等級の原点(ゼロ点)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 04:33 UTC 版)
「等級 (天文)」の記事における「等級の原点(ゼロ点)」の解説
等級の原点(ゼロ点)を何によって定めるかは、時代によって変遷してきた。かつては北極星のこぐま座α星やこぐま座λ星が基準とされたこともあったが、21世紀初頭ではベガ等級 (Vega magnitude system)とAB等級 (AB magnitude) の2種類の等級の原点が主に使われている。 ベガ等級は、こと座α星(ベガ)のスペクトルエネルギー分布 (英: spectral energy distribution, SED) を原点として各波長帯での等級を定める方式である。ベガの見かけの等級は、U=0.02、B=0.03、V=0.03で、0等に等しくはないが、1950年代当時最もSEDが詳しく知られており、大気モデルの研究も進んでいたことから、ベガのSEDを基準として各波長での等級を求めることとされた。 ベガ等級は、観測機器や地球大気の状態の違いなど影響を受けにくい反面、波長の違いによって基準となる明るさが異なるため、異なる波長間で絶対的な明るさの比較が難しいという欠点がある。この欠点を補うために考案されたのがAB等級である。この"AB"は、ベガ等級のような相対的比較ではないことから absolute を略して付けられたものである。AB等級は、すべての周波数の電磁波において0等級に相当する放射流束密度を 103.56 Jy(およそ3631 Jy)と定めた。103.56 Jy の値は、波長548.0 nmでのベガの放射流束密度3530 Jyを0.03等とすることで計算されており、ベガ等級とは波長が548.0 nm のときに一致する。 ある波長での放射流束密度fν(単位 erg s-1 cm-2 Hz-1)の天体のAB等級は次の式で定義される。 m A B = − 2.5 log 10 f ν − 48.60 {\displaystyle m_{\rm {AB}}=-2.5\log _{10}f_{\nu }-48.60} … (5) ハッブル宇宙望遠鏡で使われている STMag もAB等級と同様の考え方だが、周波数ではなく波長でfλ = 3.63×10-9 erg cm-2 s-1 Å-1と定義されている。STMagは次の式で定義される。 m S T = − 2.5 log 10 f λ − 21.10 {\displaystyle m_{\rm {ST}}=-2.5\log _{10}f_{\lambda }-21.10} … (6)
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等級の原点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 00:14 UTC 版)
見かけの等級ベガとの明るさの比夜空でこの等級よりも明るく見える恒星の数眼視可能か否か−1.0 251 % 1(シリウス) Yes 0.0 100 % 4 1.0 40 % 15 2.0 16 % 48 3.0 6.3 % 171 4.0 2.5 % 513 5.0 1.0 % 1602} 6.0 0.4 % 4800 6.5 0.25 % 9100 7.0 0.16% 14000 No 8.0 0.063 % 42000 9.0 0.025 % 121000 10.0 0.010 % 340000 ポグソンの式によって天体の明るさを相対的に比較することが可能となったが、それぞれの天体の等級を定めるには原点を定める必要がある。等級の原点を定めるために何を基準とするかは、観測技術の発達に伴って変遷してきた。 1884年にエドワード・ピッカリングは、北極星であるこぐま座α星を2.0等と定義して、天体の明るさの基準とした。しかし、こぐま座α星がわずかに変光することが知られてから後は、こぐま座λ星を6.5等と定義し直して、多数の北極標準星野の暗い星の観測が行われた。そして、1922年の第1回国際天文学連合総会において、北極標準星野の96個の星の国際写真等級 (IPg) と国際写真実視等級 (IPv) が定められ、原点とされた。これは、国際式PgPvシステムと呼ばれる。 1953年、ハロルド・レスター・ジョンソンは、北極標準星野の恒星が星間物質による赤化を受けていることなどから、彼の提唱するUBVシステムでは等級の原点を以下のように定め直した。 北極標準星野の6つの恒星の国際写真実視等級をV等級の原点とする。 U等級とB等級は、A0Vのスペクトルを持つ、こと座α星(ベガ)、おおぐま座γ星、おとめ座109番星、かんむり座α星、へびつかい座γ星、HR 3314の6つの星の平均の U − B、B − Vを0として(すなわち U = B = V として)定める。 各波長の0等級がどれだけの放射流束密度に対応するかは、星のスペクトルエネルギー分布(SED)を測って決められる。ベガは最も高い精度でSEDが測定されていたことから、ベガのSEDを基に等級と放射流束密度の対応が定められた。このような背景からベガ等級という通称で呼ばれる。この通称とベガの見かけの等級が0等級に非常に近いことから「ベガの見かけの等級を0等級と定めたもの」と誤解されがちだが、UBVシステムの等級の原点は上記のように定義されており、実際にはベガの見かけの等級は、U = 0.02等、B = 0.03等、V = 0.03等と、0等級からわずかに外れた値となっている。このわずかな補正を除けば、ベガの明るさは、可視光と近赤外の波長では0等級の定義として機能しており、そのスペクトルエネルギー分布 (SED) は、11000 Kの黒体のそれに近い。しかし、赤外線天文学の登場によって、ベガの放射には、おそらく高温の(ただし星の表面よりもはるかに冷たい) ダストからなる星周円盤を原因とする赤外超過が含まれていることが明らかとなった。可視光などのより短い波長ではダストからの放射は無視できるが、等級のスケールを赤外線より長い波長まで適切に拡張するためには、ベガのこの特徴が等級の定義に影響を与えるべきではない。そこで、星周円盤からの放射が混入しない11000 Kの理想的な恒星表面の黒体放射曲線に基づいて、全波長への等級スケールが推定された。これに基づいて、波長の関数として、ゼロ等級の分光放射照度 (通常はジャンスキー (Jy) で表される)を計算することができる。 ベガ等級は、ベガのSEDを反映しているため、異なる波長帯での光度を比較するには不便であった。そのため、特定の天体のSEDではなく、各波長帯において一定の値の放射流束密度を原点とする方式が考案された。最も広く使用されているのはAB等級 (AB magnitude, monochromatic magnitude) で、各波長帯での0等級に相当する放射流束密度3630 Jy(正確には103.56 Jy)と定めたものである。AB等級では、Vフィルタの帯域にある波長548.0 nmのとき、0.03等でベガ等級と一致するように定義されている。
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