著作権と自然権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/01 05:45 UTC 版)
1710年のアン法の制定により、著作権の概念が普及したかと言うと必ずしもそうではなかった、ロンドンの書籍業者は、以前は独占権で守られていた印刷物を、今度は著作権と名前を変えたもので守ろうとした。彼らは、期限が限定された著作権を可能な限り伸ばそうと様々な手に出る。アン法では、著作者 (実質上は印刷業者) の独占権は最長28年と定めていたため、1730年代後半となると、パブリックドメインになる作品も出てきた。しかし、ロンドンの出版業者はアン法に定められた期間を越えても、アン法が定められる前と同じく、コモンローによる無期限の著作権が残ると主張した。すなわち、著作権は自然権に基づいた財産権であり、永久に著作者に帰属するものだと主張したのである。実際、この時期、既に期限が切れている作品に対していくつもの差し止め請求が出されている。 その一つの事例が、ミラー対テイラーの紛争である。スコットランドの印刷業者ロバー・テイラーは、ジェームス・トムソンの詩集「四季 (Seasons)」の著作権を保有していたが、ロンドンの本の販売業者の妨害により、イングランドでの流通が十分にできず、1729年にアンドリュー・ミラーに「四季」の出版権を売却してしまう。その後、著作権の期限が切れた後、テイラーはトムソンの詩を含む書籍の出版を再開した。出版の際には、著作権が切れたパブリックドメインのイギリスの作品であると分かるように印刷し、これらの本をスコットランドとイギリスの州で販売した。これに対し、ミラーは、著作権の法律より先行する、コモン・ローにおける著作権を主張した。ミラーは訴訟中に死亡してしまうが、その遺族に裁判は引き継がれ、首席裁判官マンスフィールド卿の判決により、ミラー側がコモンローに基づく永久の著作権を保有しているとした。そのため、どの様な作品も永久にパブリックドメインになることはないとした。 この裁判の結果、1710年のアン法の著作権の有効期限はなくなり、旧来の印刷業者による独占状態が再現することとなった。この様なロンドンの出版業者の独占を良く思っていなかった、スコットランドの出版業者であるドナルドソンは、アン法に基づき「パブリックドメイン」となった作品の出版を継続し、ロンドンの出版業者を挑発し続けた。1771年ロンドンの出版業者はドナルドソンの挑発に対して訴訟を行い、先のミラーの場合と同じく、大法官府での判決はドナルドソンの敗訴となった。この敗訴はドナルドソンの予想するところで、ドナルドソンは、即座にアン法に基づき(スコットランドの関連事項はスコットランドの法廷で裁判する)、スコットランドの法廷に上訴を行った。元々「著作権」と言う概念が無かったスコットランドの法廷では、コモン・ローに基づく著作権を圧倒的大差で否定し、ドナルドソンの勝利となった。この裁判結果により、著作権が自然権であるという判断 (先のミラーの場合) と、自然権ではないという判断 (今回の場合) が生じたため、ドナルドソンは、この判決を元に、上院に誤審令状の請求を行なった。ロンドンの印刷業者は著作権は自然権であるという主張を述べ、それに対して、ドナルドソン側はそれを否定する主張を述べた。1774年2月、上院のキャムデン卿は、以下の様に強い口調で出版業者を非難した。 被告側による特権を維持しようとする主張は、特許や、特権、星室庁の布告、出版業組合の法 (原文では bye law) を元に行われた。すなわち、それらの全て粗暴な専制政治と強奪の結果であり、この王国におけるコモン・ローの跡を見つけることを夢見ることができないほどのものである。その様なずるがしこい理由や抽象的な考え方を展開することによって、元々存在しないものから、コモンローの精神をはずれた規制を作り出そうとしている。 最終的に、議会での議決は、大差でコモン・ローに基づく著作権を否定した。そして、議会が著作権の長さを定めることができると結論付けた。この決定は、コモンローの権利の元に基盤を築いていたロンドンの印刷業者にとって、大きな痛手となった。彼らは、上院の決定の5日後、下院に自分たちが失った権利を再度別の法律により覆そうと、請願を行ったが、この請願も上院での審議において、独占に対する非難が起こり廃案となった。上院では、印刷業者の独占を続けさせ、その結果書籍の価格を高価格に維持することを否定したのである。この決定は最終的にイングランドにも根付くことになった。この問題や議論そのものは、アメリカ合衆国や他の場所に時間と場所を移して続けられることとなった。
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