月の重力圏
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/25 02:43 UTC 版)
発射から55時間40分後、飛行士たちは他の天体の重力圏に入った初めての人類となった。これは言い換えれば、8号に及ぼす月の万有引力が地球のものよりも大きくなったことを意味する。またこの瞬間の宇宙船の位置は月面から 38,759マイル (62,377 km) で、月に対する相対速度は秒速3,990フィート (1,220m) だった。だが飛行士たちは、この歴史的瞬間にも大して関心を払わなかった。月周回軌道に進入するためのエンジン噴射が近づいてきており、その計算作業に没頭していたからである。軌道進入まで、13時間しか残されていなかった。 軌道進入までに行わなければならない最も重要な作業は、二度目の軌道修正であった。ロケットを逆噴射 (進行方向に向かって噴射) し、速度を秒速 2.0フィート (0.61m) 減速して、宇宙船が月を通過する際の月面からの最接近点を下げるのである。発射からちょうど61時間後、月からの距離 24,200マイル (38,900km) の地点で飛行士たちはRCSエンジンを11秒間噴射した。これにより宇宙船は月の表面から 71.1マイル (115.4km) の地点を通過することになった。 発射から64時間後、飛行士たちは月周回軌道進入の準備を始めた。この操作は完璧に行われなければならないものであった。また軌道力学的な理由により、その操作が行われるのは (地球から見て) 月の裏側の地点だった。68時間後、管制センターは操作を実行するかどうかの最終的な検討をした後、「予定通り実行せよ」との指令を伝えた。68時間58分後、宇宙船は月の裏側に入り地球との無線連絡が途絶えた。 軌道進入噴射の10分前、飛行士たちは最後のチェックをし、すべてのスイッチが正しい位置にセットされていることを確認した。そのとき彼らには、月の様子を眺める最後のチャンスがあった。宇宙船はちょうど月の夜の部分から昼の部分へとさしかかっていて、太陽光が月の表面を斜めに照らしているのをラヴェルが発見したが、噴射の時間は2分後に迫っていたため、飛行士たちにはその光景を楽しむ余裕はなかった。
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