超可変領域
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/16 22:38 UTC 版)
「16SリボソームRNA」の記事における「超可変領域」の解説
細菌の16S rRNA遺伝子には、リボソーム小サブユニットの二次構造に関与する、9つの超可変領域(V1-V9)が含まれており、これらの長さは約30-100塩基対である。保存の程度は超可変領域間で大きく異なり、より保存された領域は門や綱といったより高レベルの分類法に利用でき、一方で保存度の低い領域は属や種といったより低レベルの分類に利用される。16S rRNA配列全体をシーケンスすることで全超可変領域の比較が可能になるが、16S rRNAは約1,500塩基の長さを持つため、多様な細菌群集を満遍なくシーケンスするには費用がかかってしまう。そのため、細菌叢解析のような研究では通常、Illumina社製のゲノムシーケンス技術を利用しており、454パイロシーケンスやサンガーシーケンスよりもそれぞれ約50倍、12,000倍ほど安価にシーケンスすることができる。しかしながら、Illumina社製シーケンサーでは75〜250塩基(Illumina MiSeqでは最大300塩基)のリード長しか得られないため、細菌叢サンプルから16S rRNA遺伝子配列を完璧に組み立てることはできない。一方で、超可変領域はその短さのため、Illuminaシーケンサを1回実行するだけで配列解析を行えるため、この超可変領域は菌叢解析における理想的なターゲットになっている。 16S rRNA超可変領域は、細菌系統間で大きく配列が異なる場合があるが、全体としては16S rRNA遺伝子は真核生物(18SリボソームRNA)よりも良く均一性を維持しているため、アライメントが比較的容易である。さらに、16S rRNA遺伝子には超可変領域間の高度に保存された配列が含まれているため、異なる分類群にわたって同じ超可変領域を確実にPCR増幅できるユニバーサルプライマーの設計が可能である。すべての細菌系統をドメインから種に渡って正確に分類できる超可変領域は存在しないが、特定の分類レベルをほぼ確実に予測できるものもは知られている。多くの菌叢解析研究では、完全な16S rRNA遺伝子と同程度の正確性で門レベルの系統解析を行うことができるV4超可変領域を選択することが多い。保存度の低い領域は、高次の系統分類には不向きであるが、例えば特定の病原体を検出するような用途でよく利用される。2007年にChakravortyらが発表した研究では、どの超可変領域が疾患特異的かつ広範なアッセイに利用できるかを調べ、さまざまな病原体のV1-V8領域を報告している。また他の研究では、病原体の属の特定にはV3領域を利用することが最適であり、炭疽菌を含むテストされたすべてのCDC監視病原体においてはV6領域が種の区別に最も高い正確性を示した、と報告されている。 16S rRNA超可変領域をベースとした配列解析は、細菌系統の分類学的研究にとって有用であるが、ごく近縁の種同士を区別することは困難な場合がある。例えば腸内細菌科、クロストリジウム科、およびペプトストレプトコッカス科では、種間で16S rRNA遺伝子全体の最大99%の配列類似性をもつことが知られている。この場合、種間差異はV4配列中のほんの数塩基にしか出現しないため、特に低レベルの分類において、参照データベースに基づく手法では確実に分類することが困難である。また、利用する超可変領域の数を絞るほど、近縁な分類群の違いを観察できなくなり、サンプル全体の多様性の過小評価に繋がりうる。さらに、細菌のゲノムは、多様なV1、V2、V6領域の配列を持つ複数の16S rRNA遺伝子をマルチコピーで保持する場合がある。これらの理由から、16S rRNAの超可変領域に基づく解析は、細菌種を分類する完璧な方法とまでは言えない。しかしながらこのような欠点がありつつも、現実的には細菌群集研究に利用できる最も有用なツールの1つとして今日利用されている。
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