追試と批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/21 16:57 UTC 版)
ラットパーク実験は発表された結果がセンセーショナルなものであった為、後に多くの研究者によって追試が行われたが、様々な異なる結果が得られた事から、同意と共に多くの批判にも晒される事になった。 アレクサンダーに師事した大学院生であるブルース・ペトリーが1996年に行った追試では、実験環境を複製 (統計)(英語版)したにも関わらずアレクサンダーの研究結果を再現できなかったばかりでなく、ケージに入れられたラットとパークに入れられたラットの双方がモルヒネに対する好みが低下している傾向が発見された。ペトリーはアレクサンダーが実験した当時のラットが遺伝的理由によりモルヒネに対して興味を示さなかった可能性(潜在的な交絡)を示唆した。 別の研究では、社会的孤立はヘロインの自己投与のレベルに影響を与える可能性を排除こそしなかったものの、孤立そのものはヘロインまたはコカインの注射を強化するための必須要件ではない事が結論づけられた。 投与薬物をコカインに変更した幾つかの追試では、パークの環境がラットのコカイン摂取行動そのものを完全に止める事はできなかったが、パーク内のラットはコカインの探索行動の頻度が低下する傾向が見られ、ラットをパークから外に出すとコカイン依存症(英語版)に対する脆弱性が増加する傾向は確認された。また、ラットが若年のうちにパークのような複雑な外的刺激が得られる環境に置かれる事で脳の報酬系に劇的な変化が生じ、コカインの効果自体が低下したという結果も得られ、マウスの行動の環境による強化(英語版)が改めて確認される事となった。 これらの研究の結果は、ラットパーク実験の結果を再現するには至らなかったが、実験動物の飼育に使用される標準的な小さなケージ環境が、実験動物の行動や生物学に過度の影響を及ぼしているという可能性は示唆される事になった。この事実は、「健康状態を管理された実験動物は健康である」という生物医学(英語版)研究の基本的な前提を揺るがすものであり、これらの実験動物によって成り立っている他の動物や人間の生物医学研究の条件や関連性の双方を危険に晒しかねないものとなっている。 ラットパーク実験は、元々の実験に存在する幾つかの方法論上の問題の為、完全に元の状態を再現する事が非常に難しい実験となってしまっている。問題点としては使用されたラットの総数が少なすぎる事、「味付けや濃度を任意に変更する事が出来る」欠点を内包した経口モルヒネの使用等が挙げられるが、一部の研究者の間では「依存症に対する環境的および社会的豊かさとの関連性」の探求の為、ラットパーク実験の「概念的な複製実験」に引き続き興味が持たれている。
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