相殺の消極的要件(相殺禁止事由)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/06 21:43 UTC 版)
「相殺」の記事における「相殺の消極的要件(相殺禁止事由)」の解説
相殺適状を満たしていても、以下の場合には相殺をすることが許されない。これを相殺禁止事由という。 当事者間に相殺を禁止または制限する合意がある場合(505条2項)相殺禁止特約を付けた場合など、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には相殺できない。2017年の改正前の民法505条2項では「反対の意思表示」となっていたが、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で具体化された。 このような特約は善意無重過失の第三者には対抗できない(505条2項)。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で善意から善意無重過失に変更された。重大な過失なく特約を知らずに債権を譲り受けた者は相殺できる。 法律上、相殺が禁止されている場合不法行為債権等を受働債権とする相殺悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務(509条1号)2017年の改正前の民法509条は「債務が不法行為によって生じたとき」と定めていたが、その趣旨は現実の給付による被害者の救済と不法行為の誘発の防止であることから、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)では適用範囲を明確にするため、同条1号として「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」を受働債権とする相殺の禁止が定められた。本条1号の「悪意」とは積極的に相手を害する意思があった場合をいう。 不法行為の加害者(不法行為による損害賠償債権の債務者)の側から相殺を主張することは許されない。一方、不法行為の被害者(不法行為による損害賠償債権の債権者)から相殺を主張することはできる(最判昭42.11.30)。 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(509条2号)2017年の改正前の民法509条は「債務が不法行為によって生じたとき」と定めていたが、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で被害者救済のためには、生命・身体の損害を理由とする損害賠償請求権の場合は、不法行為に基づく損害賠償債権だけでなく債務不履行に基づく損害賠償債権(医療過誤や安全配慮義務違反など)についても相殺禁止の対象とすべきとされた。 相殺禁止の除外以上の場合であっても、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたものであるときは相殺できる(509条ただし書)。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で追加された。 差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない(510条)。 民法ほか各種の特別法で、現実に支払われなければならない性質の債権は、履行を確実にするため相殺を禁じている。民法では扶養請求権(881条)等がある。 差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止原則として差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできない(511条1項)。 差押え前に取得した債権で相殺することはできる(511条1項)。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で差押え前に取得した債権による相殺についての判例の立場とされ実務でも定着している無制限説が明文化された。 差押え後に取得した債権であっても差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる(511条2項本文)。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で差押え時には自働債権は発生していなくても、その発生原因が生じていた場合には相殺をすることを認める趣旨で追加され相殺できる場合が拡大された(破産法の相殺禁止規定のほか、委託を受けた保証人が破産手続開始決定後に保証債務を履行し、その求償権を自働債権として相殺することを認めた判例などが参考にされた)。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは相殺できない(511条2項ただし書)。 解釈上、自働債権とすることができない債権である場合相手方が抗弁権をもっている債権(同時履行の抗弁権、催告の抗弁権・検索の抗弁権等) 差押えを受けた債権 破産法・民事再生法・会社更生法・労働基準法などで相殺を禁止される場合
※この「相殺の消極的要件(相殺禁止事由)」の解説は、「相殺」の解説の一部です。
「相殺の消極的要件(相殺禁止事由)」を含む「相殺」の記事については、「相殺」の概要を参照ください。
- 相殺の消極的要件のページへのリンク