S-IVB(第三段)飛行手順
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/12 15:03 UTC 版)
「サターンV」の記事における「S-IVB(第三段)飛行手順」の解説
S-II(第二段)とS-IVB(第三段)の接続部分はS-IIと一体化されているため、切り離しの手順は一度で済まされる。 アポロ11号の飛行では、第三段ロケットは発射後11分40秒で燃焼を停止するまで2分半にわたり噴射され、待機軌道に乗った。この時点で発射場からはすでに2,640km離れた地点を飛行しており、高度は188km、速度は秒速7,790m(時速28,000km)であった。第三段はアポロ宇宙船を搭載したまま地球を二周半し、その間に飛行士と地上の管制官たちは、月軌道に投入するための準備をした。 待機軌道は通常の衛星に比べると極めて低いもので、そのままでは空気抵抗のために速度が減少し、大気圏再突入してしまう。しかし月飛行の場合は待機軌道には短期間しか滞在しなかったため、それほど問題になることはなかった。S-IVBは再点火する前に推進剤をタンクの底に押しつけるため、燃料の液体水素を排気して微少推力を発生させる。 アポロ計画の最後の3回のミッションでは、搭載物重量を増加させるため待機軌道は150kmにまで下げられた。逆に月飛行を目的としないアポロ9号とスカイラブでは、軌道は他の有人飛行なみの十分な高度にまで高められた。 アポロ11号では、月軌道投入は発射後2時間44分であった。S-IVBはエンジンをおよそ6分間にわたって噴射し、宇宙船を脱出速度に近い秒速11.2km(時速40,320km)にまで加速した。これにより宇宙船は月の重力圏にとらえられ、燃料の消費は最小限に抑えられた。 軌道投入から40分後に司令・機械船はS-IVBから離れ、180度転回して月着陸船とドッキングした。さらにその50分後に、司令・機械船および月着陸船は使用済みの第三段から分離した。 S-IVBは、もしそのまま同じ軌道上に残っていれば、宇宙船と衝突するなどの障害が発生する可能性があるため、残った燃料を排出し、補助の推進システムを噴射して軌道から離された。アポロ12号以前のミッションでは、S-IVBは月の重力を利用したスイングバイ軌道に乗るよう制御され、地球の重力圏を脱して太陽を周回する軌道(人工惑星軌道)に乗せられた。13号以降では月面に衝突するようコントロールされ、それ以前のミッションで月面に設置された地震計は、その衝撃をはっきりととらえていた。このデータは、後に月の内部構造を知るための重要な手がかりとなった。 アポロ9号は地球周回軌道上で宇宙船の性能を試験する特別なミッションであったため、S-IVBはエンジンを再点火した後、地球周回軌道を離れ、惑星軌道に乗せられた。 2002年9月3日、香港出身のアマチュア天文学者Kwong Yu Yeung(楊光宇)は小惑星と思われる物体を発見した。J002E3と仮称されたこの物体は、地球を周回する軌道上に存在していることが判明し、世界中の天文学者を驚かせた。なぜなら通常はこのような軌道を周回する衛星は、地球・月・太陽の摂動によってすぐに軌道外にはじき出されてしまうからである。スペクトル分析の結果、この物体の表面はサターンVの塗料と同じ二酸化チタンで覆われていることが明らかになった。そして軌道変数を計算すると、この小惑星と思われた物体は、アポロ12号の第三段であることが判明した。 12号のミッション当時、地上の管制官は宇宙船を切り離した後、S-IVBを惑星軌道に乗せるよう操作したが、ロケットの燃焼時間が長すぎた。そのためスイングバイ軌道で月を通過する距離が離れすぎ、速度が不足したため地球を周回する軌道上に残ってしまったのである。なお1971年当時には、12号のS-IVBは重力の摂動により、31年後には再び地球の重力圏にとらえられると考えられていた。しかしその後J002E3は、2003年6月に地球周回軌道を離れ、太陽を周回する軌道に移行した。
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