脳動脈瘤の自然経過・自然歴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 06:45 UTC 版)
「未破裂脳動脈瘤」の記事における「脳動脈瘤の自然経過・自然歴」の解説
現在、脳動脈瘤の自然経過には3つのタイプがあるのではないかと考えられている。 Type Iは脳動脈瘤ができてすぐ破裂してしまうもの。これは我々が通常目にする未破裂脳動脈瘤として発見される可能性が少ないものである。どんなに未破裂脳動脈瘤を予防的に治療してもこのタイプの瘤の破裂によるくも膜下出血はその急激なタイミングを見つけられない限り困難である。 Type IIは脳動脈瘤ができても、すぐには破裂せず落ち着き、その後少しずつ拡大し、または拡大せず動脈瘤の壁が摩擦力の変化などで変性して出血を来すもの。 Type III: 脳動脈瘤ができても破裂せず、長期間安定しているもの。 などである。我々が日常観察している未破裂脳動脈瘤はType IIまたはType IIIの経過を取っている瘤をみているのだと考えるべきである。したがってどのような瘤がType IIとなり、どのような瘤がType IIIなのかを知ることが重要である。未破裂脳動脈瘤の研究によって現在我々が明らかとしうるのはそのTYPE IIとIIIが総合でどの程度破裂するかということになる。これまで数多くの研究がなされている。 その方法として3つのタイプがある。 第一は全国のくも膜下出血の年間発症率(すなわち動脈瘤破裂の頻度)を、疫学調査で明らかとされた未破裂脳動脈瘤の人口別頻度で割り算して単純に全体の破裂率を求めようとするもの。この方法によるとおおよそ脳動脈瘤の破裂率は0.5%-2%になるとされている。しかしこの方法ではさきに述べた、できてすぐ破裂するType Iの未破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血は考慮されていないことになる。 次は、過去にもっとも多くされてきた研究のタイプで、なんらかの理由で治療されなかった瘤がどの程度破裂したか後ろ向きに検討した研究、またはそれらの研究を集めてメタ解析をおこなったものである。この方法によると、日本のデータでは未破裂脳動脈瘤の全体での破裂率は年間1-3%、フィンランドから報告では約1%とされています。このタイプの研究は多く報告されているが、個々の研究は比較的少数の患者データを解析したものが多く、信頼区間(たとえば破裂率は0.1-5%という具合)が広くなってしまう問題点、また治療されなかった理由が多くの場合明らかでなく、対象となる脳動脈瘤の選択に特殊なバイアスがかかっている可能性があること、またデータを総合しようとしても生のデータがなく独立した破裂因子を見つけることが難しいことなどが問題となっている。 そこで最近推進されている第3の方法が前向きのコホート研究である。この代表として国際未破裂脳動脈瘤研究(ISUIA)がある。この研究は1998年に後ろ向き自然歴の報告が、2003年に前向き自然歴の報告がなされた。1998年の報告では1センチメートル未満の未破裂脳動脈瘤の破裂率は年0.05%とされ、これまでのデータと大きく様相を異にしており、関連する医療に関わる者に驚きを与えた。しかし後日報告された前向き研究結果では全体での破裂率は0.7%で、破裂率は大きさに比例して大きくなること、小さくい瘤でも内頚動脈―後交通動脈や脳底動脈の動脈瘤は破裂しやすいことを示した。しかしそれでも脳循環(Willis輪)の前方動脈瘤の7ミリメートル以下の群では殆ど破裂しないと報告されている。この研究は殆どが白人を対象としており、くも膜下出血の頻度の高い日本では状況は異なるのではないかと考えられた。 そこで日本では3つの研究が進められることになった。一つは2001年より開始された、日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査(UCAS JAPAN)である。これは6000例の症例を前向きに検証し、未破裂脳動脈瘤の自然歴、日本における治療成績を検証しようとしている。また2006年からは未破裂脳動脈瘤患者のさらに詳細なQOL(健康に関する生活の質)や高次機能調査を含めたUCASIIが開始されている。また限られた施設グループで5ミリメートル以下の小さな瘤を全く治療しないで経過をみるSUAVE研究が進められている。 UCAS_Japanはまだ中間値の解析では、未破裂脳動脈瘤のおおよその破裂率は全体で1%前後となる見込みと考えられている。また破裂に関与するいくつかの独立因子が挙げられ、特に大きさと特殊部位が破裂に関与する傾向がある。全体の傾向としてはISUIAの結果に似ているが、破裂率はやや高い。SUAVEの結果は2010年にStroke誌に掲載され、375例448個の5mm未満の瘤の破裂率は年間0.54%と報告されている。多発動脈瘤、高血圧を有する患者、若年者、4mm以上の瘤の破裂率が高いことが示された。またこの群では年1.9%の症例が2mm以上の拡大を示した。一般に5mm未満の小型の瘤では定期的観察を行うことで比較的安全な診療を継続できることが示された。 日本脳神経外科学会による約6000症例の追跡調査によると、脳動脈瘤が1年間で破裂する危険性は0.95%である。
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