ヴィジュアルデザイン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/04 04:00 UTC 版)
「モスクワ芸術座版『ハムレット』」の記事における「ヴィジュアルデザイン」の解説
この上演における最も有名なものはクレイグが使った一種類だけの簡素なセットで、大きく抽象的なスクリーンにより、場面ごとに演技ができるエリアの大きさや形が変わるようになっていた。これらのスクリーンは実用的でなく、最初の上演で落ちてしまったという劇場の伝説が残っている。この伝説はスタニスラフスキーの『芸術におけるわが生涯』(1924)にある一節までもとをたどることができる。クレイグは、スタニスラフスキーはこの話を削除すべきだと主張し、スタニスラフスキーは事故が起きたのはリハーサル中だけだったと認めた。スタニスラフスキーは結局、この事故は裏方のせいでクレイグによるスクリーンのデザインのせいではないとクレイグに誓った。スクリーンはクレイグのデザインが指定したより3メートルほど高いところに立てられており、事故はこのことも原因だったかもしれない。クレイグは特別な衣装を着て舞台に目に見える形で現れる裏方がスクリーンを動かすことを想定していたが、スタニスラフスキーはこのアイディアを却下した。このため場面の間に幕を降ろすのが必要になって遅れが生じ、クレイグのコンセプトにあった流動性と運動の感覚が妨げられた。それぞれの場面でスクリーンは違う配置になり、ハムレットの精神状態を空間的に表現したり、視覚的要素がそのままにとどまるか変わるかで一連の場面のドラマトゥルギー上の進行の基盤として機能した。衣装デザインについても2人の芸術家の間では意見の相違があった。たとえば、黙劇を含む場面ではクレイグは役者を演じる俳優たちに大きすぎるサイズのマスクをかぶせようとしたが、スタニスラフスキーはリアリズム的な演技のスタイルに響かないということでこのアイディアをバカにしていた。結局、役者たちは大げさなひげとカツラを含む化粧をするということで妥協が成立した。 クレイグの一人芝居的な解釈の核心は第一幕第二場の最初に宮廷が登場する場面の演出にある。舞台は照明を用いてはっきりと2つのエリアに分けられた。背景は明るく照らされている一方、前景は暗く陰になっている。スクリーンは後ろの壁に沿って並べてあり、拡散する黄色い照明でまんべんなく覆われている。高い玉座にクローディアスとガートルードが座り、そこに45度の角度に傾いた明るい金色の光があたり、封建制のヒエラルキーを示すピラミッドとなっている。ピラミッドのせいでひとつの統一された黄金の塊が見えるような錯覚を起こすが、ここから宮廷人たちの頭がまるで物体の裂け目から突き出ているかのような様子で飛び出て見える。前景は暗い陰になっており、ハムレットが夢を見ているかのようにかがんで横たわっている。ハムレットと宮廷の間にはゴーズがかかっており、この2つの場所の隔絶をさらに強調している。クローディアスの退場の台詞の際にはゴーズが緩められるまで人々はその場に居続け、その結果宮廷すべてが観客の目の前でとけていって、今や他に向いてしまったハムレットの思考の投影だったかのように見える。この場面、とくにゴーズを使った効果は観客からスタンディングオベーションを受けたが、これはモスクワ芸術座では今までなかったことであった。
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