OECDの適正技術の定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/17 06:48 UTC 版)
「適正技術」の記事における「OECDの適正技術の定義」の解説
シューマッハー以降、さまざまな公的機関や国際機関が適正技術について論じるようになった。 経済協力開発機構(OECD)の調査機関である「開発センター(Development Centre)」は、1972年に途上国への技術移転についての最初の国際セミナーを開催した。このセミナーの延長線上に技術選択に関する政策的課題として「低コスト技術」を取り上げ、1974年に実務家向けの国際セミナーを開催した。その後も議論を深め、研究員であったニコラス・ジェキェ(Nicolas Jequier)を中心として『適正技術:問題点と展望』(Appropriate Technology:Problems and Promises)と題した報告書を出した。 同報告書の第1章では適正技術の語源と定義について説明しているが、「適正技術」「低コスト技術」「中間技術」等として呼ばれる技術には、広く受け入れられる定義は存在しないと記述されている。「中間技術」という場合には工学分野になじみやすい概念であるのに比べ、「低コスト技術」では経済学の概念の色彩が濃く、「適正技術」という表現では、社会的・文化的な価値基準に照らした判断という意味合いが強いとした。 また報告書が強調したもう一つの点は、「革新(innovation)」の重要性であった。通常「革新」を使うときに問題とされる技術は、いわゆる先端技術であるが、適正技術論における革新は、例えば水車のように、過去に使っていた経験があるが現在は「眠っている技術」を呼び起こすことも含み得るということである。 OECDの示した適正技術論には、「外国資本導入による上からの工業化が発展途上国の当初の期待を裏切り、問題を解決していない」という認識があった。このため革新の機会を増やすシステムを重要視すべきであり、革新の担い手である発明家や企業家が多く出現する環境を創出する必要があると論じた。これを実現するためには2つの方法があるとした。以下に示す。 革新には成功と失敗の両方がつきまとうことを理解した上で、中間技術の革新の試みが多くなされる社会環境をつくることであり、失敗の数は多くとも成功例の歩止まりもある程度達成できる方法を採用すること 成功に貢献した諸要素を系統的に検証していくことで失敗の比率を低減させていくこと OECDの適正技術論は、技術の政治的側面や社会的側面を重視したことで議論を大きく前進させた。しかし、革新の機会を増やすシステムの具体的内容については多く提示するまでには至らなかった。
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