概念 と 訳語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 09:07 UTC 版)
ロジバンはその基盤として述語論理を採用しており、自然言語とは基本的な部分で異なっている。そのため、これを体系的に解説・把握する上で一般の言語学用語では間に合わない場合があり、ここでロジバン独自の概念をいくらか導入しておく必要がある。その前に、ロジバン独自の文法用語に対する訳語について簡単に触れておく。 2015年現在、日本語によるロジバン文法の入門書・解説書がいくつか出てきたため、訳語の体制は若干整いつつもある。しかしながら、日本のロジバンコミュニティの全体的な傾向として、ことさら訳語を充てずにロジバン本来の単語を用いているため、完全に確立された訳語体系は未だない。ロジバンの最も主力の文法書である "The Complete Lojban Language" の日本語抄訳においても、ロジバンの用語はカタカナに転写するのみであり、訳をあてていない。この傾向はロジバン研鑽の中心である英語圏でもみられる。以下は、入門書 "Lojban Wave Lessons" の "Foreword" の一節である: Lastly, I have as far as possible attempted to use the Lojban words for grammatical constructs: sumka'i instead of pro-sumti, sumtcita instead of modal and jufra instead of utterance. This is because I feel the English words are often either arbitrary, in which case they are just more words to learn, or misleading, in which case they are worse than useless. In either case, as long as the words are specific to those who are learning Lojban anyway, there is no reason for them to exist as separate English words. とはいえ、ロジバンの文法用語のいくつかにおいては、その基盤である形式論理学の用語を充てているものもある。たとえば、bridi、sumti、selbri といった用語はそれぞれ形式論理学の「命題」、「項」、「述語」としばしば訳されている。しかしながら、これらの概念は完全に同一ではないことに注意されたい。 以上の傾向を踏まえて、本記事においても、ロジバンの文法用語を無理に訳さず、オリジナルの単語を用いることにする。それでも、日本語話者の共通理解を準備するものとして、暫定的な日本語訳を提示しておくことは完全に無意義ではないだろう。以下の表では、ロジバン文法に関する、ロジバン由来および英語由来の文法用語にどのような日本語の文法用語が対応しうるかを示してある。 形に関するもの(形態論) brivlabridi valsi 用言動詞、形容詞、副詞 体言形容詞性/動詞性普通名詞 内容語 gimvlagismu valsi 語根 根語 jvovlalujvo valsi 合成語、複合語 合語 fu'ivlafukpi valsi 借用語、外来語 借語 ma'ovlacmavo valsi 用言名詞性動詞/形容詞、形容動詞、副詞、コピュラ 体言形式名詞 機能語 前置詞、接置詞、接続詞副詞、助詞、助動詞、関係詞(関係副詞)格助詞* cmevlacmene valsi 用言名詞性動詞/形容詞、形容動詞 体言固有名詞 名称語 * ロジバンには文法範疇としての格は存在せず、これに相当する語句の関係は place structure に内部化されている。文中の語順を変えるとき、この内部的な関係を維持するために該当語句に標識を付けることになり、この機能を日本語の格助詞になぞらえることができる。 brivla(ブリヴラ)、ma'ovla(マホヴラ)、そして cmevla(シメヴラ) は、それぞれ異なる形態法則に基づいており、形からはけっして混同されないようになっている。ロジバンの形態論上の三品詞である。多くの他言語と異なり、ロジバンでは品詞型と構文上の働きが独立している。品詞型そのものが構文上の働きを決定しないということである。例えば英語の名詞はその品詞型ゆえに述語となることがないが、 brivla をはじめとするロジバンの三品詞は述語にも主語(のようなもの)にもなる(後続の表を参照)。ただしこれは三品詞が文中においてどっちつかずの曖昧な存在であるということではない。構文上どのような振舞いをするかについては精密な統語論が設けられている。また、言葉の形が文法範疇に応じて変化することはないため、屈折や活用、ディクレンション、格変化などはロジバンにはない。 ma'ovla と cmevla という名称は、それぞれの語源である cmavo と cmene に略される。むしろそちらの方がコミュニティにおける実際の使用率は高い。 なお、valsi は「語」を意味する。 brivla との語呂が合致して品詞関係を把握しやすくなることから、 cmavo と cmene にそれぞれ valsi を付け加えた合成語、 ma'ovla と cmevla を用いることが正規の解説では有意義である。 ma'ovla には多くの下位分類がある。その一つ一つに分類名称(selma'o / セルマホ)が付いている。例えば attitudinal(心態表現に関する語)は UI という類名に属する。これは、代表的な attitudinal である ui という語に由来している。このように各類名はそれに属する象徴的な ma'ovla が元となっている。広義では同じ UI 類でも、たとえば evidential と discursive (ロジバン-日本語辞書ではそれぞれ「認識系」、「談話系」と訳されている)はさらに UI2 と UI3 という具合に狭義化されている。これらの類名は本格的な構文解析やパーサ開発の中で求められた区分であり、普段の会話で重視する必要はない。同類の ma'ovla は同じ文法に従うため、学習の際の参考材料にはなる。例えば UI 類の用法(文法的振る舞い)を習得するということはこれに属する ma'ovla を既知・未知に関わらず全て文法的に正しく使えるようになるということである。以下は ma'ovla の分類をいくらか簡略化した表である: digit/number PA 数詞、時数詞、量化子 数量詞 descriptor LA LE 冠詞 冠詞 abstractor NU 形式名詞 抽象詞 pro-sumti KOhA 代名詞、関係代名詞 代項詞 pro-bridi GOhA 代述詞 attitudinal UI 心態詞 emotion UI1 感動詞、間投詞 感情系 evidential UI2 法助動詞 認識系 discursive UI3 定義副詞 談話系 modifier UI4-5 感動詞、間投詞 修飾系 vocative COI 間投詞(呼格) 呼応系 connective A BIhI JOI GA GAhO GI GIhA GUhA JA 接続詞、論理演算子 接続詞 operator NAhU NUhA PEhO BIhE FUhA VUhU MAhO 演算子 演算詞 tense PU ZA VA ZEhA VEhA VIhA FAhA KI 助動詞、時詞 間制詞 aspect ZAhO ROI TAhE FEhE 助動詞 相制詞 modal BAI 助動詞 法制詞 rafsi 語幹、形態素 語幹 rafsi は、全ての gismu および幾つかの cmavo に具わる、語の合成に用いられる形態素である。これのみから合成されるのが lujvo であり、部分的に用いるのが fu'ivla である。 rafsi は単独では働かず、かならず他の文字列と結びついて用いられる。このことから rafsi は形態論・統語論の両面に関して独自の品詞型を呈さない。 文に関するもの(統語論) jufrali'erpau + cnipau + bridi 文 (sentence) 文 li'erpausumti 話題 (prenex) 話題部 cnipauma'ovla (attitudinal) 心態部 briditerbri + selbri + sumtcita 命題、式(論理式/原子論理式)(proposition) 命題部 selbribrivla ma'ovla + sumti ( ma'ovla + brivla ) + ma'ovla ma'ovla + sumti ( ma'ovla + cmevla ) + ma'ovla ma'ovla + bridi + ma'ovla ma'ovla + ma'ovla 賓辞/述語(predicate) 述辞 terbri*sumti ma'ovla ma'ovla + brivla ma'ovla + cmevla 主辞/主語、目的語、補語項、変数(argument) 項辞 sumtcita 名辞、付加詞 (term/tag) 付辞 tensema'ovla + sumti 時制**/テンス 間制 aspectma'ovla + sumti 相/アスペクト 相制 modalma'ovla + sumti 法/ムード、モダリティ 法制 * 項としての性質を持つ単位全般を sumti と呼ぶ。 bridi を築くうえで selbri のとる sumti は特に terbri と呼ばれる。 li'erpau と sumtcita でも sumti は用いられうる。 ** ロジバンでは時間だけでなく空間も tense の対象となる。よって、日本語の「時制」という限定的な用語を当てはめるのは不適切である。日本語訳としては両者の共通文字である「間」をとって「間制」としたものが最も定着している。これに伴い、相を表す aspect と法を表す modal にも「制」の字を持たせている。 place structure 意味フレーム、形成規則 項則 全ての selbri が有する、構文上の terbri の配列規則を place structure という。項としてどのような terbri を幾つ取り結ぶかは selbri の意味範疇や主題役割により様々である(結合価を参照)。デフォルトでは最大五つだが、必要に応じて拡張できる。項位置 としての諸 terbri の配列は x1 x2 x3 x4 x5 と表す。 gismu 表などでもこの表記が用いられる。 或る事象における能動・受動の関係すなわち態は、該当する selbri の place structure 中に内項と外項の違いとして内部化されている。このため、文面上では主格言語(例:日本語、英語)と能格言語(例:バスク語、チベット語)の相違に拘束されない。主観的な能動性・受動性を強調するための処方としては UI 類 ma'ovla を使うものがある。 tanru 用言複合動詞 体言複合名詞 重語 幾つかの selbri が連なって意味合が重層化したものを tanru という。構成要素は修飾側(seltau)と被修飾側(tertau)とに分かれ、後者が基本の place structure を提出する。よって統語論上はあくまでも単一の selbri として振舞う。 selbri に該当するものは全て sumti 化することができるので、 tanru もまた sumti 化することができる。なお、 jvovla は tanru を一語化したものと捉えられる。
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