NATO標準化に関する問題
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「EM-2」の記事における「NATO標準化に関する問題」の解説
1949年、北大西洋条約に基づく北大西洋条約機構(NATO)が結成された。NATOでは各加盟国の軍隊における銃火器や弾薬の共通化が1つの優先事項として掲げられ、各国の要求を全て満たしNATO全軍が採用しうる銃火器の設計が求められた。最初にこれに応じたのはアメリカで、彼らは7.62x51mm弾を使用する試作小銃T25およびT44を提案した。1951年、アバディーン性能試験場でEM-2を含む各種新形小銃のトライアルが行われた。この際、アメリカ側はイギリス製銃弾は威力に乏しいと批判し、イギリス側もアメリカ製銃弾は強力過ぎてフルオート射撃の制御が難しいと批判した。トライアルにはベルギーのファブリックナショナル(FN)が設計した.280弾型FN FALも登場した。長らく続いた標準化に関する議論は、カナダが「アメリカが共同歩調を取る場合のみイギリスの.280弾を採用する」と宣言した事で決着した。そのような事態が起こる可能性は非常に低く、この宣言によりイギリスは7.62x51mm弾を受け入れざるを得ない状況に追い込まれた。ウィンストン・チャーチルはNATO標準化が銃の性能よりも重要と考え、既にマニー・シンウェル前国防相の元で宣言されていた.280弾とEM-2の採用を撤回した。この間、EM-2の使用弾を変更した何種類かの派生型が試作されている。シャンボンスでは7x49mm弾を使用するものと7.62x51mm弾を使用するものの2種類を試作した。7.62x51mm弾試作型の1つは後に.30-06弾仕様に改造された。RSAFエンフィールドでは10丁の、BSAでは15丁の7.62x51mm弾仕様のEM-2を製造した。カナディアン・アーセナルでは7x51mm弾仕様のものが10丁製造された。 結局、EM-2を7.62x51mm弾に適応させることは不可能と判断され、最後に残った現実的な選択肢はライセンス生産型FAL、すなわちL1A1自動小銃の採用であった。FALもまた、.280弾仕様から再設計された小銃であったものの、銃のサイズ自体が大きく重量があったため、より長く強力な7.62x51mm弾にも比較的簡単に適応していた。チャーチルはイギリス連邦各国を始めとするNATO諸国、そして、アメリカ陸軍がFN FALを採用する事を期待していた。しかし、アメリカでは試作小銃T44の採用を決定し、これにM14という制式名称を与えたのである。 その後、実戦の中でイギリスの中間威力弾に対する立場の正しさが立証された。あまりに強力な7.62x51mm弾はフルオート射撃に不向きで、結局はより小口径の弾薬が求められるようになったのである。1960年代半ば、アメリカ軍はアーマライト社のAR-15をM16として採用した。これは、5.56x45mm弾を使用する小型自動小銃で、十数年前に採用されたM14を更新していった。その数年後にはNATO各国もNATO標準弾をフルオート射撃やより小型の火器に適した小口径銃弾に更新する事で合意し、最終的に5.56x45mm弾が新たなNATO標準弾に採用された。なお、この決定の直前、イギリス軍では別の中間威力弾の開発に着手していた。1970年頃、採用見送り後も保管されていたEM-2のうち2丁が試作型中間威力弾である6.25x43mm弾仕様に改造された。しかし、より小口径の4.85mm弾が試作されるとL64/65(英語版)小銃が新たに設計されたため、EM-2の復活はごく短期間に終わった。なお、L64/64小銃は、現在イギリスで採用されているSA80シリーズの直接的な原型である。ブルパップ型レイアウトによる外見上の類似にも関わらず、SA80シリーズの構造はEM-2と大きく異なり、むしろ実質的にSA80はAR-18あるいはSAR-87(英語版)のブルパップ改良型と見なされる。ただし、EM-2開発時の歩兵用個人装備(Infantry Personal Weapon)に関するアイデアはSA80にも反映されている。
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