舶用機関としての原子力の欠点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/19 04:26 UTC 版)
「原子力船」の記事における「舶用機関としての原子力の欠点」の解説
機関取得コストが高額(下記は目安。「むつ」は原子力委員会試算の2-3倍掛かった)アメリカ海軍空母においては28万馬力 (206MW) で通常型と原子力での取得価格差は排水量比例1,782億円(87万円/Kw・8万馬力で509億円) 「むつ」建造時代の原子力委員会の試算では2万馬力 (15MW) の原子力機関で21億円であり、同出力のディーゼル機関より大幅に高価であった。 軍艦であっても数を揃えねばならない駆逐艦やフリゲートでは(原油が高騰した場合を除き)原子力機関の高い取得・保守・廃棄コストは問題とされる。 原子炉点検人員コストが掛かり、燃料交換・点検時、長期不稼動を強いられる原子炉は1-2年に1回、熱交換器パイプの肉厚損耗や被覆管の傷みなどを点検せねばならず、アメリカ空母の場合10-20年に保守点検に間接運航人件費が掛かっている。アメリカ空母の場合、40年の寿命の20年目に燃料交換と近代化改装を行うが、同排水量の通常動力空母より1,520億円(1ドル115円換算)高価である。また長期間空母が拘束される。 日本原子力研究所の開発した新舶用炉MRXは原子炉をモジュールごと片方ずつ年1回交換して船体を休まず稼動させ、モジュール保守点検と燃料交換を修理工場で集中処理できる仕様として、上記の問題を回避する試みがなされている。 廃船・廃炉コストが嵩む原子炉の廃炉コストは規模と仕様にもよるが、米空母の場合1基500億円である。 船体が被曝して放射能を帯びると廃棄コストが急増する。MRXは船体寿命解体時に船体の鉄材の放射能が市販の鉄と同程度であることを要求仕様にしている。 原子炉は1,000-3,500tの重量があり小型艦船に向かない中性子の減衰には距離が必要なので、1万馬力の炉でも14万馬力の炉に近い放射線遮蔽の厚みが必要で、小型炉ほど出力/重量比が悪くなる傾向がある。原子力委員会の資料では1万馬力の原子炉が1,000t、原研のMRXが4万馬力で1,800tである。原子炉重量が原型艦の燃料+ボイラ重量を上回ると通常機関より重量的に不利になり、ペイロードを失うか重量過多になる。 「ベインブリッジ」(9,100t・6万馬力) は原型のリーヒ級ミサイル巡洋艦 (7,800t・8万5千馬力) に対して1,300t重量超過し、出力が2万5,000馬力低下した。次の「トラクスタン」(8,659t・7万馬力) では原型のベルナップ級ミサイル巡洋艦 (8,957t・8万5,000馬力) より300t減量に成功したが、出力が1万5,000馬力低下した。この2艦が水上原子力艦船として最小のものである。 しかし両艦ともライフサイクルコストではスプルーアンス級駆逐艦より高価であった。参考)舶用機関の重量(電気推進・25kt・8,000km・178時間前提)4万馬力程度の機関1基では原子力不利 ガスタービン 4.9万馬力・1,421t (ロールス・ロイスMT30エンジン 22t・発電機55t・燃料1,344t)MT30 舶用ディーゼル 4万馬力・1,282t (MTU20V1163TB93 24.5t×4・発電機11t×4・燃料1,140t)MTU20V1163 商用ディーゼル 4.4万馬力・2,053t (MANB&WK80MC-C6-9 1065t・直結・燃料989t)MAN B&WK80MC 原子炉MRX 4万馬力・2,173t (MRX 1,800t・蒸気タービン373t)MRX 原子炉事故が起きたときの被害が甚大なものとなる可能性があるそのため、仮に原子力コンテナ船が理論上は採算に乗るようになっても、かつては「サヴァンナ号」の寄港を受け入れた実績のある欧米の港湾が今日も寄港を受け入れる保証はない。 核ジャックへの懸念民間原子力商船はこの問題のため、高濃縮核燃料は使えない。現在商用原子炉は警察官が警備しているが、原子力商船もそれと同等以上の警備体制が求められるならコストアップ要因になる。 維持管理原子炉は、高い水準での維持管理が必要である。
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