移動の省略
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/26 15:09 UTC 版)
現実世界に住む我々が隣の家を尋ねるのと海を越えて別の国に旅行に行くのでは意味が大きく異なるように、移動にかかる時間が長くなれば費用もかかり経済面が圧迫される。また、移動の手段や移動を行っている地形によっては、何か事故などの不利益なことが起こる可能性も考えられる。 シーン制を採用していないTRPGの多くは、キャラクターが様々な場所を移動することによって起こりうるリスクを表現するために何らかのルールを黎明期から実装してきた。現実世界のことを考えると長距離の移動には短距離の移動よりもリスクがあって当然なのである。キャラクターの移動のリスクの表現のために良く使われていたのが、キャラクターごとに移動速度を設定し、移動した距離から「移動時間」を算出して、その時間が長ければ長いほど危険に出会う確率が増すという考え方である。「野外を徒歩で移動している場合、移動時間が8時間経つごとに六面体サイコロを1個振り、3以下の出目が出れば怪物と遭遇する」などといった具合である(エンカウントの項目も参考)。他にも「キャラクターは一日にパン一枚と水一杯を摂取しない限り、能力値が減少する」などといった形で移動時に食料に関するリスクを持たせるルールも多い。これは、移動距離が長ければ長いほど経済的コストがかかることを表している。また、キャラクターが持てる所持品の数量に限界が設けられているゲームの場合は大量の食料を持ち歩くことはできず、何ヶ月にもわたる旅を行う場合は食料や水の補給できる場所を定期的に立ち寄る必要があるという旅程計画の難しさを移動のリスクとして表現することもできる。 しかしシーン制のTRPGではこの移動のリスクを極端に簡略化して表現している。シーン制のTRPGでは移動のリスクは「キャラクターが到着したい場所を描写したシーンに登場できるかどうか」だけで表現される。。 例えば、「六面体サイコロを振って4以上が出れば、あなたは費用や時間を工面して無事にアメリカにたどり着けた」などという形で移動を表現するのである。移動中のリスクを一つ一つ描写してそれを一つ一つプレイヤーキャラクターたちに解決させるというようなことは行われず、ただ到着場所の「シーン」への登場が成功したか失敗したかだけを決定するのである。シーンの登場に成功した場合は「様々な危険があったが、それを無事乗り越えてたどり着いた」として解釈され、シーンの登場に失敗した場合は、いろいろなことがあって行きたい場所にたどり着けなかったと解釈される。シーンへの登場の成否を決定する方法はゲームシステムにより様々で、キャラクターの持つ何らかの能力値を使った行為判定により登場の成否を決定するもの(アルシャード、トーキョーN◎VAなど)、キャラクターが所持している何らかのポイントを消費することでシーンに登場可能となるもの(異能使いなど)、その逆にキャラクターにとってリスクとなるポイントを受け取ることでシーンに登場可能となるもの(ダブルクロスなど)などがある。また、シーンへ登場できるかの成否の決定は完全にゲームマスターの判断のみにゆだねられるものもある(アリアンロッドRPGなど)。行為判定により登場の成否を決定できるものの場合は、行為判定の難易度の設定によってシーンで描写される場所への移動のリスクを可変的に表現することも可能である。 シーン制のゲームでは上記のように移動におけるリスクを表現する処理を極端に簡略化しているのが特徴ではあるが、これは必ずしもプレイヤーキャラクターの移動における「移動時間」や「速度」の概念を排除しているとは限らないことに注意が必要である。シーン制のゲームでもプレイヤーキャラクターごとに移動速度が設定され、ゲーム内での一定時間ごとの移動距離が計算できるものは多い。ただ、それらは主に戦闘シーンなどで用いられる移動速度である。つまり、登場した「シーン」の中での移動は速度や時間で管理されるが、「シーン」から「シーン」への移動については速度や時間を管理しない、という二つの移動概念を持つのである。シーン内での移動に関する距離や速度、時間などを具体的に管理しているシーン制TRPGとしては、スタンダードRPGシステムの諸作品などが代表的である。 また、ダンジョンアドベンチャーに重きを置いたシーン制TRPGであるアリアンロッドRPGやナイトウィザードは、戦闘シーンなどでの移動の厳密化に加えて、「シーン」から「シーン」への移動についてもダンジョンの中と外でルールが異なっている。これらのゲームではダンジョンを「シーン」の集合体として表現している。いわば、ダンジョンの部屋や通路がそれぞれシーンとして扱われるのである。そして、キャラクターがある部屋や通路から扉などをくぐって別の部屋や通路へ移動することでシーン間移動が可能になる。つまり、実際に部屋や通路でつながったシーンにしか移動できず、ダンジョン内での移動に関するプレイ感覚はシーン制でないTRPGに極めて近い。 これらとは逆に、シーン内の移動に関しても距離や速度の概念を簡略化しているゲームも存在する。異界戦記カオスフレアやレジェンド・オブ・フェアリーアースなどがそれで、これらのゲームではシーン内では位置という概念は持つが距離という概念をゲーム的にもたない。プレイヤーキャラクターはシーン内の様々な位置に存在している人や物などに対して接触するための移動を行ことができる。しかし、その時にプレイヤーキャラクターと接触対象物との彼我距離は一切移動のリスクとしては表現されない。例え接触したい相手がはるか上空にいると描写されても、その上空が「シーン内」ならば、1回の移動を宣言するだけでそこにたどり着けるのである。逆に、接触したい相手がすぐそばにいると描写されても、1回の移動を同じように宣言する必要がある。このような距離の徹底的な簡略化は、戦闘においては大規模な戦場を簡単に描写できるということであり(どれだけ遠くに敵がいるような描写がされても、ルール的にはすぐそばにいるのと同じように処理できる)、プレイヤーキャラクターが初期状態から一騎当千の超人であるとして描かれるゲームにおいては、キャラクターイメージを理解させるのに有効に機能する。(ただし、『異界戦記カオスフレア』においては、GMが必要であれば複数回の移動を必要とする移動を表現してよい旨がルールに記述されており、距離の表現を否定しているわけではない。また、実際にそのような処理を記述した公式シナリオなどもリリースされており、シーン内であれば“必ず”移動できるわけではない。念の為)
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