虫プロダクションのビジネスモデル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 10:24 UTC 版)
「虫プロダクション」の記事における「虫プロダクションのビジネスモデル」の解説
旧虫プロのビジネスモデルは、その後の日本に於けるアニメ製作上の規範となった。2013年現在も、日本国内では、基本的に、旧虫プロが行ったものと同じ形態で資本回収が行われる形でのアニメ制作が行われている。 虫プロダクションが、制作プロダクションとしてテレビ局から受け取る制作費は実際にかかった経費よりも大幅に下回っていた。その赤字を関連商品の著作権収入(マーチャンダイジング収入)・海外輸出で補う日本におけるテレビアニメのビジネスモデルを確立したのは旧虫プロである。手塚が『鉄腕アトム』で予算的に引き合わないテレビアニメに参入したのは、自らの漫画の原稿料で赤字を補填し、他社の参入を妨げて、テレビアニメ市場の独占を図るためであったと言う。著作権収入というビジネスモデルについてはディズニーに倣ったものであったが、この著作権ビジネスでの副収入は他社の参入を許すこととなった。「鉄腕アトム」後、旧虫プロ主宰者の手塚は、当たりはずれの大きいマーチャンダイジング収入にはなるべく頼らない作品作りを目指そうと考えた。しかしそのような方式のアニメ制作は定着せず、「鉄腕アトム」式のビジネスモデルが旧虫プロ以後の時代にも引き継がれた。 旧虫プロは、基本的に作品の著作権をテレビ局に売り渡さなかった。もちろん、そのような形態の作品は当時から存在はしたが、虫プロダクションの場合、マーチャンダイジング収入なしでは制作費の回収が事実上不可能なビジネスモデルであったため、戦略的に著作権を売り渡さない契約を行った。また、版権部という部署を設け、積極的に自社作品の著作権の管理を行った。ただし、他プロダクションの下請けや、人形劇番組のアニメーション部分を下請けの形で請け負ったことはある。 『鉄腕アトム』はアメリカのテレビ局NBCの子会社NBC FILMSと輸出契約を締結した。NBCのネットワーク放送に乗せられず、シンジケーションによる番組販売という形で放送される形だった。虫プロ文芸部に所属した豊田有恒によれば、『鉄腕アトム』は世界配給権はアメリカのNBC FILMSが取得して、西ドイツやメキシコで放映されても虫プロの収入にはならず、またNBC FILMSへの納品にはアメリカで放映できるものという条件だったため、英語への吹替費用を虫プロ側が負担し、アメリカでの放送に適さない場合の編集は虫プロ側が行っていた。1話あたり1万ドルで売れたことが話題になったが、これらの諸経費が実際には差し引かれていた。こうした経験から、『鉄腕アトム』に次いでNBC FILMSと契約した『ジャングル大帝』は当初から輸出を前提とした作品作りを行なっている。しかし、この形での輸出は定着せず、後に輸出を開始した竜の子プロダクション作品などは、日本側スタッフ・プロダクション名の表示なしで、現地で大幅に編集して放映することを許す形をとった。なお、虫プロダクションと異なり、テレビ局側が用意した企画・脚本を元に、プロダクション側は動画制作のみを行う形態の作品も、1960年代には存在した。ただし、この形式での製作は主流にはならなかった。 旧虫プロは、東映動画など従来のアニメーション制作スタジオと同様に、企画・脚本・キャラクター設定から動画や彩色、録音などのすべての工程を社内で行う内制システムをとっていた。この方式によって、作品を早く仕上げ、品質を保つことができた。その後、他プロダクションが相次いでテレビアニメを制作するようになると、注文の奪い合いになった。しかし、受注が減ってくるようになっても、全スタッフには基本給を支給しなければならない。最終的には受注減が根本的な理由になって、旧虫プロは倒産した。この後、同様の内制システムをとっていた東映動画でも労働争議が起き、最終的に東映動画でも内制システムを破棄、動画・彩色はさらに下請けのプロダクションに出来高払いで発注するようになった。 その後はアニメ制作プロダクションは、テレビ局から直接受注を請ける企画プロダクションと、そこから動画・彩色などを孫請けの形で請ける動画プロダクションにはっきり分けられるようになった。この点では、現代のアニメの制作システムは、旧虫プロ時代の頃とは異なっている。 旧虫プロも外注は行ったが、まるまる1話を下請けプロダクションに制作させるという方式(いわゆるグロス請け)で、動画・彩色などの工程ごとに孫請けプロダクションに発注する21世紀初頭での主流の外注方法とは異なる。 旧虫プロが破綻した後の頃からは、それまでの東映動画や旧虫プロダクションのようにアニメーション制作の労働者を基本的には正社員として雇用し育成することは普通ではなくなり、個人事業主を請負契約で使用することが普通となった。
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