細菌の溶血性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/08/04 03:08 UTC 版)
細菌の溶血溶血性が異なる3種類の細菌を含んだ溶液で、血液寒天培地上にそれぞれ文字を描き、その後37℃で一晩培養したもの。(左)α型:不完全透明で緑変。溶血帯が狭い(中央)β型:完全透明で溶血帯が広い(右)γ型:(非溶血) 細菌の中には、血液寒天培地上で培養すると、そのコロニーの周辺の培地に含まれる赤血球を溶血させるものがあることが知られている。肉眼での観察が可能であり、微生物学や細菌学の分野ではこれを特に(細菌の)溶血と呼ぶ。この溶血はコロニーから一定の距離内の領域(溶血帯、溶血環)で起き、例えば正円形のコロニーを作る細菌の場合、コロニーを中心とした同心円状の溶血帯が観察される。これは、これらの細菌が溶血素を産生し、それがコロニーから周囲の寒天培地中に均一に拡散するためである。 細菌によって、溶血を起こすものと起こさないもの、また溶血を起こすものでも溶血帯の大きさや色調、透明度に違いが見られる。これらの溶血性の違いは、α、β、γ型として分類されている。 α型(α溶血) 細菌のコロニー周辺の培地で赤血球が溶血を起こし、その部分の培地が緑色を帯びた色調(緑〜褐色)に変色する。溶血を起こす領域(溶血帯)は狭く、1mm未満程度のものが多い。また溶血帯内でも、溶血を起こさない赤血球の残存が認められる(=不完全溶血である)。溶血素および緑色色素の本体はよく判っていない。ただし、細菌が産生する過酸化水素などの過酸化物が関与することで、赤血球が傷害されるとともに、ヘモグロビンに含まれる鉄イオンが酸化されてメトヘモグロビンなどの物質に変化することで緑色に変色するという説がある。α'型(アルファ・プライム-) α型と下記のβ型の中間的な性質のものを、α'型と呼ぶ場合がある。溶血帯が狭い不完全溶血だが緑変をほとんど認めないものを指す。β溶血素に類似するが活性が弱い溶血素を産生する菌などに見られる。 β型(β溶血) 色調の変化は認められず、培地が完全透明に変化する。溶血帯は広く、その内部ではほとんどの赤血球が溶血によって消失する(=完全溶血)。細胞膜に孔を生じるなどの機能を持つ、細胞傷害性の強い溶血素を産生する細菌で見られる。 γ型 溶血を起こさない(非溶血性の)ものは、上記のαおよびβとの比較から、便宜上その溶血性を「γ型である」と呼ぶことがある。 これらの溶血性は、同一の培養条件下では細菌の種類によってほぼ一定であるため、細菌学が始まった19世紀末頃から、細菌の鑑別同定および分類に利用されてきた。特にレンサ球菌属では、歴史的に種間の分類の指標として用いられ、α溶血性のものを、α溶レン菌(α溶血性レンサ球菌)、または緑レン菌(緑色レンサ球菌、"Streptococcus viridans)、β溶血性のものをβ溶レン菌、または単に溶レン菌と大別した。この便宜的な分類群は臨床分野では未だに頻用されており、後の生物学的な分類体系にも反映されている。また、レンサ球菌属のうち、ストレプトコッカス・アガラクチアエ(S. agalactiae、B群β溶血性レンサ球菌)は、単独ではαないしα'型の不完全な溶血性を示すが、黄色ブドウ球菌のβ溶血素の共存下では、本菌の弱いβ溶血素の活性が増強されて、結果として強いβ溶血を示すようになる。この現象はCAMP試験と呼ばれ、本菌を同定する際の指標として利用されている。 同一の細菌であっても、赤血球の種類(採血した動物種:ウサギ、ヒツジ、ウマなど)や培地に添加される成分(特にグルコースなどの還元糖)によって、溶血性に違いがあらわれることがある。これはその溶血素の活性がpHや酸素の存在によって影響を受ける場合によく見られる。このため、溶血性によって細菌を鑑別同定する場合には、その細菌に応じた培養条件下で判定をする必要がある。
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