算道の内容
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算道の教科書として律令法などで定められていたのは以下の9種である。 孫子算経…三国・両晋期に孫子を著者として仮託して書かれた古典的な数学書。唐の李淳風の注釈で有名。 五曹算経…北周の甄鸞の著。行政官に必要とされた基礎的な数学知識を「田・兵・集・倉・金」の5つの章立てで解説した書。 九章算術…現存する中国最古の数学書。九章から構成された体系的な書。魏の劉徽の注釈で著名。 海島算経…劉徽が著した測量計算に関する書。 六章…詳細は不明であるが、『九章算術』を応用発展させたと言われている。 綴術…祖沖之が著した高等数学の書で、円周率や球体積の計算方法が書かれていたとされているが、現存しない。 三開重差…級数展開などの高等数学に関する書。 周髀算経…天体暦算に関する書。紀元前2世紀に成立して暦学の基本書とされた。 九司…詳細は不明であるが、『五曹算経』と同様の行政官向けの数学書であったと言われている。 なお、当時の唐で採用されていた算経十書と呼ばれる教科書のうち、『張邱建算経』・『夏侯陽算経』・『五経算術』・『緝古算経』の4種が除かれて代わりに『六章』・『三開重差』・『九司』が採用されている。これは、内容の重複や日本への伝来事情などとの関係があると考えられているが、詳細な理由は不明である。 算生の官人登用試験である奉試については、学令で定められていたが、大宝律令と養老律令では微妙に規則が違っていた。大宝律令では『九章算術』・『六章』・『綴術』の基本の3書のうち1つから3問、それ以外の6書から各1問ずつの計9問を出題して6つ正解すれば及第としたが、3問出題される基本書からの出題を間違えた場合には他の8問が正解でも不合格とされた。養老律令では方法が2通りあり、前者は『九章算術』3問と『六章』・『綴術』以外の残り6書から各1問の計9問から出題されるもの、後者は『六章』3問と『綴術』6問の計9問から出題されるもので、前者は基礎算術、後者は高等数学の知識を試した。全問正解であれば甲第とされて大初位上に自動的に叙任され、『九章算術』あるいは『六章』の全問を含めた6-8問正解者は乙第とされて大初位下に叙任された。なお、天平3年(731年)以後は基本書(『九章算術』・『六章』・『綴術』)3問に加えて、『周髀算経』1問の計4問のうちから不正解を出すと及第は認められないこととなった。 算得業生成立後は、7年学習して奉試に及第すると合格者は算博士や主計寮・主税寮・大宰府・造宮省(後には修理職・木工寮)に設置されていた算師に任じられる他、地方の下級国司となって租税会計事務などを扱った。また、それ以外にも造寺司など一般の官司にて下級官人を務めながら、校班田や荘園図の作成などの際に臨時で「算師」として派遣された者の存在も確認できる。 当時、算術が普及せずにその知識を有する者が少なかったために官位こそは低いものの、及第して官人となった算生の持つ数的処理能力に諸官司から期待されるところは大きかった。ただし、それは技能としての算術・数学であって、数学的思考や教養、感性が求められたものではなく、ましてや中国に見られたような高等数学が当時の日本社会で必要とされる場面は存在しなかったと考えられ、日本数学史が独自の進歩を見せるきっかけにはなりえなかったのである。
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