特色と影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/12 04:29 UTC 版)
ラファエル前派の絵画の特色として、以下のことが挙げられる。まず、主題としては中世の伝説や文学、さらに同時代の文学にも取材している点が新しい。また従来のキリスト教主題を扱うにしても、伝統的な図像を無視する場合が多い。画風は、初期ルネサンスや15世紀の北方美術を真似て、明暗の弱い明るい画面、鮮やかな色彩、そして細密描写に特色がある。 ラファエル前派は自然にとっての真実性を追求することを徹底していた。その作品群には、人物モデルを可能な限り忠実に描いて作品空間に取り込む姿勢が見られる。ラファエル前派の作品に共通する女性像は想像力の産物というよりも、現実のモデルの自然な姿を映したものといえる。自然な姿を忠実に取り込むことに関しては、背景となる風景や事物にも同様の姿勢で貫かれており、室内制作ではなく、野外で自然を観察しながらの制作が行われた。 個々の対象物を細密に描写する反面として、遠近法が無視された構図や、部分が忠実に描かれることによって中心が曖昧となった作品、不自然なアトリビュートの存在など、ラファエル前派の絵画には結果的に絵全体がリアリスティックでなくなってしまう特徴がある。 ラファエル前派に思想的な面で影響を与えたのは、同時代の思想家であり美術批評家であったジョン・ラスキンであった。ラスキンの美術に対する考えは、一言で言えば「自然をありのままに再現すべきだ」ということであった。この思想の根幹には、神の創造物である自然に完全さを見出すというラスキンの信仰がある。しかし、明確な理論をもった芸術運動ではなかったラファエル前派は長続きせず、1853年にミレイがロイヤル・アカデミーの準会員になったことなどをきっかけとして、数年後にはグループは解散した。 ラファエル前派をはじめとする19世紀イギリスの絵画は、明治時代の日本でも「明星」や「スバル(昴)」などの文芸雑誌に紹介されながら、美術家(青木繁、藤島武二など)や文学者(夏目漱石など)にも影響を与えた。例えば、詩人の蒲原有明は、ロセッティの詩を盛んに翻訳して理解を深め、自らの作品にもその詩風を活かした。また、藤島武二の『天平の面影』(1902年)には、ラファエル前派の作品にしばしば描かれる婦人像の投影がみられる。
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