ぎ目に流し込まれるものをシールコートと呼ぶ。
道路舗装材
アスファルトを結合材として、骨材(砂利や砂、一部融解スラグ等)やフィラーを混合したアスファルトコンクリート舗装に用いる。
アスコン(アスファルトコンクリートの略)、合材(アスファルト混合材料の略)などと呼ばれる。
防水用アスファルト
建築分野では、鉄筋コンクリート構造の建物に多い陸屋根や、住宅屋根の下地防水工事で用いられるシート状のアスファルト系防水材に用いられる[18]。繊維を原料とした不織布・布・紙などにアスファルトを浸透させてシート状にしたアスファルトルーフィングは、建物内への雨水の浸入を防ぐことを目的に屋上や住宅屋根の下葺材、壁面・浴室の防水材に使われる[18]。アスファルトを塗布した板状の芯材の両面に鉱物質粉粒や彩色砂粒をまぶして貼り合わせたアスファルトシングルスは、木造建築の屋根下葺材のほか、釘に加えて接着剤による施工ができることからコンクリート下地や耐火性ボードなどの屋根防水としても使用されている[19]
土木分野では、地下鉄、共同溝などの地下構造物の防水、道路橋床版の防水、水利構造物で用いられる[16]。地下コンクリート構造物では、雨水や地下水が構造物内部へ漏水することを防止するため、合成繊維不織布・プラスチックメッシュを芯材に改質アスファルトを含浸したシート状のアスファルト系防水材を、構造物の全面的に貼り付ける工法で用いられている[16]。道路橋においても、床版にシート系や塗膜系のアスファルト防水材が用いられており、鋼床版では主にグースアスファルト舗装[注釈 1]が防水兼基層として採用されている[20]。水利構造物では、フィルダムなどの表面遮水壁・内部遮水壁に水工用の加熱アスファルト混合物が用いられ、貯水池や水路の漏水防止層(ライニング)には板状に形成したアスファルト混合物やシート状のアスファルト系防水材、加熱溶解したブローンアスファルトを散布するなどの工法で用いられる[20]
燃焼用アスファルト
コストの安さから火力発電所富士石油袖ケ浦製油所、JXTGエネルギー大阪製油所など)の燃料として用いられる[21]。化成品メーカーのC重油の代替品として燃料として使用される。
その他の工業用アスファルト
ブローンアスファルトをクラフト紙などの紙で挟み込んだ防湿紙(ターポリン紙)、産油地や産炭地のパイプラインに使われる鋼管の防錆塗料、建築用や自動車用の制振・防音材の原料、家電製品などの電気絶縁材料、建物の軟弱地盤沈下対策として地下杭の表面摩擦抵抗を高めるための塗布剤、シャープペンシルの芯やコークス製造のときに用いる結合材(バインダー)、オフィスの床などに敷かれているタイルカーペットの裏貼材、廃棄物の固化剤、電極用の炭素材料などにも使われる[19]

注釈

  1. ^ 粗骨材・細骨材・フィラーと石油アスファルトにトリニダードレイクアスファルトまたは改質剤を混合したアスファルトを使用したグースアスファルト混合物による舗装で、高温時に流し込み施工できるほど流動性が高く、不透水性とたわみ性に富むという特長がある[16]
  2. ^ 熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂など。

出典

  1. ^ 落合直文「あすふあると」『言泉:日本大辞典』 第一、芳賀矢一改修、大倉書店、1921年、67頁。 
  2. ^ 松村明 編「じれきせい」『大辞林 4.0三省堂、2019年。 
  3. ^ 松村明 編「アスファルト」『大辞林 4.0三省堂、2019年。 
  4. ^ a b c d e f g h i j k 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 126.
  5. ^ ストレートアスファルト”. weblio. 2019年5月12日閲覧。
  6. ^ 溶剤抽出(法)”. weblio. 2019年5月12日閲覧。
  7. ^ 溶剤脱れき法”. Weblio. 2019年5月12日閲覧。
  8. ^ 空気酸化”. コトバンク. 2019年5月12日閲覧。
  9. ^ カットバックアスファルト”. weblio. 2019年5月12日閲覧。
  10. ^ アスファルト利用の歴史,日本アスファルト協会
  11. ^ a b c d e f g h 峯岸邦夫 2018, p. 104.
  12. ^ 創世記11章3節
  13. ^ 田井中洋介「石錘による網漁」『縄文時代の考古学5 なりわい 食料生産の技術』(同成社、2007年)、pp.159 - 160
  14. ^ “アスファルトの歴史 浮上する謎も”. NHK. (2013年11月8日). オリジナルの2013年11月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131109050151/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131108/k10015891731000.html 2013年11月8日閲覧。 
  15. ^ 佐々木榮一「天然アスファルトの道◇秋田・豊川でかつて採掘 油田の歴史伝える◇」『日本経済新聞』朝刊2018年4月3日(文化面)
  16. ^ a b c d e f 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 140.
  17. ^ a b c d e f 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 131.
  18. ^ a b 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 142.
  19. ^ a b 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 143.
  20. ^ a b 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 141.
  21. ^ 大阪製油所の精製停止へ JXTG、発電事業に転換”. 共同通信 (2019年7月23日). 2019年7月23日閲覧。
  22. ^ a b c d e f g h i j k l m 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 127.
  23. ^ a b c d e f 峯岸邦夫 2018, p. 106.
  24. ^ a b c d e 峯岸邦夫 2018, p. 105.
  25. ^ a b c d e 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 128.
  26. ^ a b c d e f g 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 129.
  27. ^ a b c d e f g h i j 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 130.
  28. ^ 小西誠一著 『石油のおはなし』 日本規格協会 第1版第1刷 ISBN 4-542-90229-3


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