設計目的についての議論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/14 02:55 UTC 版)
「ARPANET」の記事における「設計目的についての議論」の解説
ARPANETは核攻撃にも耐えるよう設計されたネットワークだ、という言い伝えが広まっているが、インターネット協会は否定している。その方式が1960年代前半にアメリカ空軍のシンクタンクであるランド研究所のポール・バランによって提唱された核攻撃下でも生き残れるコミュニケーション方式であるという点を持ち上げて冷戦構造全体の中で技術としての「インターネット」を議論するべきなのか、それともロバーツの言うとおりパケット通信はバランの研究とは全く関係の無いイギリス国立物理学研究所のドナルド・デービスの研究成果を反映したもので「インターネット」の誕生は新しいコミュニケーションツールとしての側面から評価してよいという議論までかなりの幅が見られる。インターネット協会は A Brief History of the Internet の中でARPANETを生み出した技術的アイデアの融合について次のように記している。 ARPANETが核戦争に耐えられるネットワーク構築と何らかの関係があると主張する間違った噂が始まったのは、ランド研究所の研究からである。ランド研究所では核戦争を考慮した秘密音声通信を研究していたが、ARPANETはそれとは全く無関係である。しかし、後のインターネットワーキング作業の展開においては、ネットワークの大きな部分が失われてもインターネットワークが機能し続けるなど、その頑健性と生存可能性を強調したことがあるのも事実である。 一方で、ARPANETの開発のほとんどの請求書に署名を行なったDARPAの副局長 (1967-1971)・局長(1971-1974)のステファン・J・ルカシックは次のように述べている。 目的は新しいコンピュータ技術を利用して、核の脅威に対する軍事的指揮と制御のニーズを満たし、米国の核兵器の存続可能な制御を達成し、軍事戦術と管理の意思決定を改善することでした。 ARPANETは、ルーティングテーブルの分散計算や頻繁な再計算を組み込んだことでネットワークの存続可能性が向上したが、自動ルーティングは技術的に困難だった。また、下位ネットワークが失われても機能し続けるよう設計されているが、これは核攻撃を受けなかったとしても交換ノードとネットワークリンクの信頼性が低かったためである。ARPANET構築を促進させたリソース不足について、ARPA局長 (1965–1967) のチャールズ・ヘルツフェルトはつぎのように述べた。 ARPANETは核攻撃に耐える指揮統制システムを作るために始まったのではない。そのようなシステムの構築は明らかに軍にとって大きな要望ではあったが、それはARPAの任務ではなかった。実際、我々がそれを試みていれば、厳しく批判されただろう。むしろARPANETは、わが国にある大規模で強力な研究用コンピュータの数が限られていて、それらを使いたいと思っている研究者の多くは地理的に離れたところにいるという我々の欲求不満が出発点である。 ARPANETは、1990年までの20年間、軍によって運営された。 当時のIPTO責任者であったテイラーは、1994年7月にアメリカ・タイム誌で、「インターネットは核攻撃下でのコミュニケーションの生き残りを想定して開発された」という記事が掲載されたときに事実とは異なる旨、正式な抗議をタイム誌に対して行っている。 パケット通信の先駆者ポール・バランは次のように述べている。 テイラーはそれぞれ異なるマシンに接続したいくつかの端末を持っていた。彼が考え付いたのは、1つの端末がそれらコンピュータのどれとも接続できるネットワークを構築することだった。それがARPANETの本当の起源だ。当時、そういった相互接続の方法は未解決の問題だった。 村井純は、「ARPANETは軍事用に開発され、それが民間に転用された」という説に関し、「ARPA基金の方針が非主流非軍事だが将来性を求め、軍事直結の基金は国防総省と区別がある」、「アメリカ軍は湾岸戦争のとき、様々な通信技術を運用した結果、TCP/IP技術の高い有用性を初めて認識した」とコメントし、さらに「中東派遣軍総司令官のノーマン・シュワルツコフは技術を『禁輸にすべきだ』とまで言い出した」というエピソードとともに、次のように答えている。 ARPANETが最初から軍の独占技術だったとしたら、こんなことをする必要はまったくなかったでしょう。それどころか、すべてが軍の機密情報として扱われ、インターネットはそれこそ誰も知らないものになっていたはずです。
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