20世紀の神話学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 21:06 UTC 版)
20世紀に入ると、前世紀の神話研究における主要な考えであった神話と科学の対立という見方は否定され、種々の観点から神話に対して膨大な研究が行われ、神話学は広い学問分野となった。一般に、「20世紀の理論は、神話を時代遅れの疑似科学とはみなさない傾向にあり、科学を理由に神話を無視するようなことはしない」と述べてられている。神話研究にも構造主義人類学や心理学からのアプローチが行われた。レオ・フロベニウスなどドイツの民族学者たちが世界中の神話を収集し、分布や文化史上の意義を定めた、ほかに代表的なものとしては、ジョルジュ・デュメジルらによる比較言語学的な比較神話研究、クロード・レヴィ=ストロースの文化人類学からの研究などがある。 神話収集に寄与したドイツの民族学者アードルフ・イェンゼンは農作物の始原を語る神話の一種「ハイヌヴェレ型神話」と初期栽培民分化の関連性に、さらに儀礼のタイプを考慮に加えてひとつの一貫した世界像を洗い出した。この世界像を基礎に据えて初めて、各神話や儀礼を正確に解釈できるとイェンゼンは主張した。イェンゼンの理論は日本の神話学者大林太良にも影響を与えている。 ヘルマン・バウマンはイェンゼンと逆に、各創世神話に見られる宇宙観に着目した。このような世界観を構築するには、それぞれの文化がある程度発達していなければならず、バウマンは過去の研究者が未開状態の人類が創った神話から順を追ったのに対し、高い文化社会の神話を分析の対象とした。これによって、高文化地域の神話が周辺の未開社会へ影響を与えることが明らかとなった。 カール・ユングは、心理学と神話研究を結び付け、すべての人間は生まれながらの心理的な力を無意識に共有する(集合的無意識)と主張し、これを「元型」と名づけた。彼は、異文化間の神話に見られる類似性から、このような普遍的な原型が存在することを明らかにできると考え、この元型が表現された一つの形態が神話だと論じた。 さらに、ユングとの関係が深いカール・ケレーニイはギリシア神話を中心に、宗教学・文芸批評の知見に基づく研究を行った。なおユングとケレーニイは、ミルチャ・エリアーデを中心とする比較宗教学の研究者たちとも、エラノス会議で交流があった。 クロード・レヴィ=ストロースも構造主義の立場にたって、神話は心の有り様を反映したものだと唱えた。ただし無意識や衝動ではなく明確な精神機構、特に対立する神話素(英語版)の組み合わせである二項対立があると考えた。 比較神話研究からは、異なる神話(体系)に共通する神話類型やモチーフ(神話素)が明らかにされ、民族学的な関係の有無や心理的基盤に関しても多く議論されている。 ジョーゼフ・キャンベルは、神話第一の機能は「神秘な存在に対する畏敬の念を想起させ支持させる」ことにあり、さらに「各個人に自己の精神を現実的に秩序づけるよう導く」ことに役立つと言及した。
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