絶対量としてのデシベル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 08:17 UTC 版)
基準となる物理量をあらかじめ決めておくと、物理量を直ちにデシベルでレベル表現できるようになる。これは音響など特定の分野で非常に便利であり多用される。その例を列挙する。 ただし国際度量衡総会 (CGPM) の立場では、デシベルはあくまで相対量を表すものであり、基準量を示す必要があるとしている。その表現方法として、アメリカ国立標準技術研究所 (NIST) から発行されている「Guide for the Use of the International System of Units (SI)」の 7.4 節に次のように記されている。 ある量の値を表現する場合、量やその測定条件に関する情報を提供するために単位に文字や記号を添えるのは正しくない。そのような場合には量記号に文字や記号を添えるべきである。例:Vmax = 1000 Vこうではなく:V = 1000 Vmax 従って下記に示す x dBSPL などの表記も正しくなく、 Lp (re 20 µPa) = x dB もしくは Lp/(20 µPa) = x dB と表記するべき、というのが CGPM の立場である。いちいち Lp (re 20 µPa) = x dB などとやっていられない場合(たとえば図中に記入する場合)、 x dB (20 µPa) のような表記を CGPM は認めている。(要するに CGPM は dBSPL とか dBSIL といった特定用途向けの単位を乱造するのではなく、 20 µPa なり 1 pW/m2 なりの基準量を明示して、 dB はあくまでも相対量として使うべきという主張をしている。) dBSPL(Sound Pressure Level, 音圧レベル) 音の圧力である音圧に対して用いられる。媒体が空気の場合、基準量は 20 µPa (0 dBSPL = 20 µPa = 20×10−6 Pa)。 20 µPa はかつて人間の 1 kHz における最小可聴値とされていた。現在の等ラウドネス曲線 (ISO 226:2003) によれば 1 kHz における最小可聴値は 30 µPa 程度だが、音圧レベルの基準が変わっては困るのでそのままになっている。 dBSIL(Sound Intensity Level, 音の強さレベル) 単位断面積を単位時間あたりに通過する音のエネルギーである音の強さに対して用いられる。基準量は 1 pW/m2 (0 dBSIL = 1 pW/m2 = 10−12 W/m2)。 dBFS (Full Scale) デジタル音声のレベルに対して用いられる(アナログ音声には用いない)。基準量は規格上の最大レベル。したがって基本的には 0 dBFS がレベルの上限となる。ただし扱う波形が正弦波に限らない場合、実効値は 0 dBFS 正弦波の実効値を超える場合がある。 dBW, dB(W) 1 W を基準量とする電力のレベル表現 (0 dBW = 1 W)。 dBm, dB(mW) 1 mW を基準量とする電力のレベル表現 (0 dBm = 1 mW = 10−3 W)。音響の分野で誤って電圧に対して用いられていることがある(dBv の項を参照)。 dBp, dB(pW) 1 pW (ピコワット)を基準量とする電力のレベル表現 (0 dBp = 1 pW = 10−12 W)。無線通信など小さい電力を扱う分野で用いられる。 dBf, dB(fW) 1 fW (フェムトワット)を基準量とする電力のレベル表現 (0 dBf = 1 fW = 10−15 W)。無線通信など小さい電力を扱う分野で用いられる。 dBV, dB(V) 1 Vr.m.s. を基準量とする電圧のレベル表現 (0 dBV = 1 V)。 dBv 775 mVr.m.s. を基準量とする電圧のレベル表現 (0 dBv = 775 mVr.m.s. = 0.775 Vr.m.s.)。主に業務用音響機器の音声信号に対して用いられ、 600 Ω純抵抗の消費電力が x dBm のときの電圧が x dBv という関係にある。古典的な業務用音響機器は 600 Ωでインピーダンス整合されており、信号レベルの単位には dBm が用いられていた。実際には電力でなく電圧を見ている場合が多かったが、インピーダンスが決まっていれば電力と電圧は一対一で対応するので問題なかったのである(50 Ω, 75 Ωなどで整合される高周波回路でも同じ)。後に 600 Ωで整合されない機器が多くなり、対象を明確に電圧に変える必要に迫られ、 600 Ωにおいて dBm と互換性があるように考えられたのがこの dBv という単位である。しかし dBV と非常に紛らわしいため、現在では dBu と表記する方が普通。なお、信号レベルの単位に dBm が用いられていた時代が長かったため、現在でも誤って dBm が電圧に対して 0 dBm = 775 mVr.m.s. として用いられていることがある。dBu 意味は dBv と全く同じ。 dBv が dBV と非常に紛らわしいため、現在では dBu の方が普通。 dBs 意味は dBv と全く同じ。日本放送協会で使われるが、それ以外ではほとんど見かけない。 dBµV, dB(µV) 1 µVr.m.s. を基準量とする電圧のレベル表現 (0 dBµV = 1 µVr.m.s. = 10−6 Vr.m.s.)。主に無線通信の分野で用いられる。EMF (ElectroMotive Force) 無線通信の分野で高周波信号発生器 (SG) の出力電圧を表す場合、 SG 出力を終端した状態の電圧(終端電圧)で表す場合と SG 出力を開放した状態の電圧(起電力、 Electromotive Force)で表す場合とがある。 EMF と表示されていれば起電力である。整合終端では 6 dB の差があり、例えば 50 Ω系の場合、整合終端の 107 dBµV と EMF の 113 dBµV はどちらもほぼ 0 dBm に相当する。日本では業務用無線機や PDC 方式携帯電話機で EMF が用いられることが多く、米国やアマチュア無線では終端電圧が用いられることが多い。規格や仕様によっては EMF が省略され明記されていない場合があり注意が必要である。 dBm, dBf など電力による表示なら間違えるおそれがない。 dBi アイソトロピックアンテナ(全ての方向に均等に電波を放射する仮想的なアンテナ)を基準とするアンテナの利得。ダイポールアンテナを基準にする場合は dBd または単に dB と表す。 dBi 表記は dBd より 2.15 大きい。
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