VTOL機での使用 (STOVL方式)
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「スキージャンプ (航空)」の記事における「VTOL機での使用 (STOVL方式)」の解説
「インヴィンシブル」のスキージャンプから発進するシーハリアーFRS.1 「クイーン・エリザベス」のスキージャンプから発進するF-35B 1960年代、イギリスのホーカー・シドレー社は、世界初の実用垂直離着陸機としてハリアーの開発を進めていた。まずは空軍向けの攻撃機として開発されていたが、1969年頃からは、海軍向けの艦上戦闘機版(シーハリアーFRS.1)の開発も着手された。 ハリアーは垂直離着陸(VTOL)に対応しているが、離陸する際には、短距離でも滑走を行えば相当に搭載量を増やすことができることから、実際の運用では、垂直離陸(VTO)ではなく、短距離離陸(STO)と垂直着陸(VL)を組み合わせたSTOVL方式となることが多い。当初、装備を搭載したハリアーを発艦させるためにはカタパルトが必要と考えられていたが、母艦として予定されていた全通甲板巡洋艦(後のインヴィンシブル級)は蒸気タービンではなくガスタービンエンジンを主機とする予定だったため、カタパルトのための蒸気の供給が課題となっていた。これを解決するため、1969年、海軍のダグラス・テイラー中佐と、ホーカー・シドレー社のラルフ・フーパー技師が、ほぼ同時に、ハリアーの発艦支援設備としてスキージャンプ台を使うことを着想した。これは、まずエンジンノズルを船尾側に向けたままで水平な飛行甲板上を加速し、艦首のスキージャンプ台に差し掛かったところでノズルを回転させて推進力を部分的に下方に向け、半弾道の曲線を描きながらスキージャンプ台を通過することで、水平に滑走したときよりも高い高度まで機体を押し上げることができる、というものであった。このように高度を稼ぐことで、従来より大きな揚力を得ることができ、より重い機体でも浮揚することが可能になる。 1976年にホーカー・シドレー社のフォザード技師長がこの着想を取り上げて、本格的な研究が開始された。この結果、兵装最大積載状態であれば滑走距離を50パーセント以上減少させ、また滑走距離を一定とした場合はミリタリーロードを30パーセント増加できることが判明した。例えば、甲板上合成風速(WOD)25ノットの環境で、ハリアーが4,500キログラムの燃料・兵装を搭載してSTO発進する場合、スキージャンプを使わずにひたすら水平に滑走すると、滑走距離180メートルで離艦時対気速度222キロメートル毎時となるのに対し、12度のスキージャンプを使用すれば、離艦時対気速度は204キロメートル毎時に低下するうえに燃料・兵装を30パーセント増やしても安全に発進でき、また同じ搭載量であれば離艦時対気速度を130キロメートル毎時として滑走距離を3分の1に短縮することができると算出された。 1977年には、ベッドフォード基地の使用されていない誘導路に実験用のスキージャンプ台が設置され、同年8月から1979年6月までに計430回のテスト離陸が行われた。試験には、空軍のハリアーGR.1と、BAeがデモンストレーション用に自費製作した複座のハリアーT.52が使用された。この結果、スキージャンプ台の恩恵が確認され、試験を担当したテストパイロットであるジョン・ファーレイは、「これまで経験したことのない、総合的にWin-Winの最善のアイデア」と評した。当初、勾配角は6度とされていたが、後に20度までの様々な角度で試験が行われ、12度が最善であると結論された。しかしインヴィンシブル級の1番艦・2番艦では、艦首に設置されたシーダート発射機との干渉を避けるため、勾配角は7度とされた。一方、まだ起工前で設計を修正する余裕があった3番艦や、艦が大きく余裕があった「ハーミーズ」では勾配角12度とされており、1・2番艦でも後に同様に改修された。 また1978年9月には、陸軍工兵隊(英語版)によってハンプシャーの王立航空研究所にも勾配角15度のスキージャンプ台が設置されて、同年のファーンボロー国際航空ショーでハリアーによる発進がデモンストレーションされた。翌年、アメリカ海兵隊はこのスキージャンプ台を購入して、勾配角を12度に変更してパタクセント・リバー海軍航空基地に移設したのち、1981年にはチェリー・ポイント海兵隊航空基地に近いボーグ海兵隊予備着陸場(英語版)に移設して、海兵隊のハリアー操縦士の訓練に用いられた。1984年度計画からワスプ級強襲揚陸艦を建造する際には、スキージャンプを設置することも検討されたものの、スキージャンプ部分でヘリコプターが発着できなくなって同時発着数が減少することが問題視され、艦型が大きく十分な滑走距離を確保できることも勘案して、結局は採用されなかった。
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