無期転換申込権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/07 02:37 UTC 版)
「期間の定めのない労働契約#有期労働契約からの転換」も参照 同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約が通算して5年を超える労働者が使用者に対し、現に締結している労働契約の契約期間満了日までに、契約期間満了日の翌日以降期間の定めのない労働契約を申し入れたときは、使用者は当該申し込みを承諾したものとみなされる(無期転換申込権、第18条1項)。有期労働契約については、契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されずに終了する場合がある一方で、労働契約が反復更新され、長期間にわたり雇用が継続する場合も少なくない。こうした中で、有期契約労働者については、雇止めの不安があることによって、年次有給休暇の取得など労働者としての正当な権利行使が抑制されるなどの問題が指摘されている。こうした有期労働契約の現状を踏まえ、無期転換ルールを設けることにより、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ることとしたものである。 「同一の使用者」は、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断される。ただし、使用者が、就業実態が変わらないにもかかわらず、無期転換申込権の発生を免れる意図をもって、派遣形態や請負形態を偽装して、労働契約の当事者を形式的に他の使用者に切り替えた場合は、法を潜脱するものとして、通算契約期間の計算上「同一の使用者」との労働契約が継続していると解される。なお、派遣労働者の場合は、労働契約の締結の主体である派遣元事業主との有期労働契約について通算契約期間が計算される。 無期転換申込権は、「2以上の有期労働契約」の通算契約期間が5年を超える場合、すなわち更新が1回以上行われ、かつ、通算契約期間が5年を超えている場合に生じるものであること。したがって、労働基準法第14条1項の規定により一定の事業の完了に必要な期間を定めるものとして締結が認められている契約期間が5年を超える有期労働契約が締結されている場合、一度も更新がないときは、第18条1項の要件を満たすことにはならない。 無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させることを認めることは、雇止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、第18条の趣旨を没却するものであり、こうした有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解される。 第18条1項による無期労働契約への転換は期間の定めのみを変更するものであるが、「別段の定め」をすることにより、期間の定め以外の労働条件を変更することは可能である。この「別段の定め」は、労働協約、就業規則及び個々の労働契約(無期労働契約への転換に当たり従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期契約労働者と使用者との間の個別の合意)をいうものである。この場合、無期労働契約への転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後における労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではない。なお、就業規則により別段の定めをする場合においては、第18条の規定が、第7条~第10条までに定められている就業規則法理を変更することになるものではない。 有期契約労働者が無期転換申込権を行使することにより、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約がその行使の時点で成立していることから、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日をもって当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする使用者は、無期転換申込権の行使により成立した無期労働契約を解約(解雇)する必要があり、当該解雇が第16条に規定する「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となる。また、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日前に使用者が当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする場合は、これに加えて、当該有期労働契約の契約期間中の解雇であり第17条1項の適用がある。なお、解雇については当然に労働基準法第20条の解雇予告等の規定の適用がある(平成24年8月10日基発0810第2号)。 2以上の有期労働契約の間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が6月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む2以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が1年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上である場合は、空白期間より前の有期労働契約の期間は通算労働期間に含まない(第18条2項)。法及び厚生労働省令(「労働契約法第十八条第一項の通算契約期間に関する基準を定める省令」。平成24年厚生労働省令第148号)の規定により、同一の有期契約労働者と使用者との間で、所定の無契約期間を置いて有期労働契約が再度締結された場合であって、当該無契約期間の長さが所定の要件を満たすときは、当該無契約期間は空白期間に該当し、当該空白期間前に終了している全ての有期労働契約の契約期間は、第18条1項の通算契約期間に算入されない なお、第18条の規定については、経過措置として、同条施行日(平成25年4月1日)以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用し、当該施行日前の日が初日である期間の定めのある労働契約の契約期間は、同条1項に規定する通算契約期間には、算入しない(附則2項)。
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