甲鉄板(装甲)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 06:35 UTC 版)
飛来する敵弾をはね返す目的で装備される鉄板。自艦の搭載する主砲弾の攻撃に耐えられるだけの装甲を施すことが求められていた。艦の水線部近辺に垂直(後に傾斜して装備する装甲も生まれた)に装備する水線甲鉄と水平な甲板に装備する甲板甲鉄があり、どちらも特殊鋼でできている。甲鉄に求められる重要な性能は主に次の2点である。 敵弾の侵入を阻止する硬さ 衝撃を受けても割れにくいこと これらは鉄鋼にとって相反する性能であり、従来技術では1種類の材質では達成が困難であった。そこで1890年代までは日本の初代戦艦「富士」などが、硬いがもろい鉄板を外側に、粘り強いが柔らかい鉄板を内側に張り合わせた「複合甲鉄」を用いていた。1890年代にアメリカ人のハーヴェイがニッケル鋼の表面に浸炭処理を施し、表面のみ硬化させて耐弾力を飛躍的に強化した「ハーヴェイ鋼」(ハーヴェイ・ニッケル鋼)を発明した。富士級の水線甲鉄は「複合甲鉄」で457mmあったが、敷島級は「ハーヴェイ鋼」、三笠は、クルップ鋼を使い 229mm に半減でき、耐弾力は富士を上回った。その後、甲鉄は順次改良が施されたが基本的には表面浸炭処理技術を用い続けている。 水線甲鉄の厚さは主砲の強化に従って増加し第一次世界大戦直前で255-305mm、第一次世界大戦期で305-330mm、「大和」では 遂に410mm に達した。一方、甲板甲鉄は第一次世界大戦まであまり問題にされず50-100mmだった。その後、日露戦争〜ユトランド海戦の損害や戦後の実艦を用いたテストで、遠距離砲戦時の艦水平部への着弾が大きな損害につながることが判明し、第二次大戦前に建造された艦は甲板部の甲鉄を強化している。独が120mm、米英で150mm前後、仏伊で200mm未満、大和では200mm強の厚さがあり、砲弾だけでなく航空機による急降下爆撃にも十分な防御力を持っていた。しかし、甲板防御は水線防御に比べて広範囲を覆う必要性があり、装甲を水平に貼ることによる重量増加が懸念された。そのため、水線部の装甲を内側に傾斜させて装甲を貼る傾斜装甲方式が開発され、列強の多くはこぞって新戦艦に採用して重量の軽減化に努めたが、イギリスとドイツは独自の理論に基づき、イギリスはネルソン以降から再び垂直装甲に立ち帰り、一方ドイツは垂直装甲に固執した。 また、第一次世界大戦以降では、重量問題から艦全体に十分な装甲防御を施すのは困難であり中庸で不十分な装甲厚では無駄が多いとして、主要部分のみ十分な装甲厚を配分する「集中防御方式」が戦艦の防御の標準となった。ただしドイツ海軍の戦艦は独自の理論により、全体防御を採用し続けていた。 自艦の主砲弾に耐えられる装甲は戦艦の設計条件とされ、この定義を満たさず防御力を妥協して速力を高めた艦は巡洋戦艦と呼ばれる。ただしこれは結果論による定義であり、元来の巡洋戦艦は巡洋艦から発達したものである。逆に若干であるが防御力を妥協して速力を高めた戦艦も存在し、現実には「自艦の主砲弾に耐えられる装甲」という定義は絶対的なものではない。
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