文房四宝

文房四宝(ぶんぼうしほう)は、中国文人の文房趣味のひとつで筆(ふで)・墨(すみ)・硯(すずり)・紙(かみ)の四つをさす。別に文房四友(ぶんぼうしゆう)という言い方もある。これらは文房具の中心であり、特に賞玩の対象となった。
概説
この四つの文房具の中でも特に硯(すずり)が重んじられ、多くの文人に愛でられる対象となった。使用しても消耗することが少なく、骨董価値が高かったためである。次に墨(すみ)・紙(かみ)という順で、筆(ふで)は新しくないと実用的でないので骨董的な価値に乏しく、愛玩の対象とはあまりならなかった。
唐代においても硯や墨の優り劣りについて論じたという記録があるが、南唐文化の影響を色濃く受けた宋代以降に文房四宝が語られることが多くなった。硯は端渓硯がもっとも有名であるが、歙州硯も同じくらい賞玩され、墨も歙州に名工と評される李超・李廷珪父子が名を馳せ、張谷もこの地に移ってきた。紙についても、歙州にて澄心堂紙という極めて良質の紙が産出された。宋初には硯・墨・紙について、歙州は代表的な生産地となっていた。これは南唐の国王である李中主・後主の親子2代にわたる工芸優遇政策によるところが大きい。工人に官位を与え俸禄を優遇したため、すぐれた人材が集まり、技術が高度化して、良い製品を継続的に生産できるようになったのである。
南唐期の文房四宝は歴代皇帝に珍重され、復元が試みられた。また、葉夢得・唐詢・欧陽脩・蘇軾・米芾・蔡襄など名高い文人、書家も重用した。
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墨と硯
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筆
関連文献
- 蘇易簡『文房四譜』
硯
出典
- 青木正児『琴棊書画』東洋文庫、1990年、ISBN 4582805205。
- 村上哲見『中国文人論』汲古書院、1994年、ISBN 4762950122。
外部リンク
いずれも故宮博物院所蔵のもの。
- 清朝乾隆帝時代の文房四宝(墨) - ウェイバックマシン(2016年3月4日アーカイブ分)
- 清朝乾隆帝時代の文房四宝(墨) at Archive.is (archived 2013年1月5日)
筆墨紙硯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/06 07:42 UTC 版)
詳細は「文房四宝」を参照 文房趣味とは、文房(書斎)を中心に発展した中国文人の趣味である。文房清供あるいは文房清玩という場合もほぼ同義である。 本来的に読書人である文人は文房において起居し、同時に趣味生活を実現する拠点とした。「明窓浄几」と表現されるように明るく清浄な書斎の環境が理想とされ、この限られた空間はひとつの小宇宙と見做され、そこに関わる文物のほとんどが趣味嗜好の対象となった。この萌芽は漢代にまで遡れるが、六朝から唐にかけて発展し、宋代に骨格が築かれ、元代では一旦衰退するが、明代において隆盛となり、清代までその余波が続いた。六朝および唐においては華麗にして典雅な貴族趣味が好まれたが、宋代になると庶民的な質素さを基調とする趣致が好まれるようになる。この質朴とも言える趣致は道教の清浄の概念に由来し、貴族的な雅趣と庶民的な野趣を併せ持つ「清」という価値で表現される。この宋代に生まれた清(清逸・清楚)なる趣致は後代まで受け継がれて発展していき、単なる遊戯であるはずの趣味を芸術の域にまで引き上げた。 文房趣味の代表格として筆・墨・硯・紙が挙げられる。これらは文房具の中心であるので文房四宝・文房四友とも称される。単なる文房具であるはずが、特に宋代以降になると鑑賞・蒐集・愛玩・収蔵の対象物となり、生産地や工人がブランド化されその優劣が盛んに論じられるようになる。 しかし、文房趣味の精髄をと問われれば、文物の鑑賞に終始する好事家であるばかりでなく、文房生活の享楽の追究であるといわなければならない。文房では欠かせない喫茶や香の習慣は味覚や嗅覚までに雅俗認識が及んでいるが、一方で生活の質を向上させ、修養にも通じているといえる。明末の文震享の『長物志』(訳注は、平凡社東洋文庫全3巻)は、この趣味をもっともよく体系化しており、室盧・花木・水石・禽魚・書画・几榻・器具・衣飾・舟車・位置・蔬果・香茗の12門に分類している。文房趣味がファッション(=衣飾)やインテリア(=位置)まで及んでいたことが注目される。このほかに明初の曹昭の『新増格古要論』・明末の張応文の『清秘蔵』・万暦年間の高濂の『遵生八戔』・屠隆の『考槃余事』などに文房趣味が論じられている。専門書も多く、挿花・盆栽などの園芸についてや金魚の飼育について述べられたものがある。変ったところでは、怪石の蒐集、鶴の飼育などが挙げられる。 文房で古書画の鑑賞に浸り、墨を擦り、詩を詠じ、友と酒を酌み交わして清談に耽ることが文人の理想的な文房生活といえる。
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