鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯とは? わかりやすく解説

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鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯

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鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/09 09:41 UTC 版)

鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯。尾根上にゴヨウマツ(キタゴヨウ)が自生するのが確認できる。2009年7月26日撮影。

鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯(うずらがわゴヨウマツじせいほくげんちたい)とは[† 1]北海道檜山郡厚沢部町峠下にある、国の天然記念物に指定されたゴヨウマツ(キタゴヨウ)の自生地である[1][2][3][4]

ゴヨウマツ(五葉松、学名:Pinus parviflora)は、マツ科マツ属の常緑高木であるが、形態的な差異や分布域の違いにより、本州中部地方以北から北海道に分布するものは、変種キタゴヨウ(北五葉、学名:P. p var. pentaphylla)として記載されている[5]。一方、本州中部地方から南側の四国地方九州地方にかけて生育する基変種ゴヨウマツは、キタゴヨウに対してヒメゴヨウ(P. p var. parviflora)とも呼ばれる[5]

このうち北方種とされる[4][6]キタゴヨウは、北海道南部の渡島半島西部を流れる厚沢部(あっさぶ)川の支流、鶉川(うずらがわ)上流部の右岸一帯が日本海側におけるまとまった自生の北限である[2]。当地のキタゴヨウは散生しており生育状況も良好とはいえないものの[3]、日本海側方面におけるゴヨウマツの自生北限地としての価値があり[4]、指定基準10の「著しい植物分布の限界地」として[3]、指定時期としては比較的初期の1928年昭和3年)2月7日に国の天然記念物に指定された[1][2]

解説

鶉川
ゴヨウマツ
自生
北限地帯
鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯の位置
鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯付近の空中写真。鶉川右岸(西岸)沿いの険しい尾根上に生育する。2022年3月に確認された2カ所の自生地を黄色の枠で囲んで示す。
厚沢部文化遺産調査プロジェクト 2022年より作成[7]。撮影高度2450メートル。1976年8月26日撮影の画像を使用作成。国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成

鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯は、北海道南西部の渡島半島西岸、日本海に面した檜山郡厚沢部町を流れる厚沢部川上流の支流、鶉川(うずらがわ)上流部に所在する。この場所は渡島半島を東西に分ける分水嶺近くの西側に当たり、函館市方面と厚沢部町を結ぶ国道227号の中山峠(渡島中山峠)を厚沢部町側へ少し超えた場所から、鶉川国有林へ続く林道を約3キロメートル登った付近に天然記念物の指定地がある[8]

北海道のゴヨウマツ(以下、キタゴヨウと表記する)の自生地を大きく地理的に見ると、日本海側では松前半島奥尻島にそれぞれ1団林、太平洋側では日高山脈アポイ岳山塊(同じく国の天然記念物の幌満ゴヨウマツ自生地)と東大雪ニペソツ山山系にそれぞれ1団林あるが、この内もっとも高緯度にあるものはニペソツ山系の自生地である[2][† 2]。鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯は日本海側における北海道本土最北端の自生地として知られている[2]

鶉川のキタゴヨウの自生は、隣接する落部川の群落とともに北海道帝国大学植物学者である舘脇操により昭和初期に現地調査が行われ、1927年昭和2年)に札幌農林学会報に調査内容が報告された[9]。この付近一帯の山林は1908年明治41年)以降、水源涵養や土砂流出防止のため伐採が禁じられており[2]、良好な植生が保持されていたものと考えられ、館脇の報告によれば鶉川の自生地の標高は約600メートル、樹木個体の大きさは、胸の高さの直径が10から60センチメートル、樹高は10メートルから20メートルであった[10]

報告の翌年の1928年(昭和3年)2月7日に鶉川上流部の面積1200ヘクタールが「鶉川五葉松自生北限地帯」として国の天然記念物に指定されたが、1951年(昭和26年)3月10日にキタゴヨウの少ない個所が解除となり[3]、361.6ヘクタールに減少している[1]

鶉川上流部の自然林植生(植林地を除く)は、大部分がブナチシマザサで優占されており、キタゴヨウは鶉川右岸の険しい尾根上や尾根筋に隣接する急斜面に優占して生育しており[5]、小規模な団林が点在して形成されている[2]。ゴヨウマツ類は分布域があまり広くなく、森林の主要な構成樹となることはほとんどない[11]。指定地での優先樹種は先に述べたブナをはじめ、オヒョウミズナラシナノキハリギリといった落葉広葉樹が多く、林床にはチシマザサをはじめ、ハイイヌガヤノリウツギ、オオバクロモジ、オオカメノキが多く、全体的にブナ林の要素が強い[2]。一方でキタゴヨウ以外の常緑針葉樹ヒノキアスナロエゾマツなどで、針葉樹と落葉樹の混交林帯を形成しているが、このような針葉落葉が安定して混生する針広混交林帯は北東アジア特有のもので、世界的に見ると珍しいものであるという[11]

鶉川の川沿いにある先述した林道の一角に天然記念物であることを示す表示と解説版が設置されており、ここから西側(右岸)の険しい尾根の上にキタゴヨウの姿を遠望することができる[12]。また、2022年令和4年)3月27日に指定地南西側の主稜線尾根から踏査した厚沢部文化遺産調査プロジェクトによれば、鶉川右岸沿いの険しい尾根上の2カ所にキタゴヨウの自生地が確認されている[7]

いずれにしても北海道におけるゴヨウマツ(キタゴヨウ)の自生地は極めて少なく、かつて最大規模の自生地は日高地方様似町の平鵜(ひらう)にあり、国の天然記念物にも指定されていたが激減してしまい、太平洋戦争中に指定が解除されている[9]。また先述した鶉川に隣接する落部(おとしべ)川流域(現二海郡八雲町)の自生地も、太平洋戦争の戦前戦後に行われた伐採と1945年(昭和20年)に立て続けに北海道地方へ襲来した台風による倒木が相次ぎ、団林(群生地)としてはほぼ消滅している[10]

ゴヨウマツを含むマツ属は主に他個体との交配によって次世代が作出されるが、ゴヨウマツの集団は隔離分布していることに加えて、近年の森林開発や地球温暖化などの影響により小集団化や孤立化が進んでしまい、結果的に自殖の増加と、それに伴う近交弱勢が危惧されている[13]

交通アクセス

所在地
  • 北海道檜山郡厚沢部町峠下[8]
交通

脚注

注釈

  1. ^ 鶉川の「川」の読み仮名は「がわ」「かわ」の濁点有無表記揺れがあるが、本記事では文化庁の国指定文化財等データベースに倣った。
  2. ^ 分布の北限を日高山脈北部の芽室岳とする資料もある。谷尚樹(2014)p.73。

出典

  1. ^ a b c 鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯(国指定文化財等データベース) 文化庁ウェブサイト、2023年5月1日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h 伊藤(1995)、p.302。
  3. ^ a b c d 本田 (1957)、p.91。
  4. ^ a b c 文化庁文化財保護部 (1971)、pp.99-100
  5. ^ a b c 谷 (2014)、p.73。
  6. ^ 伊藤 (1995)、p.301。
  7. ^ a b 鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯でゴヨウマツを確認する 厚沢部文化遺産調査プロジェクト LocalWiki 2023年5月1日閲覧。
  8. ^ a b c d e 鶉川ゴヨウマツの自生北限地帯/檜山を旅しよう 檜山振興局公式ウェブサイト 2023年5月1日閲覧。
  9. ^ a b 館脇・辻井・河野 (1960)、p.122。
  10. ^ a b 館脇・辻井・河野 (1960)、p.123。
  11. ^ a b 沖津 (1995)、p.303。
  12. ^ 鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯 南北海道の文化財 道南ブロック博物館施設等連絡協議会 2023年5月1日閲覧。
  13. ^ 谷 (2014)、p.76。

参考文献・資料

  • 加藤陸奥雄他監修・伊藤浩二・沖津進、1995年3月20日 第1刷発行、『日本の天然記念物』、講談社 ISBN 4-06-180589-4
  • 文化庁文化財保護部監修、1971年5月10日 初版発行、『天然記念物事典』、第一法規出版
  • 本田正次、1958年12月25日 初版発行、『植物文化財 天然記念物・植物』、東京大学理学部植物学教室内 本田正次教授還暦記念会
  • 舘脇操・辻井達一・河野昭一「北海道ゴヨウマツ林の群落と分布」『日本生態学会誌』第10巻、一般社団法人日本生態学会、1960年6月1日、120-123頁、NAID 110001882559 
  • 谷尚樹「日本の森林樹木の地理的遺伝構造(5)ゴヨウマツ(マツ科マツ属)」『森林遺伝育種』第3巻、森林遺伝育種学会、2014年4月25日、73-77頁、NAID 130007872849 

関連項目

  • 国の天然記念物に指定された「常緑針葉樹の自生地および分布限界」のうち、分布限界を指定要因とする本件以外のものは次の4件。

外部リンク

座標: 北緯41度59分43.0秒 東経140度25分18.5秒 / 北緯41.995278度 東経140.421806度 / 41.995278; 140.421806



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