貸し渋り・貸し剥がしとは? わかりやすく解説

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信用収縮

(貸し渋り・貸し剥がし から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/28 04:55 UTC 版)

信用収縮(しんようしゅうしゅく、credit crunch、別名:信用危機信用逼迫credit crisis, credit squeeze)とは、融資枠(または信用枠、availability of loans (or credit))の縮小、あるいは銀行の融資条件の急激な厳格化、という現象である。一般的に、信用収縮は公的金利の上昇と無関係な信用枠の縮小を含む。このような状況下では、融資枠と金利の関係は暗黙のうちに変化する。つまり、公的金利と無関係に融資枠が縮小したり、金利と融資枠との間の明瞭な関係が失われる(すなわち信用割当(credit rationing)が発生する)。信用収縮は、貸し手や投資家がよりリスクの低い国債などの投資先を(しばしば中小企業を犠牲にして)探す質への逃避(flight to quality)をもたらす[1]リチャード・ヴェルナーは、1991年という段階で、日本が歴史的規模の不況型クレジットクランチに移行し、銀行破綻を招こうとしていることを指摘していた[2]

背景と原因

銀行が突然融資をストップまたは貸し渋りする理由はいくつかある。予想される担保価値低下、融資先の業績の悪化、金融環境の外因性変化(例えば中央銀行が突然、預金準備率を上げる、あるいは新しい融資規制を課す状況)、金融界で直接信用管理を行わせる中央政府、金融界内部で他行のソルベンシー・マージン比率solvency)に関するリスク意識の向上、などである[1][3][4]

信用収縮は、しばしば不注意で不適切な融資の継続によって発生する。それらの融資における焦げ付きの発生や貸倒れ(不良債権bad debt)の蔓延が知られるようになると、融資機関と投資家は損失を被り債務debt)を負う[5][6]。これらの機関は信用枠を削減し、金利を上げることにより信用取引のコストを増加させる。中には損失を出した結果、純資産が減少し、貸し手が追加融資したくてもできないという場合もある。

一般的に信用収縮は、"膨らみ過ぎた"資産の市場価格下落と価格崩壊による金融危機によって生じる[7]。その結果、膨れ上がった資産価格が急激に下落し、投資家や市場に遅れて参入した起業家への幅広い差押え倒産が起こる。対照的に流動性危機(liquidity crisis)は、健全な事業に対して、事業拡大またはキャッシュフロー支払いを円滑化するために必要なつなぎ融資(ブリッジ・ファイナンス、bridge finance)が一時的に実行できない場合に発生する。この場合、追加信用取引により、企業による問題への対処と支払いおよび事業の継続が可能になる。危機の最中には、問題を抱える事業が支払い危機の状態にあるのか、それとも一時的な流動性危機の状態にあるのか、判断することは難しい。

信用収縮が発生した場合、"値洗い"(mark to market、時価評価損益の計算)を行うことが望まれる。そして影響を受けた事業の金融資本が信用循環の後退フェーズを生き残るために不十分な場合、その事業は売却または清算される。他方、流動性危機の場合は、追加信用取引を求めることが望まれる。一旦流動性危機が克服されると成長のための機会が期待できる。

長期の信用収縮は、安易で潤沢な融資("あぶく銭"あるいは"信用喪失")とは対極にある。信用循環が上昇フェーズの間は、資産価格の激しい値付け競争、借入金をてこにした入札、特定の資産市場におけるインフレーションなどが生じる。その結果、投機価格"バブル"が発生する。これがまたマネーサプライmoney supply)を拡大、経済活動を刺激し、経済成長雇用の一時的な上昇をもたらす[8][9]

関係者にとってバブルがいつ崩壊したかは、後から振り返った時にのみ分かる。経済バブルは、ポンジ・スキーム(Ponzi scheme)や無限連鎖講(ピラミッドスキーム、Pyramid scheme)のようではない、ダイナミックな特徴を持っている[10]

世界恐慌最中の1931年、ケインズは次のように述べている。「悲しいかな、健全な銀行家とは、危険を予測してそれを回避する人ではなく、破産した時に誰も自分を非難できないように、仲間と一緒にありきたりの方法で破産する人のことだ。」[11]

注釈

  1. ^ a b Is There A Credit Crunch in East Asia? (PDF) Wei Ding, Ilker Domac & Giovanni Ferri (World Bank)
  2. ^ 1991 – "The Great Yen Illusion: Japanese Capital Flows and the Role of Land," Oxford Applied Economics Discussion Paper Series, Oxford: Institute of Economics and Statistics, University of Oxford, No. 129, December
  3. ^ China lifts reserve requirement for banks Archived 2011年8月8日, at the Wayback Machine.
  4. ^ Regulatory Debauchery (PDF) Archived 2009年12月29日, at the Wayback Machine., Satyajit Das
  5. ^ Has Financial Development Made the World Riskier? (PDF) , Raghuram G. Rajan
  6. ^ Why economic theory is out of whack Archived 2008年12月19日, at the Wayback Machine., Mark Buchanan, New Scientist, 19 July 2008
  7. ^ How the French invented subprime
  8. ^ Rowbotham, Michael (1998). The Grip of Death: A Study of Modern Money, Debt Slavery and Destructive Economics. Jon Carpenter Publishing. ISBN 9781897766408 
  9. ^ Cooper, George (2008). The Origin of Financial Crises. Harriman House. ISBN 1905641850 
  10. ^ Ponzi Nation, Edward Chancellor, Institutional Investor, 7 February 2007
  11. ^ Securitisation: life after death

関連項目

参考文献

  • George Cooper (2008) (英語). The Origin of Financial Crises : central banks, credit bubbles and the efficient market fallacy. London: Harriman House. ISBN 1905641850. OCLC 252734545 
  • Graham Turner (2008) (英語). The Credit Crunch: Housing Bubbles, Globalisation and the Worldwide Economic Crisis. London: Pluto Press. ISBN 9780745328102 
  • Larry Elliott; Dan Atkinson (2008) (英語). The Gods That Failed: How Blind Faith in Markets Has Cost Us Our Future. London: The Bodley Head. ISBN 9781847920300 
  • Gerry Gold; Paul Feldman (2007) (英語). A House of Cards - from fantasy finance to global crash. London: Lupus Books. ISBN 9780952345435 

貸し渋り・貸し剥がし

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 15:02 UTC 版)

バブル崩壊」の記事における「貸し渋り・貸し剥がし」の解説

金融機関が、経営問題がない企業に対して貸し出し慎重になり、新たな融資を断ることを「貸し渋り」、既存融資引き揚げたりすることを「貸し剥がし」という。 総量規制加えてBIS規制株価下落が、金融機関貸出をはめて、金融機関それまで大きく広げていた貸し出し自己資本比率満たすよう縮小する必要に迫られた。これに応じて過剰に貸し付けていた融資を、半ば強引とも見え手法引き上げ貸し剥がし頻発し景気悪化に輪をかけた。 突然に全額一括返済求めるほかに、それまで定常的融資繰り返してきたものを一方的に停止するのをはじめとして、「今後融資継続するために」「内部処理都合で」「新規追加融資まとめて一つにするために」などの説明をもって融資をいったん引き上げたところで前言翻して融資応じないなどである。貸し剥がしにより運転資金絶たれ倒産追い込まれる企業続出した融資約束反故にされたとして訴訟持ち込んでも、多く場合次の融資口約束なされるため、決定的証拠欠けまた、銀行融資判断優先されることが大半で、結局泣き寝入りするケースが多い。そのほかに、故なく、あるいは些細な理由をもって預金融資相殺して引き揚げるなど、借り手側から見て強引な手法とられることもあった。また、新規融資にも消極的な姿勢示し貸し渋りとの批判もあった。 ただし、銀行融資申し込んで断られるとすぐに貸し渋りだという企業経営者が多いが、財務内容悪かったり、過去会社倒産し保証協会求償権持っていたりするような場合融資できないことをもって貸し渋りだというのは早計である。 貸し渋りというのはあくまで、健全で財務内容問題のない企業が、一方的な金融機関都合融資受けられない状態のことをいう。 竹中平蔵は「日本の銀行貸出残高対GDP比は、1980年代初頭までは約70%で一定していた。その後1980年代半ば以降から急上昇し、バブルピーク時には107%まで上場した銀行安易に貸し出し行い企業安易に借り入れたからである」と指摘している。竹中は「もちろん、銀行貸し出し態度借り手側の事情変化両方問題があるが、金利を見る限り銀行貸し渋りをしたというより借りる側が減った資金需要減った解釈すべきである」と指摘している。 日銀短観によると、銀行貸し渋り1997年半ばから1998年観測されたが、1993年〜1996年1999年2000年には観測されていない経済学者野口旭は「1990年代明らかに貸し渋りがあったのは、1997年1998年だけであったというのが経済専門家間の定説である」と指摘している。 貸し渋りによる倒産は、1998年1年間で約760となった

※この「貸し渋り・貸し剥がし」の解説は、「バブル崩壊」の解説の一部です。
「貸し渋り・貸し剥がし」を含む「バブル崩壊」の記事については、「バブル崩壊」の概要を参照ください。

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