萌消カルデラとは? わかりやすく解説

萌消湾

(萌消カルデラ から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/01 16:11 UTC 版)

萌消湾
Львиная Пасть
年月日 紀元前7480±80年
噴火様式 成層火山 / カルデラ
場所 ロシア サハリン州クリル管区
( 日本 北海道留別村)
北緯44度36分29秒 東経146度59分38秒 / 北緯44.608度 東経146.994度 / 44.608; 146.994
火山爆発指数 7
択捉島と萌消湾
プロジェクト:地球科学プロジェクト:災害

萌消湾 (もえけし[1]/もいけし[2] わん)[注釈 1]または リヴィナヤ・パシチ(ロシア語: Львиная Пасть[注釈 2])とは、クリル列島 (千島列島)の択捉島[注釈 3]南部にある複成火山[3]オホーツク海に面した大きなカルデラ湾が特徴。完新世初期に火山爆発指数7に達する大規模な噴火があったとされる。萌消カルデラ[4]とも。

択捉島にはおよそ9つの成層火山、複数の火山砕屑丘、1つのソンマ火山英語版が存在する。また数ヶ所に地熱地帯がみられる[5]:166。萌消湾は幅7 × 9km[6]・深さ550mのカルデラを持つ複成火山であり、カルデラは幅5km・最大水深50mの湾口によりオホーツク海とつながっている[3]。外輪山の最高標高は528m[6]で、カルデラ底からの高さは約1kmとなっている[3]

主要な噴火は紀元前7480±80年に起こった[7]:419。噴火により周辺には溶結凝灰岩が形成され[8]:188 、得茂別、萌消、ベルタルベの3つの火山が全て繋がり、択捉島の南端となった[3]。また、成層火山だった先カルデラ火山は陥没により海底カルデラとなった。噴出したテフラの総量は170km3にもおよぶ[9]:131。噴火の火山爆発性指数は7[7]:419とされ、これは完新世にクリル列島で起こった噴火としては最大規模とされる[3][8]:189[10]:64。火山から50km以内では生物の生息地は完全に死滅したと考えられている[11]:137。噴火の降灰により、その影響を受けやすい針葉樹が死滅したため、この地域ではハンノキを含む白樺林が発達したのではないかとされている[9]:131

シベリアアルタイで採取された氷床コアにより、この時期に硫酸塩濃度が上昇したことが明らかになっている。萌消湾の噴火に加え、フィッシャー・カルデラ英語版 (アラスカ)やピナトゥボ山 (フィリピン) における同時代の大規模火山活動により、多量の硫酸塩が放出されたためではないかと考えられている[7]:419

萌消カルデラの先カルデラ火山ではカリウム含有量が少ないソレライトマグマ英語版を噴出してきた[12]:392。他にも安山岩玄武岩質安山岩英語版玄武岩デイサイトピクライト英語版といった種類の噴石がみられる[3]。約9,400年前のカルデラ噴火ではデイサイト質マグマが普通角閃石石英斑晶とともに噴出した[10]:73

萌消湾以外にも択捉島には阿登佐岳指臼岳ベルタルベ山単冠山神威岳ゴーレツ-トルナヤ火山群英語版小田萌山茂世路岳といった火山がある[5]:166

脚注

注釈

  1. ^ 「もえけし」の地名は、アイヌ語のモイケㇱ(入江の端)に由来
  2. ^ 字義は「ライオンの口」。海上の岩礁が寝ているライオンに似ていることから[3]
  3. ^ ロシアが実効支配をしているが日本も領有権を主張している[1]。詳細は「北方領土問題」を参照。

出典

  1. ^ a b 択捉島』 - コトバンク - 2017年11月6日閲覧。
  2. ^ 萌消 ________ Moikeshi (L'vinaya Past)”. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター (2016年). 2017年12月10日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g Moekeshiwan (Lvinaya Past). Smithsonian Institution: Global Volcanism Program. Accessed November 2015.
  4. ^ 中川光弘, 古川竜太, 松本亜希子 (2013). “A1-16 北方四島,択捉島中央部での萌消カルデラ(L'vinaya Past' caldera)形成噴火のテフラの発見(噴火史,口頭発表)”. 日本火山学会講演予稿集 2013: 16. doi:10.18940/vsj.2013.0_16. 
  5. ^ a b Glasby, G. P.; Cherkashov, G. A.; Gavrilenko, G. M.; Rashidov, V. A.; Slovtsov, I. B. (2006-09-20). “Submarine hydrothermal activity and mineralization on the Kurile and western Aleutian island arcs, N.W. Pacific”. Marine Geology 231 (1–4): 163–180. doi:10.1016/j.margeo.2006.06.003. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0025322706001356. 
  6. ^ a b Oppenheimer, Clive (2011-05-26) (英語). Eruptions that Shook the World. Cambridge University Press. pp. 359. ISBN 9781139496391. https://books.google.ch/books?hl=de&lr=&id=qW1UNwhuhnUC 
  7. ^ a b c Aizen, Elena M.; Aizen, Vladimir B.; Takeuchi, Nozomu; Mayewski, Paul A.; Grigholm, Bjorn; Joswiak, Daniel R.; Nikitin, Stanislav A.; Fujita, Koji et al. (2016-06-01). “Abrupt and moderate climate changes in the mid-latitudes of Asia during the Holocene”. Journal of Glaciology 62 (233): 411–439. doi:10.1017/jog.2016.34. ISSN 0022-1430. https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-glaciology/article/abrupt-and-moderate-climate-changes-in-the-mid-latitudes-of-asia-during-the-holocene/BE33A8122E7704B06804D520F5CAC521. 
  8. ^ a b MacInnes, Breanyn; Fitzhugh, Ben; Holman, Darryl (2014-06-01). “Controlling for Landform Age When Determining the Settlement History of the Kuril Islands” (英語). Geoarchaeology 29 (3): 185–201. doi:10.1002/gea.21473. ISSN 1520-6548. PMC 4326108. PMID 25684855. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/gea.21473/abstract. 
  9. ^ a b Razjigaeva, Nadezhda G.; Ganzey, Larisa A.; Grebennikova, Tatyana A.; Belyanina, Nina I.; Mokhova, Ludmila M.; Arslanov, Khikmat A.; Chernov, Sergei B. (2013-03-21). “Holocene climatic changes and vegetation development in the Kuril Islands”. Quaternary International. The Baikal-Hokkaido Archaeology Project: Environmental archives, proxies and reconstruction approaches 290–291: 131. doi:10.1016/j.quaint.2012.06.034. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040618212004545. 
  10. ^ a b Razzhigaeva, Nadezhda G.; Matsumoto, Akiko; Nakagawa, Mitsuhiro (2016-03-18). “Age, source, and distribution of Holocene tephra in the southern Kurile Islands: Evaluation of Holocene eruptive activities in the southern Kurile arc”. Quaternary International. Japanese Quaternary Studies 397: 63–78. doi:10.1016/j.quaint.2015.07.070. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040618215007922. 
  11. ^ Hopi, Hoekstra; William, Fagan (1998-05-01). “Body size, dispersal ability and compositional disharmony: the carnivore‐dominated fauna of the Kuril Islands” (英語). Diversity and Distributions 4 (3). doi:10.1046/j.1365-2699.1998.00016.x/abstract. ISSN 1472-4642. http://onlinelibrary.wiley.com/wol1/doi/10.1046/j.1365-2699.1998.00016.x/abstract. 
  12. ^ Volynets, Oleg N. (1994-04-01). “Geochemical Types, Petrology, and Genesis of Late Cenozoic Volcanic Rocks from the Kurile-Kamchatka Island-Arc System”. International Geology Review 36 (4): 373–405. doi:10.1080/00206819409465467. ISSN 0020-6814. https://doi.org/10.1080/00206819409465467. 

関連項目


萌消カルデラ(もいけしカルデラ)

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カルデラの一覧 (日本)」の記事における「萌消カルデラ(もいけしカルデラ)」の解説

択捉島南部にある直径約9kmのカルデラ。元々は成層火山であった見られているが、約8500年前噴火山体吹き飛びカルデラ形成された。カルデラ床は海底陥没し萌消湾となっている。

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